第58話 レオンの魚料理(自宅編)
お昼営業が大盛況で終わり、午後になった。
よしっ! 頑張って作るぞ!
俺は気合を入れて厨房に行った。母さんと父さんは料理を手伝ってくれて、マリーとイアンは見学だ。皆、海の食材に興味津々らしい。
俺は木箱を台に乗せて、蓋を開けた。大きい木箱には氷漬けの海の幸が入っていて、小さい方は中心街で買ってきた油などだ。足りないと困るから買ってきた。
「これって……氷? なんでこんなに氷があるんだ?」
イアン君が不思議そうにそう言っている。確かに真冬なら、外に水を張っておけば氷ができることもあるが、今はまだ冬の初め頃の季節だからな。
「これは、貴族の方が魔法具を貸してくれて作った氷なんだ」
俺の能力をあまり明かしてはいけないから、そう答えた。平民は魔法具のことを、貴族が使う便利な道具くらいの認識しかしてないので、大抵の場合は魔法具と言えば納得する。
「そうなんだ。やっぱり魔法具って便利なんだなー、氷まで作れるのか」
「そうなんだよ、羨ましいよね。それで、氷の中にあるのが海の食材だよ」
俺は次々と机の上に並べていく。ブリ、アジ、サワラ、ホタテ、タコの五種類だ。
「これで全部だよ。こっちから、ブリ、アジ、サワラ、ホタテ、タコって言うんだ」
俺がそうして説明していると、皆が一歩ずつ後ろに後ずさっている。え? どうしたの?
「皆どうしたの?」
「レ、レオン君、それはなんだ!?」
「それってどれのこと?」
イアン君が何かを怖がっているように俺にそう尋ねると、母さん、父さん、マリーも首を激しく縦に振って同意している。
「え? 皆どうしたの?」
「そ、それだよ、その気持ち悪い形のやつ! 一番端にあるやつ!」
「え? タコのこと?」
そっか! 一度も見たことがないと、タコってすごく奇妙なものに見えるんだよな。怖がっても仕方ないのかも。
確かに地球でも、海外のタコを食べない地域の人は皆怖がってた気がする。
「これは見た目は気持ち悪いかもしれないけど、美味しいから大丈夫!」
俺がそういうと、皆は半信半疑ながらも少し体の力を抜いてくれた。
ただ、タコの処理は俺がやらないとだな。
「あと、その硬そうなやつはなんだ? 食べられるのか?」
「硬そうなやつって、ホタテのこと? ホタテは中身を食べるから大丈夫。外側は食べないんだ」
「そうか、それならいいんだ」
イアン君はやっと安心したようだ。魚は川魚があるから、見たことはあるもんな。見たことが無いものは怖がって当然か。
でもこの世界って、川魚はほとんど食べないんだよね。たまに川で魚を取ってきた人が売り歩いてたりするけど、それもあまり見ない。完全にメインは肉だ。
川魚は一部の魚好きが、自分で獲って食べてるって感じなんだよな。
川で真剣に魚を獲れば結構な量が獲れると思うんだけど、それでもすぐに獲り尽くしちゃうのかな? まあ、養殖もしなければ、そこまで大量には獲れない気がする。
ずっと食べ続けるには向かないから、あまり食べられなくなったのだろうか?
確かに日本でも海の魚はよく食べてたけど、川魚ってあまり食べる機会はなかったかもな。旅行に行ったときにヤマメを食べたけど、その一回だけかも。
「それでレオン、どうやって調理すればいいんだ?」
父さんにそう聞かれた。父さんの目が、いつもより輝いているように見える。やっぱり料理人としては、新しい食材を料理できるのは楽しいんだろうか。
「うーん、魚を捌くのは難しいから俺がやるよ。港街で教えてもらったんだ。母さんと父さんは、捌いた魚の調理をお願いしてもいい? レシピは教えるから」
「わかったわ」
レシピはどうしようかな? ここにはオーブンがないからホタテのオーブン焼きはできない。うーん、ニンニクと塩胡椒で炒めればいいか。
アジとタコは前と同じで、フライと唐揚げでいこう。
サワラはムニエルにしようかな? 確かムニエルは、塩を振って小麦粉をまぶして油でよく焼くんだよな。その後にバターを入れればできるはず。一つくらい挑戦してもいいだろう。
あとはブリだけど、ブリって塩焼きか照り焼きかブリ大根しか思いつかない。でも照り焼きもブリ大根も、明らかに調味料が足りないんだよな。やっぱりシンプルに塩焼きだな。
まずは時間がかかりそうな揚げ物からいこう。俺はなんとかアジを捌いて、タコの下処理をしてぶつ切りにしていく。下処理は結構大変で身体強化魔法を使ってしまった。
ふぅ〜やっと終わった。多少はマシに捌けたはずだけど……
…………もっと練習しないとダメだな。
まあ、見た目はともかくとして、なんとかその二つは捌き終わった。
「母さん、アジは小麦粉につけて溶いた卵に浸して、そのあとパン粉を全体的につけて欲しいんだ。あっ! パン粉を作らなきゃだった。まずは細かくパンを砕いてくれる?」
「パンを砕けばいいの?」
「そう。みじん切りくらいまで細かくして欲しいんだ」
「そんなに細かくするの!?」
「粗すぎると、アジにくっつかなくて失敗するんだよ」
「そうなのね。じゃあ母さんはパンを細かくして小麦粉と卵を準備すればいいのね」
「うん! ありがとう」
母さんは早速パンを細かくしてくれている。俺より手際がいいみたいだ。さすが本職の料理人。
「父さん、父さんはこのタコに塩で味をつけてくれる? それでしばらくおいたら小麦粉をつけて揚げるから、鍋に油の準備もお願い。鍋の半分くらい油を入れてね。あと、火もつけてくれる?」
「半分!? 鍋の半分も油を使うのかい?」
「そうなんだ。残った油もまた使えるし、俺が油も買ってきたから大丈夫だよ」
「まあ、それならいいか……」
父さんはかなり驚きながらも、準備を始めてくれた。
俺はその間に、サワラとブリを捌いていく。
「レオン、パンはこのくらいでいいかしら?」
「うん! 完璧だよ! じゃあ母さんはアジを小麦粉と卵とパン粉につけたものと、タコに小麦粉をつけたものを揚げてくれる? 父さんが油は用意してくれてるから、油が温まったら揚げて欲しいんだ。この前に、俺がおばあちゃんの家でやったのとほとんど同じだよ」
「ああ、あの時の料理と同じなの? 少し違うみたいだけど」
「ちょっと違うけど似た料理なんだ」
「そうなのね。母さんやってみるわ」
母さんは腕まくりしてやる気満々だ。早速油の温度を確かめてるようだ。あっちはとりあえず母さんに任せよう。
「レオン、父さんはどうすればいい?」
「父さんはサワラとブリを焼いて欲しいんだ。まずサワラは、塩を振って小麦粉をまぶしてからフライパンで焼いて、焼けてきたらバターを少し入れれば完成。ブリは普通に塩を振って焼くだけだよ!」
「それならそこまで大変じゃないな。やってみるよ」
「うん! ありがと!」
よしっ……! これであとはホタテだけだ。ホタテはまず、身を取り出さないと。
俺は料理用のナイフでひたすらホタテの中身を取り出していく。そうしてホタテと格闘していると、イアン君が俺のところに来た。
「レオン君、それ俺もやってみていい? それなら難しくなさそうだから」
「やってくれるの? ありがとー、実は結構疲れてたんだよね」
「代わるよ、さっきまでやり方は見てたから大丈夫だと思う」
そうしてイアンくんが代わってくれた。結構疲れてたからありがたい。
俺はその間に、ニンニクをみじん切りにしてホタテを焼く準備をする。
「レオン君、全部できたよ」
「ありがとう! 本当に助かったよ」
俺はホタテを受け取り、清潔な布で少し水気を拭く。この布には俺がピュリフィケイションをかけておいた。布の雑菌でお腹を壊したなんてことになったら嫌だからな。
あとは焼くだけだ。父さんと母さんはそろそろ終わるだろうか?
見てみると父さんの方はもう焼き終わりそうだ。母さんはまだ苦戦している。ただ、揚がっているものを見ると、美味しそうだから大丈夫だろう。
「父さん焼き終わった?」
「今ちょうど終わったよ。凄くいい匂いで、父さんお腹空いちゃったよ」
「もうちょっと待ってね。あとこれ焼いたら終わりだから」
「それはさっきの硬そうだったやつの中身かい? ホタテだっけ」
「そうだよ。これをニンニクと塩で焼くんだ」
「じゃあそれも父さんが焼くよ。レオンはできたものから準備してくれるか? イアンもいるから食堂にしよう」
「わかった! じゃあよろしくね」
そうして俺はマリーとイアン君と、出来上がったものを食堂に並べてカトラリーやお皿を用意した。水も準備して完璧だ。
厨房に戻ると、父さんはもう片付けを始めようとしていて、母さんはまだ揚げている。
もう少しで出来上がるな。そう思ったときふと気づいた。
……やばい! フライのソースのこと考えてなかった。
どうしよう全然考えてなかった。やっぱりソースあったほうが美味しいよな。この家にはトマトあるんだろうか?
「父さん、トマトってある? 保存してあるやつとかでもいいんだけど!」
「トマト? トマトはないかな。うちではドライトマトはあまり作らないんだよね。冬には冬の野菜があるからね」
「そっか……」
どうしよう。冬の野菜で何かソース作れるかな?
「ちなみに今うちにある野菜って何?」
「うーん、小松菜、ブロッコリー、白菜、あと人参かな」
人参! 確か日本にいたときに、お母さんが人参ソースにハマってた気がする!
あれってどうやって作ってたんだっけ? 確かお母さんが、塩と油だけのやつが一番好きとか言ってたはず。
ということは、人参をみじん切りにして塩と油で炒めればいいのか? でもそれだとソースじゃないよな? ソースにするには、もう少し水気があるものを入れないといけない気がする。
うーん…………少し水を入れればいいのかな?
とりあえず作ってみよう。
「父さん、人参をみじん切りにしてくれる?」
「まだ何か作るのかい?」
「フライにつけるソースを忘れてたんだ。人参ソースを作ろうと思って」
「人参ソースなんて聞いたことないけど、まあレオンの料理はいつも美味しいからね。人参をみじん切りにすればいいんだよね?」
「うん! できる限り細かくお願い! 父さんありがとう!」
父さんは素早く人参のみじん切りを作ってくれた。かなり細かくしてくれたようだ。
俺はそれをフライパンに入れ、少しだけ水を入れて油と塩を入れた。これで火を通していけばいいのかな?
少ない量で作ったので、少し火を通すと段々と水気が飛んで、見た目ではソースのようになってきた。
これで美味しいのだろうか? まあ、美味しくなかったら塩をかけて食べてもらおう。
そうしているうちに揚げ物も終わったようで、食堂には海の幸の料理がずらりと並んでいる。
凄くいい匂いだ! 美味しそう!!
「じゃあ、皆で食べようか」
父さんがそう言って席に着き、他の皆も席に着いた。
「レオン、素敵なお土産をありがとう。いただきます」
「「いただきます!」」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます