第65話 剣術と試験結果
リュシアンと庭に行ったが、誰もいない。
あれ? まだ先生は来てないのかな? 俺がそう思った時、ジャックさんが俺たちの前に出て来た。
どうしたんだ? いつもリュシアンの後ろで目を光らせてるのに。
「では、練習を始めましょうか」
「ジャック、今日はレオンがいるから基本から頼む」
え!? ジャックさんが先生なの!?
でも確かに、護衛ならいつも一緒にいるし、先生にはもってこいなのかも。
「ジャックさんが先生なんですね」
「そうだ、俺は厳しいぞ」
ジャックさんが揶揄うような顔で、そう俺に言ってきた。望むところだ!
「厳しくお願いします!」
「おお、やる気あるな。剣を握ったことはあるのか?」
「ありません」
「じゃあ握り方からだな」
そう言ってジャックさんは、俺に木剣を渡してくれた。
「リュシアン様は素振りをしていて下さい」
「わかった」
リュシアンは一人で素振りをやるようだ。かなり様になっていてカッコいいな。俺も早くやってみたい。
「握り方だが、基本は右手が上で左手が下で両手持ちだ。ただ利き手が左の場合は、逆の持ち方をする奴もいるな」
「わかりました」
この世界の剣は両手剣なのか。盾は持たないのかな?
「剣を両手で持つのなら盾は持たないんですか?」
「ほとんどは持たない。たまにそういう奴もいるが、基本的に防御は鎧だな。まあ将来的に盾を持つにしても、両手剣が基本だから基本をやっておいて損はない」
「はい。よろしくお願いします!」
「じゃあ持ってみろ」
俺は言われた通りに木剣を握り、前に突き出すようにして持った。これ結構重いな。
「これでいいですか?」
「それでいい。じゃあまずは、一番基本の素振りからだな。上から下への振り下ろしを五十回だ。本当は百回だけど初心者だからな。始めっ!」
「はい!」
俺は、木剣を上から下に振り下ろす素振りを始めた。
これ思ったより辛い……とにかく木剣が重くて腕がパンパンになるし、どんどんキレとスピードがなくなっていく。
「後二十回だ! ペースを落とすな」
「はいっ!」
ペースを落とすなって言ったって、これめちゃくちゃ辛いよ。魔法の練習に加えて、体力作りと筋トレはしてたんだけど、剣を振るのってこんなに大変なんだ。子供の体だとキツイ……
ただリュシアンは、汗をかきながらもずっと素振りをしている。やっぱり毎日の積み重ねが大事だよな。俺も頑張ろう。
身体強化魔法を使ってもいいけど、あの魔法は元々の身体能力をより高めるものだから、元の身体が鍛えられているほどより強くなれる。だから、実戦以外では使わずに鍛えたい。
「五十!」
やっと終わった……腕が痛いし、結構息も上がってる。これは辛い。なんだかんだ魔法の練習を優先させて、体力作りは後回しにしてたからな。もっとやらなきゃダメだ。
「次は、右上から左下への振り下ろしだ。また五十回だぞ。始めっ!」
「え!? まだあるんですか!?」
「これで終わりなわけないだろ?」
マジか……右上から左下への振り下ろしってことは、逆の振り下ろしもあるんじゃないか? マジかよ……
俺は疲れた身体に鞭打って、なんとかまた素振りを始めた。
「一……ニ……三……四…………四十九……五十!」
「はぁ……はぁ……はぁ……」
やばい、めちゃくちゃ疲れた。俺は膝に手をついて荒い息を吐いている。身体中汗だくだ。
ジャックさん厳しすぎです!
「次いけるか?」
「ちょ、ちょっと待ってください! 少し休んでもいいですか?」
「まあいいだろう。少しだけだぞ」
俺はその言葉を聞いた瞬間に、地面に座り込んだ。こんなに辛いなんて……
リュシアンも、こんなに辛い練習をいつもやってるのか? そう思ってリュシアンの方を見てみると、素振りを終えてジャックさんと実践形式の練習をしている。
今は、ジャックさんが守ってるところにリュシアンが攻めて、守りを突破する練習らしい。
リュシアン凄いな……俺から見たら、剣を自由自在に扱っているように見える。途中途中でジャックさんのダメ出しが入ってるから、まだまだなんだろうけど、素人目にはかなりの実力に見える。まだ十歳なのに。
さっき素振りをしたからわかるが、剣を自由自在に扱うにはかなりの鍛錬が必要だろう。よほど小さい時から剣の鍛錬をしてたんだな。
そんなことを考えていると、ジャックさんがこちらに戻って来た。リュシアンは一度休憩のようだ。
「ジャックさん、リュシアンはかなりの実力に見えるんですけど、貴族は皆リュシアンくらい剣を扱えるんですか?」
「そんなことはないぞ。確かに貴族の次男以下は、騎士になるか文官になるかだから、騎士を目指してる奴は割とレベルが高い。ただ、家を継ぐ長男や文官を目指してる奴は、剣をほとんど扱えない奴も多いな。一応、王立学校で剣術の授業があるから貴族なら最低限はできるが、それ以上に鍛錬する奴は少ない」
そうなのか。確かに剣の鍛錬をする理由がなければ、こんなに辛いことはやりたくないよな。
でも、リュシアンは長男だよな? なんでこんなに真剣にやってるんだ?
「でも、リュシアンは長男ですよね?」
「そうだな。リュシアン様はただ剣が好きなんだ。小さい頃に剣に興味を持たれて、それから毎日欠かさず鍛錬している。それに剣の才能もあるらしくてな、まだ十歳なのにかなりの実力だ」
リュシアン凄いな……俺も負けないように頑張らないとだ。俺はまた、気合を入れて立ち上がった。
「続きをお願いします!」
「よしっ! 次は左上から右下への振り下ろしだ」
「はい!」
そうしてその後、右下から左上への振り上げと、左下から右上への振り上げをして、素振りは終了となった。
マジで疲れた……
「最後までできるなんて思ってなかったぞ。根性ある奴は剣術に向いてる。これからも毎日やれば、必ず強くなれるだろう。その剣は貸してやる」
「ありがとうございます!」
俺はやり切った達成感で、なんだか感動していた。この木剣で毎日練習しよう!
そう決意しているところに、リュシアンがやって来た。
「レオン、五十回ずつの素振りをやり切ったのか? 凄いな、絶対無理だと思ったぞ。私でもさすがに厳しい」
え? 普通は百回なんじゃなかったの?
「でも、普通は百回やるってジャックさんが」
「それはジャックの普通だろう? 私はまだ子供で身体ができてないからな、最初は十回ずつから初めて、今は三十回ずつだな」
なんだよそれ!? やっぱり流石にキツすぎるんじゃないかと思ったんだよ!
「ジャックさん!!」
「ごめんごめん、ちょっとした悪ふざけのつもりだったんだよ。ただ予想以上に練習についてくるから、楽しくなってやらせてたら最後まで行ってたんだよな」
ジャックさんが苦笑いしながら頭を掻いている。
悪ふざけって、こんなに辛かったのに!!
はぁ〜……まあ、為になる練習だったしもういいけど。ただこれからは、毎日三十回ずつくらいから始めて、だんだん増やしていこう。これを毎日やってたら身体を壊しそうだ。
「では、今日の練習はここまでにしましょう」
「そうだな、ジャックありがとう」
「ありがとうございました」
俺は少し不本意ながらも、しっかりと頭を下げる。お礼は重要だからな。
それから、俺たちはそれぞれの部屋に帰った。
俺は部屋に帰ってすぐ、お風呂で汗を流した。とにかく汗だくで気持ち悪かったんだ。さっぱりした!
そして、夕食の時間まで休もうとのんびりしていると、部屋に使用人が来た。初めて見る人だな。何の用だろうか?
ロジェが応対して部屋に戻ってくると、手には一通の封筒を持っていた。
「レオン様、王立学校の試験結果が届いたようです」
おお! もう来たのか。こんなに早いんだな。
俺はロジェに渡された封筒を丁寧に開き、中を確認する。中には二枚の紙が入っていた。
一枚目は試験結果のようだ。俺は少しドキドキしながら、紙を封筒から取り出す。
…………合格だ!
大きく合格と書いてある!
良かったぁ。合格してるだろうと思いながらも、ちょっとだけ緊張してたんだ。とりあえず安心だな。俺は安心してもう一枚を取り出す。
もう一枚は入学式の日程だった。入学式なんてあるんだな。日本の式とは全然違うのだろうか? ちょっとだけ楽しみだ。
俺は結果をリュシアンに報告したくて、リュシアンの部屋を訪れてもいいか、ロジェに聞きに行って貰った。
少しソワソワしながらロジェが帰ってくるのを待っていると、少し困惑した顔のロジェと共にリュシアンがやって来た。
「レオン、受かったか!?」
「リュシアン様!? どうしてここへ? 私が行こうと思っていたのですが?」
「私がこちらに来た方が早いではないか」
「まあ、それはそうですが……」
普通は俺がリュシアン様を訪れるんだと思いますけど……まあ、この屋敷の中ならそこまで厳密にしなくてもいいのか。
「そんなことよりもどうだった? レオンなら合格だよな?」
「はい。合格していました。リュシアン様もですよね?」
「当たり前だ。よしっ、これで一緒に通えるな!」
リュシアンが無邪気に喜んでいる。ここまで無邪気なのは珍しいな、いつもは大人っぽいから。まあ、俺と二人の時は結構子供っぽいところもあるけどな。
俺は少し驚きながらも、リュシアンの喜びに釣られて嬉しさが増してきた。
「一緒に通うのが楽しみです。これからもよろしくお願いします!」
「当然だ。こちらこそよろしく」
俺とリュシアンは握手を交わして、満面の笑みで笑い合った。なんか、これからが楽しみになってきたな。
「あっ、そうだ。ついでにこれを持ってきたんだ」
そう言ってリュシアンが渡してくれたのは、礼儀作法の本だった。
「ありがとうございます。大切に読ませていただきます。いつまで借りていていいのですか?」
「私はもう覚えた内容だから、いつまででも良いぞ。レオンが覚えたら返してくれればいい」
「かしこまりました。ではしばらくお借りしますね」
これで礼儀作法も間違えることはなくなるな。もし覚えきれないようだったら、紙に書き写すのもありかもしれない。今度紙をたくさん買ってこよう。王立学校でも使うだろう。
「では、そろそろ夕食だから一度部屋に帰ることにする。突然押しかけて悪かった」
「いえ、わざわざ来ていただいてありがとうございます」
リュシアンは嵐のように去っていった。よほど合格が嬉しかったんだな。やっぱり大人っぽくても、まだ十歳の子供だ。俺はそれを実感して、なんだか微笑ましい気分になった。
「レオン様、そろそろ食堂へ参りましょう」
「そうだね、行こうか」
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