第64話 礼儀作法とダンス
試験が終わって次の日の朝。
俺は家に帰ろうと思って帰り支度を始めると、ロジェにそれを止められた。
「レオン様、大旦那様からの伝言です。所属が貴族家になってる者で高位貴族から採点されるので、レオン様の試験結果は今日か明日にでも届くそうです。よって、本日も公爵家に泊まられて、試験結果を受け取ってからご実家に帰られた方が良いのではないでしょうか?」
そんなに早いんだ。それなら、公爵家で結果を待ってた方がいいかもしれないな。
「じゃあそうするよ」
でもそれだと、今からめっちゃ暇になるな。どうしようか? リュシアンは何してるんだろう?
「リュシアン様は、日中何をされてるかわかる?」
「はい。基本的には家庭教師による授業か、剣術の練習でございます」
楽しそう! 俺も一緒に受けさせてもらえないかな?
「それって俺も一緒に受けていいかな?」
「どうでしょうか。私では判断できませんので、大奥様に聞いてまいります」
そうしてロジェがカトリーヌ様に聞いてくれた結果、俺はリュシアンの授業を一緒に受けられることになった。
授業はリュシアンの部屋で行われるそうなので、俺はロジェとともにリュシアンの部屋を訪れた。
部屋に入るとまだ先生は来ていないようで、リュシアンがソファーに座っている。
「レオンおはよう。レオンと一緒に授業を受けられるなんて嬉しいよ!」
「リュシアン様おはようございます。一緒に受けさせていただき、光栄です」
「今日は午前中は礼儀作法とダンス、午後は剣術なんだ」
礼儀作法! これはありがたい。身分による正しい作法を知りたかったんだ。何か特殊な作法とかあるかもしれないからな。
それに剣術も楽しみだ! ただ、ダンスは一度もやったことないけど大丈夫だろうか? というか、もしかしてダンスって必須なのかな?
「リュシアン様、ダンスは踊れなければいけないのでしょうか?」
「そうだぞ。ダンスが踊れなければパーティーで恥をかくだろう? それに王立学校の授業でもダンスがあるぞ?」
え!? そうなの!?
知らなかった……真剣に覚えなきゃだよ。
そんな話をしていると、先生が来たらしい。俺は立ち上がって先生を迎え入れる。
「リュシアン様、本日もよろしくお願いいたします」
「ああ、私の方こそよろしく頼む。今日はここにいるレオンも一緒に授業を受けるのだが、構わないだろうか?」
「レオンと申します。よろしくお願いいたします」
「レオン様ですね。もちろん何人で受けていただいても構いませんわ」
「ありがとう。レオン、こちらは礼儀作法とダンスの先生だ」
この人が両方教えてるのか。少し細身でタレ目の優しそうな人だ。
先生とともに、机に座って授業が始まった。
「もうリュシアン様に教えることはあまりないので、今日はせっかくレオン様がいらっしゃるのですから、レオン様が知りたいことをお教えするというのはどうでしょうか?」
「それはいい! レオン、何か知りたいことがあるか?」
それはありがたい。礼儀作法とダンス、どちらも基本から教えて欲しいな。
「私はどちらもしっかりと習ったことがないのです。特にダンスは全くの初心者ですので、基本から教えていただければ嬉しいです」
「まあ、それは本当なのですか? それにしては言葉遣いがしっかりされていますけど……」
「礼儀作法は、見て学んだものや聞きかじりの知識なので、しっかりとした作法は知らないのです」
自分のやっていることが合ってるのか、いつもビクビクしてるのだ。一応周りに合わせてるし、今まで指摘されたことはないから大丈夫なのかもしれないけど、できればしっかりした知識を身につけたい。
「では、礼儀作法については、リュシアン様がお持ちの本で勉強されるのがいいかと思います。今日だけで全てを教えるのは難しいですし、レオン様は既に礼儀作法を身につけておられるようなので、後は本で知識を補完すれば大丈夫でしょう」
「それはいいな。先生が書いてまとめてくれた本なのだ。とてもわかりやすくまとまっているから、私も重宝した。しばらくレオンに貸しだそう」
凄いな、この先生が書いた本なのか。リュシアンがそこまでいうのなら、良い本なんだろう。貸してもらえるのはありがたい!
「ありがとうございます。では、その本をお借りいたします」
「レオン様ならば、礼儀作法はすぐにでも身につけられるでしょう。それでは、今日は礼儀作法ではなく、ダンスの授業をいたしましょう」
先生がそういうと、二人は席を立ち部屋の外へと歩いていく。俺も慌てて付いて行った。
しばらく歩くと、端にソファーと小さな机が置かれているだけの部屋に辿り着いた。ここはダンスの練習をする部屋だろうか。
「それでは、本日はレオン様がいらっしゃるので、もう一度基礎から復習いたします。基礎は重要ですから、リュシアン様も真剣に練習なさって下さい」
「わかってる」
「よろしくお願いします」
そこからきついダンスの練習が始まった。最初はダンスの基本となる姿勢の練習からだったが、とにかくこれに全然合格が出ない。自分ではしっかりと立っているつもりなのに、ダメ出しをくらうこと一時間弱、やっと合格が出た。
「レオン様、その姿勢です。その姿勢をキープしたままダンスを踊ります。間違っても、背筋を丸めるような姿勢になってはいけません。それから、胸を反らすのもいけません。あくまでも垂直を保つのです。肩には力を入れずにリラックスですよ」
この姿勢、慣れるまではかなり辛い。いい姿勢と言われると、どうしても胸を反った姿勢になっちゃうのだ。いつもは使わない筋肉を使ってるのか、身体中が疲れて来た……明日は筋肉痛だな。
「日頃からその姿勢を意識すれば、見栄えも良いですよ。これからはその姿勢で生活して下さい」
え!? これで毎日生活するの?
確かに見栄えはいいだろうけど……疲れる。貴族ってすごいな。確かにみんな姿勢いいなって思ってたんだ。
「では、その姿勢のまま歩いてみましょう。絶対に姿勢を崩さないでください」
「はい」
俺は歩き始めたが、歩くと姿勢が崩れる。
「レオン様、姿勢が崩れています。胸を反りすぎてはいけません」
「かしこまりました」
「レオン様、肩に力が入っています。もう少し力を抜いて下さい」
「はい」
その後はひたすらにダメ出しを受けながら、姿勢を保つ練習で終わった。それだけなのにめちゃくちゃ疲れた。
ダンスの練習なのにダンスをせずに終わったよ。
「この姿勢を自然にできるようになれば、後はステップを覚えるだけです。王立学校入学まで毎日練習すれば、授業でも苦労することはないでしょう」
そう言われたら毎日やるしかないな。頑張ろ。
「先生、今日はありがとうございました。リュシアン様も、貴重な授業時間を私のために使っていただき、ありがとうございました」
「私は仕事ですから、レオン様は真面目に練習してくれましたので、教え甲斐がありましたわ」
「私は既に一通り教わっているから、いつも復習なんだ。今日はレオンがいたから復習が捗ったよ」
「そう言っていただけると、ありがたいです。今日は本当にありがとうございました」
そうして午前の授業が終わり、リュシアンと一緒に昼食を食べた。
午後は剣術だ。俺とリュシアンは昼食を食べて少し休んでから、訓練着に着替えて庭に向かった。
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