第73話 担当の先生と授業内容

 俺たちは教室に戻ってきて、各々席に着いた。席には名前が書いてある紙が置かれていたので、すぐに自分の席が把握出来た。

 俺の席は、廊下側から二列目の一番後ろ。右隣がロニーで、左隣があの嫌な奴だった。あんな奴と隣なんて最悪だ。

 机の横には、カバンを入れる籠みたいなものが付いていたので、そこに鞄を入れる。


 それからしばらくロニーと話しながら時間を潰していると、教室に一人の先生が入ってきた。

 結構ガタイの良い、四十代くらいに見える男性だ。日に焼けていて明らかにスポーツマンって感じだな。


「皆揃ってるな! 俺はこのクラスの担任になった、スティーブ・オーブリーだ。スティーブ先生と呼んでくれ。剣術の授業を担当している。これからよろしくな」


 なんか、暑苦しそうな人だな。剣術の先生ってところが納得だ。ファミリーネームがあるってことは貴族なんだろうけど、貴族っぽさがない。今の服装も生地は上等な物みたいだけど、動きやすそうな簡素な服を着ている。


「この学校は生徒より先生の方が立場が上ってことになってるから、身分関係なく先生には敬語を使うんだぞ。先生は基本的に、生徒には謙らないことになっている。まあ、これは建前だけのことも多いけどな」


 建前だけとか先生がそんなことを言っても良いのか? でも、正直な先生で好感が持てるかも。当たりの先生かもしれないな。


「いろいろ説明しないといけないことがあるんだが、まずは自己紹介からだ。俺が名前を呼んだら自己紹介してくれ」


 そこからは身分が高い順に自己紹介となった。騎士爵の子供たちがどんどんと自己紹介をしていく。

 名前と得意なことなどを自由に言っているが、こんなにたくさん聞いても覚えられないよ。日本でも思ったけど、自己紹介ってあんまり意味ないよな。三人目で既に覚えるのは諦めた。

 その代わり子供達を観察していると、結構がっしりとした、鍛えている体型の子供が多いことに気づいた。騎士爵ってやっぱり武勇でもらうことが多いのかな? それなら子供にも剣を教えるよな。たまにひょろっとした体型で肌も白い子供がいるので、その子供の親は研究とか武勇以外で、騎士爵をもらったのだろうか。

 それから性別でも違いがある。やっぱり女子の方が鍛えてない人が多いみたいだ。ただ、何人か明らかに強そうな女子もいるので、女性騎士を目指しているのだろう。

 まあ、全部俺の推論だけどな。


 そんな推論をしているうちに、俺の左隣のやつの順番が来た。やっとこいつの名前がわかるな。


「次、サリム」

「はい。サリムと申します。ヴォクレール商会の長男です。得意なことは計算です。何かご入用のものがございましたら、是非当商会をご贔屓ください。これからよろしくお願いいたします」


 サリムっていうのか、というかこんなとこで宣伝かよ、ブレない奴だな。さっきまでの俺に見せてた蔑みの表情はなんだったんだと思うほどの笑顔だ。商売人としては優秀なのか?


「次、レオン」


 ついに俺の番だ。こういうの結構苦手なんだよな。


「はい。レオンと申します。計算と魔法が得意です。これからよろしくお願いします」


 よし、無難に終わったな。こういうのは目立たず無難に終わらせるのが一番なんだ。


「次で最後だな、ロニー」

「はっ、はいっ!」


 ロニーは緊張で慌てすぎて、立ち上がると同時に椅子にぶつかり机にぶつかり、大きな音を立ててそれによりまた慌てている。はぁ〜これじゃあ、めちゃくちゃ目立ってるよ。


「おい、落ち着け。自己紹介するだけだぞ?」


 スティーブ先生がそういうことで、少しだけ落ち着きを取り戻したようだ。


「は、はい……すみません……ロニーと申します。よろしくお願いします」


 それだけを小さな声で言って、そのまま席に着いた。こんな性格でこれからやっていけるのか?


「よし、とりあえず自己紹介は終わりだ。同じクラスの仲間なんだ。これから仲良くやってくれ」


 仲良くなんてできるのか不安しかない。このクラスは騎士爵の子供しかいないからまだマシだと思うけど、それでも爵位があるなしには大きな差がある。

 騎士爵だと貴族の中では底辺だから、逆に平民には威張り散らせると思って、平民を虐めることで日頃の鬱憤を晴らす奴とかもいそうだよな。やっぱり全然マシじゃないかも……

 平民同士でも仲良くできそうにないし、前途多難すぎるよ。


「とりあえず今日は、授業の説明をして教科書を配ったら終わりだ。まずは授業だが、基本的にはこの教室でクラス単位で受けてもらうことになる。午前に二つ、午後に二つで一日に四つの授業だ。その四つのうち、最後の授業だけが合同授業となっていて、一年生のすべてのクラスが合同で行われる。回復の日は休みなので一週間のうち四日授業があるが、そのうちの二日が剣術で、魔法とダンスが一日ずつだ。剣術とダンスは必修だが、魔法は魔力量が四以上の者のみ必修となる。魔法の授業がない者は自由時間だ」


 回復の日は休みなんだな。ということは、四日行って一日休みのサイクルってことだ。

 それに、結構合同授業があるんだな。俺が一番気をつけないといけない時間だ。ただ、剣術の授業とか、ちょっとだけ楽しみでもあるけど。


「じゃあ、一週間の時間割を配るぞ。これ最初に配っておけば楽だったな」


 時間割なんてあるのかよ! 最初に配ってくれればさっきの説明がもっとわかりやすかったのに。

 配られた時間割には、曜日と時間と授業内容が書かれていた。これによると、一つの授業は一時間半で授業の合間に二十分の休みがあり、お昼休みは一時間半ある。

 お昼休み結構余裕あるな。

 合同授業は、剣術、魔法、剣術、ダンスの順番らしい。それ以外の普通の授業は、計算、読み書き、歴史、礼儀作法などそこまで難しくなさそうなものから、経済、政治など日本では大学生がやるようなものまである。魔法具の授業もあるみたいだ。魔法具って魔力量が多くないと作れなかったはずだけど、全員参加なのかな?

 それに、これって自動翻訳で経済と政治って訳されてるんだろうけど、どの程度の難易度なんだろう? かなり真面目にやらないと一年で卒業するの難しいんじゃないか? 頑張らなきゃ……


「基本的には、一年間この時間割で授業があるから無くさないようにな。変更がある場合は前日までに知らせることになってる。それから、毎朝一つ目の授業の二十分前くらいに俺が来て、出席確認と連絡をするからその時間には教室に来ているように」


 日本でもあった、朝の会みたいなやつか。なんか学生に戻った感じでちょっとだけテンション上がる! まあ、本当に学生に戻ってるんだけどね、異世界で。


「何か質問とかあるか?」

「はい。剣術の授業など、着替えが必要な場合はどこで着替えればいいのですか?」

「ああ、その説明を忘れてたな。訓練場には広い更衣室がある。個人の鍵付きロッカーもあるから、そこで着替えて荷物はロッカーに入れるんだ」

「わかりました。ありがとうございます」


 一番前の席に座ってる、真面目で堅物そうな女の子が質問をした。鍵付きのロッカーがあるのはありがたいな。俺の荷物なんて、その辺に置いておいたらすぐに盗まれるか嫌がらせをされるかに違いない。


「他にあるか?」


 誰も質問しない。まあ、実際に生活してみると疑問って出てくるものだよな。


「まあ、おいおい疑問点があったら聞いてくれ。毎朝クラスには来るからな。それじゃあ、教科書とロッカーの鍵を持ってくるからちょっと待ってろ」


 そう言ってスティーブ先生は教室から出て行ってしまった。ちょっと教科書もらうのも楽しみなんだよな。

 俺がわくわくしながら先生を待っていると、ロニーが小声で話しかけてくる。


「レオン、僕目をつけられたかな?」

「うん? さっきの自己紹介のこと?」

「そう」

「まあ、目立ってはいたけどあれくらいなら大丈夫じゃない? でも、もう少し堂々としてた方がいいよ。試験に受かって正当に入学してるんだから」

「そうだよね。僕もそうしたいんだけど、どうしても緊張して……今まで貴族様となんて会ったこともなかったから」


 確かに初めて貴族と会うのが王立学校って、かなり緊張するかもな。貴族ばかりだし、ずっとこの中で生活していくことを考えたら緊張するのかも。

 俺はなんだかんだ、タウンゼント公爵家の方々とか王族の方々に会ってるから慣れたんだな。

 どうやったら緊張が解れるだろう? 日本では、人をジャガイモだと思え、とか言われてたよな。あとは、手に人って書いて飲み込むんだっけ?


「周りの人を皆ジャガイモだと思えば緊張しないって、聞いたことあるよ」

「ジャガイモ……? なんでジャガイモなの?」

「それは知らない」

「とにかく試してみるよ」

「うん。あとは、手に人って書いて飲み込むといいんだって」

「手に人って書くの?」

「そう。こうやって書いて、飲み込むような感じにするんだけど、効果があるかはわからない」

「とりあえずやってみる」

「頑張って」


 ロニーが手に人って書いて何回も飲み込んでる。小声でジャガイモって呟いてる。なんかますます怪しい人にしちゃったかも……

 ロニー、役に立たなくてごめん。


 それからしばらくして先生が戻ってきた。先生が鍵の束を持っていて、後ろには教科書を持った職員が何人かいる。


「待たせたな。じゃあ渡していくから、名前呼んだ奴から前に取りにきてくれ」


 そうして俺たちは、ロッカーの鍵と教科書を受け取った。教科書はあまり分厚くはないが全教科分ある。この世界に来て、この量の本を持ったのは初めてだ。


「教科書は卒業の時に回収するから大切に使えよ。紛失したりもう使えないほど傷付けたりしたら、一冊につき銀貨一枚払ってもらうことになってるから気をつけろ」


 教科書返さないといけないのか。確かに印刷技術がないから、この量の本を毎年用意するのは大変だよな。

 多分傷んできたものを、毎年何冊か新しくしてるんだろう。そして、その新しい教科書はAクラスの人たちに配られるんだろうな。俺に配られた教科書は結構傷んでるし。


「これで今日は終わりだ。明日から学校が始まるから遅れないようにな。じゃあ、解散」

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