第72話 施設案内

 それからは、ロニーとポツポツと会話をしつつサンドウィッチを食べて、ささやかなパーティーは終わった。

 なんか疲れた。


「それでは、これからクラスごとに施設案内をいたします。まずはAクラスからです」


 この学校は五つのクラスに分けられていて、Aクラスが高位貴族のクラス、Bクラスが中位貴族のクラス、CとDクラスが下位貴族のクラス。そしてEクラスが騎士爵と平民のクラスとなっているらしい。

 今は、Aクラスの人達が職員に誘導されて外に出ていっている。その様子をぼーっと眺めていると、こっちを見ている視線があることに気づいた。

 誰だろ? 俺もその人物をしっかりと見るために、目を凝らしてみる。うーん……マルティーヌ!? 

 マルティーヌは俺の視線に気づいたみたいで、俺と目が合うと満足したのか少しだけ微笑み、ステファン様の方に向かって歩いて行った。


 今の誰にもバレてないよな……? 俺は恐る恐る周りを見てみるが、誰も気づいた様子はない。セーフだ。

 マルティーヌと俺の繋がりは、秘密にしないといけないと言われている。知り合った理由が病気を治したことで、公表するわけにはいかないからな。

 最初は初対面として振る舞い、リュシアンを通じて知り合ったという体ならいいそうだ。リュシアンと俺の繋がりは、隠す必要はないどころかアピールした方が良いくらいだからな。

 それにしても、さっきみたいなのは心臓に悪いからやめてほしい……


 それから、Bクラス、Cクラス、Dクラスと案内され、最後に俺のクラスの番になった。

 やっとか。残っているのは三十人くらいだ。Aクラスは十人くらいしかいなかったから、クラスによって人数のばらつきがあるんだな。


「それではEクラスの皆さん、私について来てください。施設をご案内いたします。まず、今いるこの建物は訓練場と言って、剣術の授業やダンスの授業で使用します。この訓練場が、西側の一番端にある建物です」


 訓練場の前の入り口から外に出ると、渡り廊下のような感じで、建物と建物がつながっていた。

 左側にはグラウンドのような広場がある。ここはなんだろう?


「左側の広場は、魔法の訓練場です。魔法の授業で使用いたします」


 先生がそう言うと、隣を歩いていたロニーが顔を青くした。


「どうしたんだ?」

「魔法の授業なんてあるの? 僕、魔法は苦手なんだ。魔力量が一しかないからほとんど使えないし……」

「そうなんだ。でも、魔力量が少ない貴族だっているんだし、大丈夫じゃない? 魔力量が多い人だけ魔法の授業があるのかもよ」

「それなら良いんだけど……」


 確かに魔力量が一しかないと、授業をしても意味ないよな。選択授業とかあるのかもしれない。

 そんなことを考えながら渡り廊下をまっすぐに進むと、豪華な建物の入り口に着いた。

 正門から見た時に、真ん中に豪華で横に長い建物があり、その右側に少しこじんまりとした古い建物。左側に小さいが豪華な建物、そして訓練場があった。

 ということは、この建物は少し小さいけど豪華な建物だな。職員の方はこの建物に入っていくようだ。


「この建物は食堂です。一階は高位貴族の方が使う特別食堂となっていますので、皆さんが使用することはないと思われます。二階と三階は誰でも使用できる大食堂です。学生は昼食が無料で食べられますので、ぜひ活用してください。では、大食堂へご案内いたします」


 そう言って職員の方は二階へ上がっていく。もっと詳しく説明してほしかった。特別食堂ってなんだろ? 今日帰ったら聞いてみるしかないな。


 二階に上がると、たくさんの机と椅子があり、奥にカウンターがある。カウンターで料理を注文して、自分で料理を机に持っていき食べるスタイルのようだ。日本の大学の学食にそっくりだな。ただ、食べ終わった食器の片付けは、専門の人がやってくれるのでそのままでいいらしい。

 三階は、机と椅子がたくさん並んでいるだけで、二階の席が満席だった場合は三階を使うらしい。

 平民は三階を使った方が良いとか、暗黙のルールがありそうだな。とりあえず、三階を使っておけば文句は言われないだろう。


「レオン、昼食が無料だって! 凄いよ!」


 ロニーがかなり興奮してそう告げてきた。まあ、ロニーは満足に食事を取れない生活をしてきたんだから騒ぐのはわかるけど、ちょっと声が大きい。聞かれたら馬鹿にしてくる奴が絶対いるから!


「ロニー、声が大きいよ」


 俺は小声でそうロニーに告げた。ロニーはすぐに口を塞いだが、少し遅かったようだ。


「やっぱり貧乏人は卑しいんだな。昼食が無料で食べられることにそこまで騒ぐとは、恥ずかしくて同じ平民だと思われたくない」


 さっき俺の左隣に座ってた奴だ。絶対こいつが何か言ってくると思ったんだ。


「それにお前の服装は貧相すぎないか? 貧乏がうつるから近寄らないでくれ」


 はぁ? この服は孤児院の人たちが必死に集めてくれたお金で買ったんだぞ。そうロニーが言っていた。それを馬鹿にするとは、絶対許せん!

 俺が文句を言ってやろうと口を開きかけた時、ロニーが一足先に口を開いた。


「ご、ごめんなさい!」

「ロニー! ロニーが謝る必要なんてないよ」

「でも、今騒ぎを起こすわけにはいかないし、僕が謝れば丸く収まるなら良いんだ」


 確かに今は、まだ施設案内の途中だったな。そのことに気づいて、俺も少し落ち着いた。


「ロニーがそう言うなら……」


 絶対いつかやり返してやる! 



 俺がそう誓っていると、食堂の案内は終わったようだ。


「それでは次の建物に参ります」


 食堂のある建物を一階まで降り、入ってきた方と逆の扉から外に出ると、少しだけ渡り廊下があり、直ぐにより豪華な扉がある。

 これが、正面から見た時に真ん中にあった建物だな。かなり豪華で横に長かった。

 職員の方はその建物に入っていく。おお、この建物は高位貴族しか入れないとか、そこまでの差別はないんだな。


「この建物が本館です。一階は先生達の個人部屋があります。先生を訪ねたい時は、しっかりノックをして入室許可を得てから部屋に入るようにしてください。一番奥にある広い部屋は王立学校で働く職員の部屋ですので、何か不都合がありましたら、そちらの部屋に知らせてください」


 一階はここで働く人のスペースなんだな。

 この学校の職員は、様々な雑務をこなしている感じなので、日本で言う事務の人みたいな感じだ。しかしそれよりもたくさんの人数がいるし、仕事内容も多岐に渡っているようなので、王立学校の使用人って感じだな。

 先生は授業をすることだけが仕事なのか、そのほかの雑務はやらないみたいだ。さっきの入学式も横にずらっと並んでいたのが先生達だろう。パーティーが終わるとすぐに全員建物から出て行ってしまった。

 多分先生達は貴族か準貴族で、職員は平民なのだろう。


「それでは二階に上がります。二階はAクラスとBクラスの教室がありますが、そのほかの施設はありませんので、そのまま三階に行きます」


 階段は建物の中心にあった。階段の左右に建物が伸びていて、最終的に行き止まりになる作りのようだ。

 二階はAクラスとBクラスってことは、ここにリュシアンやマルティーヌ、ステファン様がいるんだな。


「ここが三階です。三階は、Cクラス、Dクラス、Eクラスの教室があります。皆さんはEクラスですので、Eクラスの教室へご案内いたします」


 Eクラスの教室は、階段を上がって左に続く廊下を進んだ、一番奥の部屋だった。同じような部屋が八つほどあったので、他の学年の教室もあるのだろう。今日は、先輩方は休みみたいだな。

 広さは、日本の教室よりも少し広いくらいの大きさだ。前には、先生が使うのであろう机と椅子が置いてあり、先生の方を向くように、生徒の机と椅子が配置されている。

 机と椅子は、木で作られた簡素なものだ。これってクラスによってグレードが変わるのかな? 

 ちょっと興味ある……リュシアンに聞いてみよう。


「皆さんはこれから、基本的にこの教室で授業を受けます。隣の教室はEクラスの二年生の教室です。明日から授業が始まれば、他の学年の生徒も登校してきます」


 やっぱり他の学年の教室なんだな。学年ごとに教室をまとめるのではなく、クラスごとにまとめてるのがこの学校らしい。

 高位貴族の子供達を一箇所にまとめていた方が、守りやすいとかの理由もあるんだろうな。


「それでは次の建物に参ります」


 次の建物は、正面から見た時に右側にあった、少し古そうな建物だった。豪華さはあまりなく、質素堅実って感じだ。日本の小学校の建物に似ている気がする。


「この建物は研究棟です。一部の学生は放課後に集まって研究活動をしていますが、その時に使われるのがこの建物です。火魔法研究会や剣術研究会、魔法具研究会などたくさんの研究会があります。研究会には主催している先生の許可があれば入れますので、興味のある方はぜひお入りください」


 部活とかサークルみたいなものか! この世界にもあるんだな。魔法具研究会とかめちゃくちゃ面白そう。

 でも、魔鉄と魔石って簡単にはもらえないと思うけど、この研究会には少し分配されているのだろうか? それなら入りたいな! 

 剣術研究会とかも楽しそうだよな。毎日鍛錬するのかな? どれに入るのかリュシアンにも聞いてみよう。


「それでは次で最後の建物です」


 そう言って連れてこられたのは、本館の後ろにある建物だった。結構大きな建物だな……なんだろう?


「こちらは図書館です」


 図書館!! 図書館なんてあるのか!!


「学生なら出入りは自由ですので、受付にブローチを見せれば入ることができます。図書館の中で本を読むのであれば無料で読めますが、図書館の外に持ち出す場合には保証金が必要になります。保証金は本一冊につき銀貨一枚です。本を返却した時に保証金はお返しするので、本を紛失しない限りお金がかかることはありません」


 素晴らしい……! この世界に来て、ここまでたくさんの本があるところを初めて見た。日本ではあまり本を読まなかったけど、それは他に娯楽がたくさんあったからだ。娯楽が少ないこの世界で本はとても貴重だ。

 図書館最高だな。絶対ここには近いうちに来よう。


「それでは、これで施設案内は終了となります。これから皆さんのクラス担当の先生から、授業についての説明がありますので教室に戻ってください。ありがとうございました」


 これから本当に学生生活が始まるんだな! わくわくして来た!

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