第74話 レオンの後ろ盾

 やっと終わったか……疲れた。早めに馬車まで行かないと、リュシアンを待たせてるかもしれないからな。

 そう思って立ち上がり、教室から出ようとしたところでロニーに話しかけられた。


「レオン、もう帰るの?」

「うん。早く行かないと人を待たせてるかもしれないから」

「そうなの? レオンがよければ一緒に帰ろうかと思ったんだけど、そう言えばレオンってどこに住んでるの? 僕は少し遠いんだけど、安いアパートを見つけたからそこに住んでるんだ。もし同じ方向なら一緒に帰れるかな?」


 どうしよう……タウンゼント公爵家のこと話しても大丈夫かな? ロニーも少しは落ち着いたみたいだし、後で知った方がショックがでかいよな。嘘をつくのも嫌だし。

 タウンゼント公爵家的には俺との関係を公表して、レオンの後ろ盾はタウンゼント公爵家ってことを強調したいだろうから、逆に話した方がいいだろうし。


「ロニー、驚かないで聞いてね」

「うん。どうしたの?」

「入学式の時に、貴族との縁があって王立学校に入学したって言ったけど、その貴族がタウンゼント公爵家なんだ。それで公爵家の屋敷に住まわせてもらってる」

「公爵家……? レオンが、公爵家の、屋敷に、住んでるの?」

「そう。だけど俺は平民だからあまり気にしないで。今まで通り友達でいてくれたら嬉しい……ただ、そういうことだから一緒には帰れないんだ……ごめんね」

「うん、それは別にいいんだけど……公爵家?」


 ロニーは頭の処理が追いついていないらしく、ぼーっとしている。ロニー、急にこんなこと言って本当にごめん!

 でも、とりあえず今は帰ってもいいかな。リュシアンとはいえあまり待たせるのは良くない。


「じゃあ、あまり待たせられないから、とりあえず今日は帰るね」

「うん…………」


 とりあえずロニーには、事実を話したからいいことにしよう。また明日ちゃんと説明すればいいよな。

 俺は自分でそう納得して、今度こそ帰ろうと教室の出口に足を踏み出した。しかしそこで、また俺を止める声が後ろから掛かった。


「お前、確かレオンだったか? そんな嘘ついていいと思ってるのか」


 サリムだ。あぁー、こいつマジでめんどくさい。急いでるっていうのに。


「嘘じゃなくて本当のことだよ」

「公爵家が平民の後ろ盾になって王立学校に通わせるなんて、絶対にあり得ないだろ。今すぐ撤回した方が身のためだぞ」


 こんな嘘つくわけないだろうが、なんで本当だとは思わないんだ? まあ、公爵家が平民の後ろ盾になって王立学校に通わせるなんて、今まではなかったのかもしれないけど、公爵家の名前を使った嘘を平民が言うわけないじゃないか。


「別にお前に信じてもらう必要はない。俺は嘘をついてないからな」

「じゃあ、お前は騙されてるんだな。どこかの詐欺師にでも引っかかったんじゃないか? ははっ、笑えるな」


 どこの詐欺師が子供を騙して王立学校に通わせるんだよ! 詐欺師にメリットないだろうが!

 サリムって馬鹿なのかな? でも試験には受かってるんだよね。まあ、あんなの真剣に勉強すれば受かるか。多分ギリギリで入学できたタイプだろうな。

 もうめんどくさい、無視でいいかな。そのうち、俺がタウンゼント公爵家の馬車に乗ってくることが知られて、嘘じゃないって理解するだろう。それまで放置でいいや。


 俺はめんどくさすぎて、そのまま放置して帰ろうとした。


「お前逃げるのか!」


 逃げるんじゃねぇよ! こっちは忙しいんだ!

 俺はちょっと頭に来て、振り返って言い返してやった。


「逃げるんじゃないから。俺は忙しいんだよね。お前みたいな、めんどくさくて話が通じない馬鹿に付き合ってる暇はないの」


 俺がそういうとサリムは怒りが頂点に達したのか、顔が真っ赤になっている。

 そうして、サリムがまた何かを叫ぼうとした瞬間、俺の後ろから声が掛かった。


「レオン、何やってるんだ?」


 その声に、サリムは驚きの表情を浮かべたままフリーズしている。まだ教室にはほとんどの生徒が残っていたが、その誰もが俺の後ろを見てフリーズしている。

 この声は……なんでこの教室にいるんだ?

 俺は後ろを振り返り、その声の人物に挨拶をした。


「リュシアン様、このような場面を見せてしまい申し訳ございません」


 リュシアンなんでこの教室に来たんだよ! まあ、俺にとってはタウンゼント公爵家の後ろ盾があることを示せて、感謝すべきことなのかもしれないけど、それにしてもめちゃくちゃ目立ってるよ。さすがにEクラスの教室に来るのはやりすぎじゃないか?

 もう、目立たず過ごすのは無理だな……何日かは普通の平民としていけるかと思ってたのに……まあ、この学校だと普通の平民がめちゃくちゃ目立つから、どっちもどっちだけど。

 でも、商人の子供でもないただの貧しい平民なのに、公爵家の後ろ盾があるって目立つ要素がプラスになってないか? はぁ〜、考えるのはやめよう。


 それにしても、Aクラスの人がEクラスの教室に来るってありなの? 

 なんでここに来たんだろう……? もしかして、馬車で待ってても俺が来ないから迎えに来たとか!?

 サリムなんか無視して、早く行けばよかった……


「もしかして、馬車でお待たせしてしまいましたか?」

「いや、私もまだ馬車には行ってないから大丈夫だ」


 それなら、なんでこっちに来たんだ?


「それなら良かったです。では、私に何か御用でしょうか?」

「ああ、レオンを紹介しろと言われてな。ステファン様、マルティーヌ様、こちらへどうぞ」


 リュシアンがそういうと、ステファン様とマルティーヌが扉の向こう側から教室に入ってきた。

 え!? なんで二人が来たの!?


「こちらが私の友人のレオンです。平民ですがとても優秀で、話していると勉強になる事もたくさんございます」


 そうか、初対面ってことになってるんだよな。もしかして、これからボロが出ないように、早めにリュシアンからの紹介って形で会わせてくれたのか?

 それはありがたいけど……ちょっと目立ちすぎだよリュシアン。


「お初にお目にかかります。レオンと申します」

「レオンだな。私は第一王子でステファン・ラースラシアだ。ステファンと呼んでくれ」

「私は第一王女でマルティーヌ・ラースラシアですわ。マルティーヌと呼んでくださいね」

「かしこまりました。ステファン様、マルティーヌ様、よろしくお願いいたします」


 俺がそう言ってしっかりと頭を下げると、ステファン様は威厳ある表情で頷き、マルティーヌは少し笑顔を見せてくれた。

 その笑顔に、教室にいた他の子供たちがざわつく。皆フリーズからは戻ったみたいだね。


「私、レオンともっとお話ししたいですわ」

「ああ、私も少し話してみたいな」

「では、これから公爵家の屋敷にいらっしゃいますか? 王宮には、事前に申請していなければ訪れるのは難しいでしょう」

「それはありがたい。では公爵家の屋敷に伺おう」


 なんか公爵家に一緒に行くことになってませんか? 俺も一緒にですよね? 話の流れ的にそうですよね!

 なんかこの流れは流石に無理がないか? 普通こんな話になるのか? まあ、俺が考えてもしょうがないか……

 というか、リュシアンとステファン様、マルティーヌって仲良かったっけ? 多分今までは、パーティーで会ったことがあるくらいじゃないのか?

 今日一日で仲良くなったのかな?


「レオンもそれでいいだろうか?」

「大変光栄なことでございます」


 この流れで俺が断れるわけない。


「レオンと話していた君も、レオンを連れて行ってしまってもいいか? まだ話があるようなら少しは待つが」


 リュシアンがサリムに向かってそう言った。サリムはまだフリーズしていたが、その言葉で我に返ったようだ。さっきは真っ赤だった顔が今度は青くなってる。


「め、滅相もございません。もう話は終わっていますので、気になさらないでください」

「そうか、それならいいんだ。じゃあ行こうか」

「かしこまりました」


 俺はリュシアンに付いて歩き出しながら、チラッとロニーの方を見た。ロニーはまだ目の前で起こってることが理解できてないのか、フリーズしたままだ。

 俺がロニーに視線を合わせると、目があった。とりあえず見えてるようで良かった。

 俺は口パクで「ごめん」と告げて教室の外に出た。明日しっかり話そう。


 それからはかなり目立ちながら、三人の後ろをついて歩き、四人で公爵家の馬車に乗った。

 王家の馬車は俺たちの後ろをついてきて、二人を公爵家から王城に送り届ける役目を果たすらしい。

 はぁ〜とにかく疲れたけど、まだ気が抜けないな……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る