第79話 特別食堂での昼食

 先生大興奮の魔法具の授業が終わり、お昼休憩になった。俺はタウンゼント公爵家の特別食堂に行かないといけない。早めに行ったほうがいいよな。


「レオンはお昼どうするの? 大食堂で食べる?」


 俺が椅子から立ち上がると、ロニーにそう聞かれた。


「ううん、俺は公爵家の特別食堂で食べないといけないんだ。一緒に食べられなくてごめんね……」

「別に気にしなくて大丈夫だよ。多分レオンがいなかったら、お昼どころか一日中一人だったから」


 そんな悲しいこと言われると、ロニーを一人で大食堂に行かせる申し訳なさが募る……

 うーん、ロニーを公爵家の特別食堂に招くのって無理なのかな? 流石に無理かな……

 一応、ロニーの意思だけは聞いておこう。


「ロニー、もし公爵家の特別食堂でロニーも食事を取れるって言われたらどうする?」

「僕も!? そ、それは、ちょっと無理かな……」


 ロニーは自分が公爵家の特別食堂にいるところを想像したのか、少し顔を青ざめさせてそう言った。

 やっぱりそうだよな。絶対にそういうと思った。大食堂で一人で食べたほうが気楽だもんな。そこで友達ができる可能性もなくはないし。


「やっぱりそうだよね。じゃあ俺は行ってくるね。また午後にね!」

「うん。行ってらっしゃい」


 そうして俺は特別食堂に急いできたんだけど、衝撃の事実に気づいた。俺、公爵家の特別食堂の場所知らない!!

 朝は色々考えて頭がいっぱいで、お昼のことなんて頭から抜けてた。また放課後にねって言って別れた気がする……何やってるんだ俺! 

 今日は大食堂で食べることにするか? でもリュシアンは俺がくると思ってたら、心配するよな。

 どうしよう……たくさんの扉が並んでるけど、全部番号が書かれてるだけで、借りている貴族家の名前は示されていない。端から開いて確かめるなんて論外だし……

 リュシアンがまだ来てなくてこれから来るのならいいんだけど、すでに特別食堂の中にいた場合どうやって見分ければいいのかわからないよ!


 俺が焦ってオロオロしていると、近くの扉が開き中から使用人が出てきた。

 あれ? この人リュシアンの従者の方だ!

 俺は知ってる人を見つけて心底ほっとした。この場所に留まって、他の貴族が来たら絡まれる予感しかしないし、マジで安心した。


「レオン様、こちらの部屋にお入りください」

「ありがとうございます」


 部屋に入ると、そこまで広くはないがかなり豪華な部屋だった。部屋の奥には扉があり、真ん中に大きめのテーブルと六つの椅子がある。

 その一つの椅子にリュシアンが座っていた。


「レオン、今日の朝は昼食のことを忘れていてすまなかった。レオンに、タウンゼント公爵家の特別食堂の番号を教えていなかったよな?」

「いえ、私も忘れていて申し訳ありませんでした。リュシアン様の従者の方が案内してくれましたので、迷わずに済みました。ありがとうございます」

「いや、いいんだ。座ってくれ」

「かしこまりました。失礼致します」


 俺が席に座るとリュシアンが従者の方に給仕を頼み、昼食を全て並び終えると、厨房に下がらせた。

 奥にある扉から料理を運んで来たので、そっちが厨房になっているんだろう。従者の方は厨房に下がっていった。


「レオン、そこまで大きな声でなければ厨房まで声は聞こえないから大丈夫だ」

「そうなんだ。じゃあ普通に話すね」

「ああ、じゃあ食べようか」

「うん。いただきます」

「いただきます」


 う〜ん、美味しい! 公爵家の料理人って腕がいいんだよな。どの料理も絶品だ。


「レオン、授業はどうだった?」

「うーん、まだ二つしか受けてないけど結構楽しかったよ。魔法具の授業があったんだけど、なんていうんだろう……魔法具に情熱を注いでる先生だった」


 凄い先生だったよな……後半はひたすらに魔法具の素晴らしさを語ってた。


「あの先生が魔法具研究会の先生なら、面白そうだけどちょっと大変そうかも」

「魔法具の先生は一人しかいないはずだ。多分その先生が魔法具研究会の先生だろう」

「そうなんだ。リュシアンは今日魔法具の授業あるの?」

「ああ、私は三限が魔法具の授業だ。少し楽しみだな」


 あの先生は、Aクラスでもあのスタイルを貫くのだろうか? この学校は、一応先生の方が立場が上だってことになってるけど……建前だけとも言ってたよな。

 でも、あの先生ならあの感じを貫きそうだ。あのタイプの人は魔法具の研究以外のこと、例えば出世や身分とかは全然気にしないタイプな気がする。最低限の礼儀さえ守ればいいだろって思ってそう。

 リュシアンにとっては、そういうタイプの人に会うほうが珍しいだろうから楽しめるんじゃないかな?


「多分楽しめると思うよ。リュシアンのクラスはどんな雰囲気なの? 穏やかな感じ?」

「そうだな……表面上は穏やかに見えるけど、裏では何を考えているのかわからないって感じだな。ただ、同じ勢力に属する貴族家の子供とは、少し仲良くなれた気がするぞ。後は、ステファンとマルティーヌと一緒にいると、恨まれるか擦り寄られるかのどちらかが多いから、少しだけ疲れるな。純粋に私と仲を深めたくて話しかけてくれる者は貴重だ」


 やっぱり貴族って怖い……リュシアンも大変だな。リュシアン友達ができるかもって楽しみにしてたのに、落ち込んでるのかな?


「思ったほど学校楽しくない?」

「なんでだ?? 私はすごく楽しいぞ」

「でも、恨まれたり擦り寄られたりが多くて疲れるって……」

「ああ、確かに疲れるが、それもまた楽しいだろう? それに少しは仲良くなれそうな者もいるし、何よりレオン、ステファン、マルティーヌと仲良くなれたからとても楽しいぞ!」

「そ、そっか……それなら良かったね」


 やっぱりリュシアンも貴族だな。たぶん腹の探り合いや恨まれたり擦り寄られたり、そういうことが当たり前の価値観なんだろう。

 俺ならそんなの嫌だ……って言いたいけど、既に俺もその状況なんだよな。日本でのほのぼのとした学生生活が懐かしすぎる。


「レオンはどうなんだ? 学校は楽しいか?」


 俺はどうなんだろう? 結構散々な学生生活の始まりだったよな……

 でも友達もできたし、やっぱり学校という空間は懐かしくて好きなんだ。皆で授業を受ける雰囲気も好きだし。

 それに、まだ二つの授業しか受けてないけど、授業内容も結構楽しそうだった。


「俺は、大変なこともあるけど楽しいかな」

「それなら良かった!」


 リュシアンが満面の笑みで笑った。こうやって、リュシアンと一緒にお昼ご飯を食べられるのも楽しいしな。

 それによく考えれば、この世界での学びは贅沢なものなんだ。思いっきり学べる環境なんてすごく贅沢だ。ここで文句ばかり言っていたらバチが当たるよな……この学校でできる限りのことを吸収しよう。


「せっかく学べる機会をもらえたんだ。楽しまないと損だよ。公爵家のためにも精一杯頑張るね」

「ああ、レオンありがとう」

「こちらこそ、仲良くしてくれてありがとう。これからもよろしくね」

「当たり前だ!」


 この後もリュシアンと色々な話をしながら、楽しい昼休みを過ごした。

 午後も頑張ろう!

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