第71話 入学式

 まず舞台上に上がってきたのは、金髪に金の瞳で背が高く、かなりカッコいい人だ。なんとなく誰かに似てる気がする? 誰だっけ?

 俺が必死に思い出そうと考えていると、その人が挨拶を始めた。


「新入生諸君、王立学校入学おめでとう。私はこの学校の校長をしている、トリスタン・ラースラシアだ」


 トリスタン・ラースラシア!? ラースラシアって言ったよね?

 ということは、アレクシス様の兄弟!?


 そういえば前に、アレクシス様には弟と妹が一人ずついるって言ってた気がする。あの時は色々あって頭がいっぱいで流しちゃったけど、弟さんは王立学校の校長をしてたんだ。妹さんはどこかに嫁いだのかな?


「私が校長になってまだ数年だが、王立学校をより良い学びの場所にしたいと思っている。これからしっかり励んでくれ」


 トリスタン様の話は軽い挨拶だけで終わった。最後に舞台を去るときに目があった気がするんだけど、気のせいだよな。絶対気のせいだ。考えないようにしよう。

 俺が内心でそう言い聞かせていると、隣から小さな声が聞こえてきた。


「やばいよ……絶対やばい……校長が王族だなんて聞いてないよ……そんなの平民はいつ殺されてもおかしくないじゃないか……」


 ロニーがまたネガティブになってる。ラースラシアって名前を聞けば誰でもわかるもんな、王族だって。

 普通怖いよね。俺も怖いよ、どんな人かわからないし。俺に友好的な人なら心強いけど、否定的な人だったら怖すぎるよ。もう目をつけられてる可能性あるし……


「ロニー、できるだけ目立たず強く生きようね」

「うん、僕目立たないことには自信あるんだけど、この学校ではそれが逆に目立ちそうなんだ」


 確かに。平民の中にいたら目立たない物静かな子ってなりそうだけど、この学校では平民丸出しのダサいやつ、いつもおどおどしててうざい奴ってなりそう。

 というか、この学校では平民ってだけで目立つんだよな。特に豪商の子供じゃない平民ってなるとほとんどいないから、それだけでめちゃくちゃ目立つ。


「最悪は俺がなんとかするから、そんなに怖がらなくても大丈夫だよ」

「でも、レオンも平民だよね? それなら何もできないじゃん。そういえば、レオンはなんで王立学校に来たの? 豪商の子供? 服装も豪華だし」


 うーん、タウンゼント公爵家の後ろ盾でって言ったら絶対怖がるよな。今は言わないほうがいい気がする……


「うーん、俺も王都の外れの食堂の息子なんだよ。だけどちょっと貴族と縁があって、王立学校を受験できることになったんだ」

「そうなの? 貴族の縁って?」

「ロニーと同じような感じだよ。たまたま勉強する機会があって、他の子供よりできたから受験してみろって言われたって感じ」

「そうなんだ。僕たち似た境遇なんだね。なんか仲間がいるみたいで心強いよ」


 ロニーはそう言って少しだけ笑った。とりあえず嘘は言ってないからいいだろう。ロニーが慣れてきたら、タウンゼント公爵家のことは話せばいいか。今それを話すのは流石に可哀想だ。何日か通えば慣れるだろう。


 そこまで話したところで、また舞台に人が上がっていく。あれは、ステファン様じゃないか。


「新入生代表として挨拶させていただく、ステファン・ラースラシアだ。今年は、私と妹のマルティーヌも入学しているので、例年より学びが活発になることを期待する。これから長い期間を共に過ごすのだ、仲良くしてくれると嬉しい。王立学校では身分は関係ないことになっている。最低限の礼儀を弁えていれば、身分関係なしに仲良くしたい。皆もここにいる時だけは、身分はあまり気にせず活発に議論を交わしてほしい」


 凄いな、こんなに大勢の前で堂々と話せるのか。流石王族だ。それに身分関係なくって言ってくれてるのもありがたい。第一王子のステファン様がそう言ってくれれば、あまり表立っては平民だからと差別できないだろう。

 まあ、隠れてやるだけな気もするけど……それに、馬鹿なヤツはどこにでもいるからな……


「それでは、これからささやかながら、新入生同士で交流を深めるためのパーティーを開催する。周りの者と話して交流を深めてほしい」


 ステファン様がそう言って席に戻ると、給仕の人がたくさん現れて、身分が高い席から順番に料理が置かれていく。また、光球へ魔石も取り付けられて、また建物が明るくなっていく。

 料理は、軽く食べられるようにサンドウィッチやローストビーフ、サラダなどのようだ。給仕の人が大皿から各々の皿に盛り付けている。

 料理が盛り付けられたテーブルから、歓談が始まっていくようだ。

 従者もいないので毒見もなしに料理を食べるのかと思って観察していると、誰も料理に口をつけていない。これって形だけってことか? 後で職員の皆さんが食べるとか? それなら料理を出す必要あるか?

 まあ、慣習と言われればそれまでだけど……


 席が後ろの方になると、料理に手をつける子供も現れ始めた。毒殺を警戒する必要がないってことなのかな?

 こういうの見てると、身分が高いのも大変だな。

 俺は少し迷ったが料理を口に運んだ。まだ俺の存在はあまり知られてないし、大丈夫だろう。早めに毒を除去する魔法を作らないとダメだな。回復魔法でできる気がするんだよなー。

 というか、これからお昼ご飯は学校で食べるんだよな? 従者を連れてくるのか? それともお弁当とか?

 いや、お昼を食べるために家に帰る可能性もあるか、結構近いし。

 その辺のこと聞いてなかったから、今日帰ったら聞いてみないとだな。


 とりあえず考えるのは一旦やめて、このテーブルにいる子供たちと交流を図ろうと思い、周りを見てみる。

 俺の右隣にいるロニーは、サンドウィッチをとても美味しそうに食べているのでとりあえず後回しだ。このテーブルは五人座っているので、あと三人いる。

 俺の左側に三人並んでいて、遠くの二人は女の子で仲が良さそうに話しているので、俺のすぐ左の席に座っている子に話しかけてみる。


「初めまして、レオンと申します」


 俺がそういうと、その子供は不機嫌そうにこちらを見て言った。


「お前初めて見る顔だけど、どこの商会の子供なんだ?」


 は? 初対面で何この態度。もしかしてめちゃくちゃイラつく感じのガキですか? すでに仲良くなれそうにない!


「私は商会の子供ではないです。食堂の息子ですけど」

「ふんっ、やっぱりそうか。この辺に座ってるのは平民だ。貴族と取引のある大きな商会の子供は、皆の顔を知っているからな。顔を知らないってことは貧しい平民だと思ったんだ。俺はお前みたいなやつと関わるつもりはない」


 むっかつく!! 何こいつ。豪商の子供だからって、結局は同じ平民じゃないか。貴族ばかりの王立学校で、商会の子供ってことを誇ったって意味ないだろ!

 はぁ〜……こいつは自分より下の地位にいる奴を見つけて、いじめたいだけなんだ。それでちっぽけな優越感に浸りたいタイプだ。

 めんどくさいから関わらないようにしよう。


 俺はもう話すのはやめて、食事に集中することにした。こんなやつと話してたら気分が悪くなるだけだ。


「おい、お前なんか言えよ。俺の言葉を無視してもいいと思ってんのか?」


 はぁ? お前が関わらないって言ったのに、なんで話しかけてくるんだよ!

 もう敬語で話すのもやめてやる。同じ平民だからいいだろ。


「うるさい。関わりたくないんじゃなかったの」

「お前……! 俺にそんな口を聞いて、うちの商会は貴族様御用達のヴォクレール商会だぞ!」


 凄い商会なのかもしれないけど初めて聞いたし、それに直ぐに家を自慢する奴って、自分には自慢できるところがないって言ってるようなもんだよな。

 マジでめんどくさい。


「すごいねー」


 とりあえず適当に褒めておいた。

 あんまり使いたくないけど、めんどくさい奴にはタウンゼント公爵家の力を使ってもいいかな? 

 もう目立ちたくないとか無理なことがわかった。商会の子供でもない平民っていう時点で、めちゃくちゃ悪目立ちしてるんだな。それなら隠すよりも公爵家に守ってほしい。

 俺が言ったところで信じてくれないだろうから、リュシアンに来てもらわないとかな。後は、公爵家の紋章でも見せればいいのかな? ただ、それなら信じてもらえるだろうけど、それをやりたくない自分もいる。もう少しだけは平穏に過ごしたい……

 はぁ〜、前途多難だ。

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