第59話 魚料理実食
皆は食べようとするも、味の想像ができないからか少し躊躇している。知らないものを食べるのって結構怖いよな。
そこで俺は、先に一口食べることにした。まずはサワラのムニエルにしよう。
サワラのムニエルを一口分取り、ぱくっと口に入れた。
う〜ん! 美味い!!
「このサワラめっちゃ美味しいよ! 皆食べてみて!」
俺がそういうと皆一斉にサワラに手を伸ばす。やっぱり未知のものを食べるのは、ちょっと怖いんだな。
俺は少し苦笑いしながら皆の様子を眺めた。
マリーは一口食べたあとは満面の笑みで、ひたすらサワラを食べている。イアン君は一口食べて驚いた顔のまま、フリーズしてる。
「お兄ちゃん! これ凄く美味しい!」
「それはサワラのムニエルだよ」
「それ! 美味しい!」
名前はよくわかってなさそうだが、とにかく美味しいようで良かった。
「これは驚きだな……」
「ええ、こんなに美味しいなんて。海の魚は身が柔らかくて美味しいわね」
「それにこの味付けも美味しい」
父さんと母さんも気に入ってくれたようで良かった。イアン君はやっとフリーズから戻り、二口目を食べている。
「イアン君、美味しい?」
「めちゃくちゃ美味しい! 美味しくてびっくりしてるよ」
それだけ言って、イアン君はひたすら食べ始めた。ここまで喜んでもらえると嬉しいなぁ。
俺も食べよう。次は、人参ソースを試してみるか。
俺はアジのフライに、人参ソースをつけて食べてみた。
おおっ! このソース適当に作った割には美味しいかも。俺はトマトソースの方が好きだけど、これも割といけるな。
「お兄ちゃん、これをつけて食べるの?」
「そうだよ。ただこのソースが好きじゃなかったら、塩をかけて食べるのでも美味しいからね」
「わかった!」
そう言ってマリーは、アジのフライに人参ソースをつけて食べた。
「う〜ん、マリーこれ好き! サクサクで美味しい!」
マリーのその言葉を聞いて、サワラばかり食べていた他の三人もアジのフライに手を伸ばす。
「本当ね! サクサクでとても美味しいわ」
「ああ、このソースも美味しいね」
「レオン君! これも最高だよ!」
そのあとは俺が食べなくても、思い思いの料理に手を伸ばして食べている。
全て美味しいみたいで良かった。ここまで喜んでもらえると、本当に嬉しいな。
俺も安心して、他の料理にも手を伸ばす。タコの唐揚げとブリの塩焼きは安定の美味しさだ。ホタテはどうだろうか? ホタテを一口食べてみると、かなり美味しい。
おおっ! オーブン焼きにしなくても結構いけるんだな。でも、やっぱりオーブンで焼いた方がもう一段階美味しい気がする。後で皆にそっちも食べさせてあげたいな。
そうして大満足で食事は終わった。
「お兄ちゃん! 全部凄く美味しかったよ!」
「ええ、これは最高のお土産ね」
「本当だね。すごく美味しかったし、作るのも楽しかったよ」
「どれも本当に美味しかった!」
そんなに喜んでもらえるなんて、嬉しいなぁ。この家族の一員で良かった。そう思って俺は自然と笑顔になる。
「そう言ってもらえて本当に嬉しいよ。皆ありがとう。また海に行く機会があったら、お土産買ってくるから食べようね!」
「うん! お兄ちゃん絶対だよ!」
マリーがかなり食い気味にそう言った。マリーは美味しいものに目がないんだよな。皆少し苦笑いだ。
「マリー、約束するよ」
「やったー!」
そのあとは俺が港街の話をしたりしながら、穏やかな時間が過ぎていった。やっぱり家族といるのは落ち着くな、そう思った。
次の日の朝。
俺は昼営業が終わるとマリーに捕まった。マリーは昨日食べた魚が忘れられなかったようで、川魚でもいいから食べたいと言い出したのだ。
そこで魚を獲れるかわからないけど、森に行くことになった。
「じゃあ行ってきまーす」
「気をつけるのよー」
俺とマリーは家を出て森までどんどんと歩いていく、早く行くだけ魚がたくさん獲れるかもしれないと、マリーが張り切っているのだ。
でも川魚って冬も獲れるの? 俺のイメージでは春とか夏なんだけど……
「マリー、さっきも言ったけど、魚が獲れるとは限らないからね。冬は獲れないかもしれないし」
「わかってるよ! でも行ってみなきゃわからないでしょ!」
マリーはずっとこの調子だ。意外と頑固なんだよなぁ。
俺とマリーは寒い冬空の下、森まで頑張って歩き川に辿り着いた。
さて、これからどうすればいいのか。釣りなんかしないから釣竿なんてないし、川に入るのはこの寒さでは流石に無理だ。それにこの川って、中心部とか結構深そうだよな。川は流れがあるし安易に入ると危ないんだ。
一応糸だけは持ってきてみたけど、そもそも魚なんて居るのか?
俺はとりあえず川をじっと眺めて魚を探してみる。隣でマリーも同じことをしている。
「マリー、魚いなさそうだよ」
「もっと探せばいるかも!」
またしばらく、川をじっと見つめて魚を探す。
「マリー、やっぱりいないんじゃない?」
俺がそういうと、マリーは少し落ち込んでいる。
「やっぱりいないのかなぁ」
うっ……そんなに落ち込まれると、もう帰ろうとは言いづらい。
「多分、冬は魚も奥に隠れてるとかじゃないのかな? 一応糸を持ってきたんだけど、これで魚が釣れるか待ってみる?」
「糸……?」
「そう。糸の先にエサをくっつけて川の中に沈めるんだ。それで魚が食いついたら、引っ張り上げる」
「お兄ちゃん凄いね! それなら魚獲れる?」
「うーん、これでも難しいと思うけど、とりあえずやってみる?」
「うん!」
とりあえず、マリーが笑顔になったから良かった。
俺はその辺の地面から小さな幼虫を見つけて幼虫を糸で縛り、糸を短い木の枝に結んだ。即席の簡易釣竿だ。
こんなもので釣れたら奇跡だな……
それでもマリーはワクワクしてるからいいか。
「じゃあこれを川の中に入れてみるね」
「うん!」
それからしばらくは、ずっと木の枝を持って待っていた。流石に寒すぎるので、俺は枯葉や枯れ技を集めて火をつけた。少しは暖かくなったけど、ずっと外にいると風邪をひきそうだ。
マリーは寒そうにしてるけど、自分で言い出したからか木の枝を持って我慢している。
さっきから一時間は経ってるけど、魚の影も見ないし釣れる気配は一切ない。流石にそろそろ終わりにして帰った方がいいかな〜。
「マリー、そろそろ帰ろうか。また夏になったら釣りに来ようよ。多分夏なら釣れるよ」
俺がそういうと、マリーの目にはみるみる涙が溜まっていく。え? なんで!? そんなに魚が釣れないのが悲しかったの!?
「マ、マリー、泣かないで。魚料理はできないけど、お兄ちゃんが他の美味しい料理を作るから」
俺がそう言ってもマリーは涙を流して無言だ。
「マリー、どうしたの?」
もう俺は大混乱だ。どうやって慰めればいいのかもわからなくて、ひたすら慌てることしかできない。
「ひっく……ひっ……お兄ちゃん……春には、家から出て、行っちゃうん、でしょ?」
マリーが泣きながらそう言った。
え? 魚じゃないの?
「うん。王立学校に行くから家には住まなくなるかな」
「じゃあ……夏になっても、お兄ちゃんと、一緒に釣りに、行けない? ひっく……ずびっ……」
マリーは俺が家から出て行っちゃうのが寂しくて泣いてるのか?
俺と夏に釣りに来れないかもって思って泣いてるのか?
そんなにマリーが、俺が家から出て行くことを悲しんでくれてたなんて……!
俺はめちゃくちゃ嬉しくて、でもマリーにつられて俺まで悲しくなってきた。
「マリー、夏には一緒に釣りに来れるよ。家から出ても頻繁に帰ってくるからね。だから釣りにもいけるし、他のことも一緒にできるよ」
「ほんとう……? お兄ちゃんもう帰って来なくなっちゃうんじゃないの?」
「そんなことあるわけないよ! お兄ちゃんはマリーが大好きだから、家に帰ってくるに決まってるよ」
「良かった……」
マリーが泣きながら笑っている。俺はマリーが安心できるようにぎゅっと抱きしめて背中を撫でてあげた。
そうだよな。マリーは大人びてるけどまだ子供だもんな。急に家族と会えなくなるって思ったら寂しいんだろう。
俺はマリーを落ち着かせながら決意した。
家族で一緒に、安全で快適で幸せな生活をできるように頑張ろう。
今、俺の家族は凄く危険な立場にある。俺を疎ましく思った貴族が狙いやすいのは家族だからだ。アレクシス様が、家族を守るために影の護衛をつけてくれたようだけど、それにずっと甘えてるわけにはいかない。
できる限り早く俺も地位を得て、敵対勢力を排除する手助けをしよう。地位を得たら自分で家族に護衛をつけることもできるだろうし、家族ということで近くの安全な場所に呼ぶこともできるかもしれない。
でも、できる限りみんなの嫌がることはしたくない。食堂を続けたいなら、別の場所でも続けられるようにしたいな。
王立学校で目立つのは嫌だとか思っていたけど、リシャール様の勢力を後押しするためなら、積極的に頑張ろう。
というか今更だけど、全属性のことも王立学校で隠さなくてもいいんじゃないか?
いや…………流石に全属性まで知られると、さらに過激な集団が出てくるのかもしれない。それにアレクシス様は他国の心配もしていたな。
やっぱり全属性は、俺が地位を得てからだな。平民にはいくらでも手を出せても、俺が貴族になれば手を出しづらくなるのだろう。まだこの辺の事情がよくわかってないけど、ちゃんと学ばないとだな。
とにかく家族と自分を守るために、家族皆で幸せな生活を送る未来のために、頑張ろう。
最初から能力のことはひた隠しにして、家族と幸せに生きて行くのでも良かったと思うこともある。でも一生隠し続けるなんて難しいだろうし、何かの拍子にバレた時が大変だ。そう考えると今の状態はかなり良いとも考えられる。
それに、できればもう少し生活水準は上げたいしな。最低でも水洗トイレとお風呂が欲しい。というか、下水道が欲しい。
そんなことを考えていると、マリーは落ち着いてきたようだ。
「お兄ちゃん……もう大丈夫だよ」
マリーは少し照れ臭そうにそう言った。俺の前で泣いたのが恥ずかしいのだろう。そこは指摘しないことにして、俺はできる限り優しい笑顔を浮かべた。
「じゃあ、そろそろ帰ろうか? 歩ける?」
「うん。もう大丈夫!」
元気に戻ったようだ。良かった。
俺とマリーは、行きよりもゆっくりと歩き並んで家まで帰った。
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