第67話 クッキー作り
昼食を終えて暫く後、イアン君は家に帰り家族四人でゆっくりしている時間に、俺は徐に話し出した。
「母さん、父さん、マリー。俺は王立学校に受かったから、六週間後くらいには中心街に引っ越しするね」
「そうね。引っ越しは大変だから、早めにしなくちゃよ。住む家は決めてあるの? 公爵家の方が紹介してくれたのかしら」
あれ? 公爵家の屋敷に住むこと言ってなかったっけ?
「公爵家の屋敷に住まわせてくれるんだけど、言ってなかったっけ?」
あっ……やばい……
母さんがめっちゃ怒ってる! 俺何でいうの忘れてたんだよ!
「レ〜オ〜ン〜! そういう事は早く言いなさいって言ったでしょ!」
「ごっ、ごめん! 言ったつもりだったんだよ」
「公爵家に住まわせてもらうなら、挨拶くらいはしなきゃよね? それなら、私たちが公爵家のお屋敷に行かないといけないのかしら? でも、私たちみたいな平民は追い返されるわよね?」
母さんは怒りが収まって、今度は慌て始めたみたいだ。
「母さん、落ち着いて。挨拶はいらないと思うよ。俺が母さんと父さんからの伝言として、挨拶しておくよ」
「それで大丈夫なの?」
多分それで大丈夫だろう。母さんと父さんは作法も何も知らないし、公爵家の皆様も逆に困るだろう。
「大丈夫だよ。心配しないで」
「レオン、挨拶にはいかないとしても、手土産くらいは何か渡した方がいいかな? いつも送り迎えしてくれてる人になら渡せるだろう?」
うーん、手土産って言っても、うちから渡せるもので公爵家の皆さんが喜ぶものが思い浮かばない……
渡すとしたら手作りお菓子とかかな? 食べてくれるのかはわからないけど、公爵家の皆様が食べてくれなくても使用人の方が食べてくれるだろう。
クッキーなら持って行きやすいし、クッキーにしようかな。
「クッキーを作って渡すのがいいと思うよ。持ち運びしやすいし、すぐにダメにならないからね」
「じゃあ、引越しの前の日にクッキーを作ることにするよ。レオンも手伝ってくれるかい?」
「うん! 勿論だよ」
それからしばらくは何事もなく、平和な日常が過ぎていった。俺は、マルセルさんの所へ入学の報告に行ったり、森に行ったりと平和に過ごした。
軽い毒を使って、解毒の回復魔法の練習をしようと思ったけど、春や夏にならないとあまり種類がなかったので、もう少し後でやることに決めた。
そんな平和な日々を過ごして、ついに明日が引越しの日だ! 今日は一緒にクッキー作りをする。
昨日は中心街まで行って、砂糖とバターを大量に買ってきたから、今日はたくさん作れるな。
「レオン、もう一度作り方を教えてくれるか? この前はマリーと作ってたから、しっかりと見てなかったんだ」
「うん! まず材料は、小麦粉と砂糖とバターだよ」
「それは用意してあるわ」
「材料さえあれば作り方は簡単なんだ。この三つを混ぜて形を作って焼くだけだよ」
一番難しいのは分量なんだけど、この前作った感じだと砂糖は結構入れた方が良さそうだった。バターもしっかりと固まるくらい入れないとダメだ。
「分量は、この大きい器に入る分の小麦粉に対して、砂糖が小さいお皿くらい、バターも同じくらいかな? とりあえず、やりながら試してみるのがいいと思う」
そうして俺たちは三つをボウルに入れて、よく混ぜてこねていく。
ふぅ〜、これくらいでいいかな?
「多分これくらいでいいと思う。あとは一口サイズにしてフライパンで焼けば完成だよ!」
「結構簡単なのね。ただバターと砂糖をたくさん使うから、この辺では流行りそうにないわね」
確かにこの辺で流行るのは、ずっと先のことだろう。そもそも、まだお菓子の文化が定着してないしな。
「この辺で流行るのは難しいだろうね。でもうちで食べるだけなら、どんどん作ってね。バターはじいじの家から手に入るし、砂糖はたくさん買ってきて置いておくから」
マリーがすっかりお菓子の虜だからな。帰ってくる時は砂糖を買ってこないとだ。
母さんとそんな話をしていたら、父さんが焼く準備をしてくれていた。
「じゃあ母さんとレオンは、どんどん形を作っていってね。父さんが焼いていくから」
「わかったわ」
「うん!」
俺はどんどんクッキーの形を作っていく。そして半分くらい作り終わったところで、中心街でこっそり買ってきたものを取り出した。そしてそれを、クッキーの上にはめ込んでいく。
「レオン、それは何?」
「これはアーモンドって言うんだ」
「アーモンド?」
「そう! これだけで食べても美味しいけど、クッキーに入れると美味しいと思うんだ。何枚か試しに、アーモンド入りクッキーを作ってみるね」
「そうなのね。楽しみにしてるわ」
昨日中心街まで砂糖を買いに行った時、別の売り場にアーモンドに似たものを見つけたのだ。商人さんに聞いてみると、最近輸入され始めたみたいでまだあまり売れないと言っていた。
一つ味見にもらって食べてみると、日本のアーモンドとかなり似た味だった。日本のものより少し小さいくらいだ。
俺はクッキーに合うんじゃないかと思って、一袋買ってきたのだ。結構高かったが、お金はあるからこのくらいの贅沢はいいだろう。
「父さん、アーモンド入りのは火が通りにくいかもしれないから、普通のよりもよく焼いてくれる?」
「わかったよ」
そうして、普通のクッキーが百枚ほどとアーモンド入りが二十枚出来上がった。
一人一枚ずつ味見として食べてみる。
まずはアーモンドからだな。ザクッ……めちゃくちゃ美味しい! よく焼いたからちょっと香ばしさが強いけど、それもまた良さになってる。アーモンド入りもありだな。
父さんと母さんの方を見てみると、ちょうどアーモンド入りを食べるところだった。
「う〜ん、これ美味しいわ! アーモンドすごく合うわね」
「ああ、食感が面白いな。ほのかに甘くて味も美味しい」
二人にも高評価みたいで良かった。これなら公爵家に持っていっても大丈夫だな。
「美味しいね、完璧! じゃあ、公爵家に持っていく籠に入れちゃうね」
俺は新しく買ってきた籠に新しい布を敷いて、クッキーを綺麗に並べて入れていく。普通のクッキーが七十枚とアーモンド入りが十枚だ。残りは家族みんなで食べることにする。マリーも喜ぶだろう。
「すごく綺麗な布ね。どこで買ってきたの?」
「中心街だよ。公爵家に持っていくのなら、この辺で売ってる布だと失礼かなと思ったんだ」
「確かにそうね。手触りもすごくいいわ」
この布は、この辺で売ってるものの十倍以上の値段だからな。ただ、高いだけあって見た目も手触りも良い。これなら公爵家でも浮く事はないだろう。
「よしっ! あとはこれをロジェに渡せば完璧だね」
「結構残ってるけどそれだけでいいの?」
「うん。あとはみんなで食べようよ!」
「それはマリーが喜ぶね。レオンはいいお兄ちゃんだね」
父さんがそう言って、俺の頭をぐしゃぐしゃに撫でてくる。父さん、最近頭ぐしゃぐしゃにしすぎ!
「父さん、またぐしゃぐしゃになっちゃうよ!」
「まあ、いいじゃないか」
俺は父さんの手から逃れて、残りのクッキーをお皿に盛りつけた。
「じゃあ、リビングに持っていくね! マリーが待ってると思うから。父さんと母さんも早く来てね!」
俺はそう言って、厨房を出てリビングに向かった。
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