第66話 お祝いのご馳走
次の日の朝。
俺は家に帰ることにした。公爵家の方々には昨日の夕食時に帰ることを告げていたので、すぐに帰れる。俺は朝食を終えて、すぐに馬車に乗った。
入学式までは六週間ほどあるので、家族と過ごせる時間を大事にしようと思ったのだ。
ロジェに送ってもらい、家の近くに馬車が止まった。
「レオン様、到着いたしました。入学式の一週間前の日に、お迎えにあがります」
「ありがとう。じゃあまた後でね」
俺は馬車を降りて、家の扉を開けた。
「ただいまー!」
俺がそういうと、厨房から母さんと父さんが飛び出てきた。マリーとイアン君は元々食堂にいたので、そのまま駆け寄ってくる。
「お兄ちゃん! おかえりなさい」
「レオン! 試験は大丈夫だったの? 何もされなかった?」
「母さん落ち着いて、試験受けてくるだけなんだから、何もされないよ」
「そ、それもそうよね」
「レオン、おかえり。試験はどうだった?」
父さんが、落ち着いた優しい笑顔で聞いてくれた。
「試験は合格したよ! 六週間後くらいに入学式があるんだって」
「レオン、よくやったね」
父さんはそういうと、俺の頭をガシガシと撫でてくれた。父さんにしては激しい。
「と、父さん、頭ぐしゃぐしゃになっちゃうよ」
俺がそう言って父さんの顔を見上げると、父さんはとても嬉しそうな、でも少し悲しそうな顔をしていた。
「父さん? どうしたの?」
「ごめんね……思いっきり祝ってあげようと思ってたんだけど、やっぱりレオンが家を出ていっちゃうのは寂しいなって思ったんだ」
「父さん…………大丈夫だよ。王立学校にいても頻繁に帰ってくるから! すごく遠いところに行くわけじゃないよ」
俺がそういうと、父さんはやっと心の底から笑ってくれた。将来は、家族みんなで快適に暮らせるように頑張ろう。俺は改めてそう決意した。
「そうか、そうだよね。こんなこと言ってごめんね。じゃあ、今日はレオンの合格祝いをしようか! 今日は臨時休業にしよう」
「それがいいわ! 王立学校に合格したんだもの。盛大にお祝いしないとだわ」
「お兄ちゃんおめでとう!」
「レオン君、おめでとう」
嬉しい。俺のことでここまで喜んでくれる人がいるって幸せだな。
「みんな、ありがとう!!」
「じゃあ、今日は父さんたちが作るから。レオンはリビングで待っていてね」
「そうよ。母さんたちもレオンにたくさん調理法を教えてもらって、オリジナル料理を考えたのよ」
そうなのか!? オリジナル料理って母さんと父さん凄いな。俺は前世で知ってる料理を再現してただけだから、俺より全然凄いよ。
「二人とも凄いね!」
「楽しみにしていてね。じゃあレオンはリビングに行って」
そうして俺はリビングに追いやられた。あれ? マリーも来ないのか?
「マリーとイアン君は?」
「二人も手伝ってくれるのよ」
「そうなの?」
「うん! 美味しい料理作るよ! 私にもできるんだから」
マリーが満面の笑みで、ちょっと誇らしげにそう言った。か、かっわいい〜。俺の妹マジ天使。
「マリー、ありがとう。楽しみにしてるね」
「うん!」
それから一時間ほどリビングで待っていると、みんなが料理を大量に持ってリビングに来た。
凄くいい匂い!
「レオンお待たせ」
「美味しい料理いっぱい作ったの!」
机の上にどんどん料理が並んでいく。まずはいつものパンにスープ、水。
「これが今日のメイン料理、ステーキフライよ!」
そう言って母さんが俺の前に置いてくれた皿には、牛カツが乗っている。凄い! 肉を揚げる料理は教えてないのに、アジのフライから思い付いたのかな?
「レオンが教えてくれたアジのフライを見て、牛肉を揚げても美味しいだろうと思ったのよ」
「父さんが揚げたんだ。上手くできてるだろう?」
「うん! 凄く美味しそうだよ!」
「それから、ソースも作ってみたんだ。前にレオンが、フライにはトマトソースが合うと言っていたから、ドライトマトのオイル漬けを、近くの家から少し買ったんだ」
ソースまで作ってくれるなんて……! 絶対美味しい、早く食べたい!!
「お兄ちゃん、これはマリーとイアンさんで作ったの!」
そう言ってマリーが持ってきてくれたお皿には、クッキーが入っていた。俺がマリーに、他の甘いもののレシピをねだられて前に教えたんだ。オーブンがないのでフライパンで焼くしかないのだが、結構美味しくできた記憶がある。
「この前おじいちゃんの家から商人さんが来て、バターを置いていってくれたの。それに砂糖もお兄ちゃんが買ってきてくれてるから、クッキー作ったんだよ!」
「凄いなマリー、嬉しいよ」
このクッキーはかなり良くできてる。焦げてもいなそうだし、とてもいい匂いだ。早く食べたいな!
「じゃあ、冷めないうちに早く食べましょう」
「そうだね、早く食べようか。じゃあ、レオンおめでとう!」
「「「おめでとう!!」」」
みんなが笑顔で俺の方を見てそう言った。
「……ありがとう。嬉しい」
俺は思わず泣きそうになり、なんとか笑顔を作って泣き笑いのような顔でそう言った。
それからはみんなで一斉に食べ始めた。まずは牛カツから食べよう。牛カツは一切れサイズに切ってあったので、俺はフォークで刺してソースにつけ、一口食べる。
サクッ……もぐっもぐ…………めちゃくちゃ美味い!! やばい、これめちゃくちゃ美味いな。牛にも塩味が少しついてて、トマトソースの味とマッチしてる。これをパンに挟んだら、美味しいカツサンドになるな。
カツサンドでも食べてみたい!
「父さん、ナイフでパンを薄く切ってくれる?」
「どのくらいに切ればいい?」
「うーん、これくらいでお願い」
俺は指で一センチくらいを示して、父さんに薄いパンを二つ切ってもらった。そして片方にトマトソースを塗って、カツを挟んだ。
ぱくっ……やばい、これもめっちゃ美味い! やっぱりパンと一緒に食べると美味しいな。
「お兄ちゃんその食べ方美味しいの?」
「うん、凄く美味しいよ! 肉とソースがパンによく合うんだ。別々で食べるより一緒に食べた方が美味しい」
「ほんとに!? じゃあ私もそれで食べたい!」
「わかったわかった、パンを切ってあげるからちょっと待ってね」
「父さんありがとう!」
「ジャンさん、俺にもお願いします」
「ジャン、私にもお願いね」
みんなカツサンドにして食べるみたいだ。カツサンドってパンに挟むだけなのに、めちゃくちゃ美味しくなるんだよな。
「う〜ん! 美味しい!」
「本当ね、パンに挟んだだけなのに美味しくなるわ」
「これなら歩きながらでも食べられるから、持ち帰りで売ったら売れるかもね」
俺が何気なくそう言うと、母さんと父さんの目つきが変わった。何かギラギラしてる……
「レオン! それはいいかもしれないわ!」
「そうだね。試しに何日か売ってみるのもいいかもしれない。時間がない人も買っていくかもね」
凄い勢いだな……
「レオン、やってみてもいいわよね!」
「う、うん、勿論だよ。頑張ってね」
「早速明日からやってみようか。いつもの昼営業より、少し早めに売り出すのもいいかな?」
「それもありね!」
二人は話に夢中になってしまったので、俺はさりげなく話から抜け出した。そして、デザートでマリーとイアン君が作ってくれたクッキーに手を伸ばす。
サクッ……サクッサクッ……めちゃくちゃ美味しい!
甘くてサクサクで幸せだ。
「マリー、クッキー凄く美味しいよ! イアン君もありがとう」
「本当!? 良かった!」
「初めて作ったらちょっと心配してたんだ。良かったよ」
これはマジで美味しい。俺的には日本のクッキーにも劣らない。マリーが作ってくれたことを考えたら、日本のより美味い!
「本当に美味しいよ! また一緒に作ろうね」
「うん!!」
そうして俺のお祝いという、幸せな昼食を終えた。本当に楽しくて美味しかった。幸せだ……
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