第62話 入学試験
次の日の朝。
今日は試験当日だ。俺は流石に少しだけ緊張しつつ、朝の準備を進めていく。
なんか大学受験の日みたいな緊張感があるな。まあ、あの日の方がもっと緊張してたけど。俺は少し格上の大学を狙ってたから、合格できるかギリギリだったのだ。合格発表の日は緊張でやばかった。俺の受験番号を見つけた時は思わず涙ぐんだほどだ。
それと比べたら今日は、大学生が小学校受験を受けるようなものだ。そう考えたら流石に受かるだろう。
俺はお腹が痛くならないように、朝食をいつもより少なめに食べて、準備を終えた。
ふぅ〜、頑張ろう!
部屋から出て玄関ホールに向かう。馬車は既に待機していて、俺が馬車の前までたどり着くとリュシアンもすぐに来た。
「リュシアン様、おはようございます」
「レオン、おはよう。今日はお互い頑張ろう」
少し挨拶をして、すぐに二人で馬車に乗り込んだ。護衛は馬車の外にいるので、馬車の中は二人だけだ。少しの間だけ、言葉を崩して話せるな。
「レオン、二人きりになったぞ!」
「そうだね。ずっと従者の方もいるし、あんまり親しく話せる機会ってないよね」
「私は、いつでも親しく話して欲しいのに」
「うーん、それは難しいかな」
流石に平民の俺が、リュシアンを呼び捨てで呼んだり敬語なしで話していたらおかしいだろう。
それに他の人の前でも崩して話すようになったら、絶対どこかでボロが出る気がするんだよな。
立場を弁えないといけない場だったのに、呼び捨てで呼んじゃうとか。俺そういうミスしそうだから、二人きりの時だけの方がわかりやすくていいのだ。
まあ、リュシアンの護衛のジャックさんだけは、近くにいる時も崩して話していいって言われてるから、そうしてるけどね。
「まあそうだよな……それよりも、今日の試験は楽しみだな」
「楽しみなの?」
「ああ、同年代の子供と会うのは春の月を祝うパーティー以来だからな。パーティーではほとんど話せないし楽しみだ」
そっか、王立学校は貴族の子供が、社交を学ぶ場でもあるのかもな。身分についてや、身分による接し方、立ち居振る舞いは、学んでも実践しなければわからないことがあるのだろう。
貴族の子供は、王立学校に入るまでは殆どが領地にいるらしい。確か一年に一回、冬の終わり頃に王族主催で開かれるパーティーに出席するときだけは、王都に行くと行っていた。五歳くらいになると参加するそうだ。
ということは、それ以外で領地から離れることはないってことだよな。領地を持ってない貴族は、子供に爵位を引き継げない騎士爵だけだからな。
「王立学校では、沢山友達が出来るといいね」
「そうだが、深く付き合わない方が良い貴族も多い。そういう貴族の子供は注意しなければいけないな。同じ勢力の子供達と会うのが楽しみだ! レオンもタウンゼント公爵家所属だ。気をつけた方がいいぞ」
「そ、そうだよね。俺も気をつけるよ」
凄い……こういうところは流石、貴族の子だな。
でも本当に、俺も気をつけないとだよな。とりあえず、タウンゼント公爵家に敵対している貴族家の子供には、近づかないようにしよう。
仲良くなるのなら、同じ勢力の子供か最低でも中立の家の子供だな。まあ俺は平民だし、貴族の子供と仲良くなれるかはわからないけど。
リシャール様から教えてもらった、要注意リストの子供は特に気をつけよう。
昨日の夜、ロジェを通して要注意人物のリストを貰ったのだ。俺にとって危険のある貴族の名前が列挙してあって、かなりの数だった。こんなにいるのかとゲンナリしたものだ。その中でも特に覚えておいた方がいい貴族は、これから頑張って頭に入れていこうと思う。
それからもリュシアンと少し話をしていると、馬車が動き出した。王立学校は公爵家からそう遠くない場所にあるので、馬車で行くとそんなに時間はかからない。これからは毎朝、こうして行くことになるんだろうな。
しばらくして、馬車が止まった。
「リュシアン様、レオン様、王立学校に到着いたしました」
御者の方がそう言って、馬車の扉を開けてくれた。俺とリュシアンは少し緊張しつつも、馬車から降りる。
降りたところは、王立学校の敷地内にある馬車の停留所だった。周りにも大小様々な馬車があり、中から俺くらいの歳の子供が出てくる。馬車から出てくるってことはほとんどの子供が貴族ってことだよな。
俺は、改めて気を引き締めた。
「試験が終わりましたら、またこの場所にお越しください。お待ちしております」
「わかった。行ってくる」
「ありがとうございます。行ってきます」
「行ってらっしゃいませ」
御者の方が深く頭を下げて送り出してくれたので、俺とリュシアンは建物の方に歩いていく。
先程の馬車の停留所は、王立学校の正門を入って左側のスペースにあるようだった。ここからざっと見るだけでも敷地内はとても広く、たくさんの建物がある。
そして、敷地は高い壁で囲まれているようだ。門には騎士がいて、中には関係者しか入れないのだろう。
建物の方に歩いていくと、まず目に入るのは正面にある一番大きな建物だ。縦の大きさは三階建てくらいだろうけど、横に大きい。見た目にも豪華さが漂う建物で、貴族の屋敷のような雰囲気がある。
その建物の右側にはもう少しこじんまりとした、質素な建物がある。こちらの方が古そうな建物だ。もちろん俺の家の近くにあったら十分に豪華なのだが、真ん中の建物と比べてしまうと数段劣る。もしかして、真ん中の豪華な建物が高位貴族が通う建物で、右側の建物が下位貴族と平民とか? そんな区別ってあるのかな?
この世界なら普通にありそう……
そして、真ん中の豪華な建物の左側には、大きさは少し小さいが豪華さでは劣らない建物がある。これは何に使うのだろうか? うーん、考えてもわからない。
それから、その建物のさらに左側には、かなり大きな建物がある。例えるなら、学校の体育館のような感じだ。訓練場とかかな?
今、正面から見えるのはこれだけだ。入学したら施設案内とかあるのかな? 楽しみだ!
そんなことを考えつつ歩いていくと、王立学校の職員の人たちがいて、受験者を案内している。
それによると、貴族は真ん中の豪華な建物で、平民は体育館のような建物へ行くらしい。
「リュシアン様、私はあちらへ行きます。ご健闘をお祈りいたします」
「ああ、レオンも健闘を祈る」
「ありがとうございます」
そうして俺はリュシアンと別れて、平民が集まる建物へと向かった。
建物の入り口には、机が並べられていて受付の人が数人いる。俺は空いている受付に行き、受験票を渡した。
すると受付の人は、名簿で俺が登録されてるかを確認して、受験票を返してくれた。
「確認できましたので、会場にお入りください。会場にいる職員に受験票を見せていただければ、席までご案内いたします」
「ありがとうございます」
そうして会場に入ると、中は日本の受験会場と似たような雰囲気だった。等間隔に机と椅子が並べられていて、三割くらいはもう座っている。ただ、結構広いので、職員の方々は大変そうだな。
少し懐かしい気持ちになりながら会場を眺めていると、職員の方がやってきた。
「受験票をお見せいただけますか?」
「はい。よろしくお願いします」
「ありがとうございます。レオン様ですね、お席は少し遠いのでご案内いたします」
職員の方はそう言うと、スタスタと歩いていってしまったので、俺も慌てて追いかける。俺の席はかなり前の方だった。入り口は後ろにあるので結構遠い。
「こちらがお席です。試験開始まで座ってお待ちください」
「はい。ありがとうございます」
なんか流石に緊張してきたな。ただ待ってる時間って長く感じる。なにか教材でも持ってくればよかったけど、必要ないかと思って持ってきてないんだよな。
少しソワソワとしながらしばらく待っていると、試験開始時間になったのか、三人の職員が前から入ってきた。
「これから、王立学校入学試験を始めます。時間は一時間、途中退出は原則認められませんのでご注意ください。また、私語厳禁ですので違反した場合は不合格となります。では試験問題を配布します」
そうして配られた試験は、A4サイズより少し大きい二枚の紙で、問題と解答欄が一緒になっている形式だった。
日本の小学校のテスト用紙みたいな感じだ。
「では、始めてください」
俺は、一番初めの問題から解いていく。まずは計算問題のようだ。やっぱりめちゃくちゃ簡単だな。
順調に計算問題を終え、読み書きの問題、歴史の問題を終えた。
もう終わっちゃったよ、まだ十分くらいしか経ってない気がする。これは流石に合格できると思う。
あと五十分、暇だな。
俺はカンニングをしていると言われないように、何気なく少し周りを見てみた。周りにいるのは、大体が平民の中では豪華な服を着ているので、商会の子供たちなんだろう。頭を悩ませているようで、もう解き終わった子はいなそうだ。
やっぱり商会の子供といっても、勉強にそこまで時間を割けなかったり、お金を掛けられない家の子供は、この問題でもかなり難しいんだろうな。そう考えると、平民で受かるのはごく僅かっていうのもわかる気がする。
そんなことを考えながら、なんとか五十分やり過ごすと試験が終わった。
「試験は終了です。これから試験用紙を回収するので、全員分回収できるまでは、席を立たないでください」
職員が後ろから、試験用紙をどんどん回収していく。受験者数も多いが、職員も沢山いるのですぐに回収は終わったようだ。
「では、本日の試験はこれで終わりです。試験結果は受験票に書かれた所属へと送られるので、各自確認してください」
ふぁ〜、やっと終わった。合格は間違いないと思う。というか多分、全部合ってるはずだ。間違えようがなかったからな。
俺は暇すぎて少し眠くなった目を擦りながら、立ち上がり外に向けて歩き出した。リュシアンも終わったかな?
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