第56話 夕食と貝殻の使い道

 俺が食堂に行くと、既に皆さんは食堂に揃っていた。


「遅れて申し訳ありません」

「いや、レオン君が夕食を作ってくれたのだろう? 遅れるのは仕方ない。それよりも君の料理が楽しみだ」

「私もとても楽しみですわ。レオンの料理は初めて食べますもの」


 リシャール様とカトリーヌ様は、とても楽しみにしてくれているらしい。


「先ほど買ったものを使ったのだろう? 私も楽しみだ」

「いつも食べている料理とは違うのだろうか? 期待している」


 リュシアンとフレデリック様も、ワクワクしている様子だ。なんか凄いプレッシャーなんだけど! 美味しくないって思われたらどうしよう……


 俺がそう思って「あまり期待しないでください!」って言おうとしたら、料理が運ばれて来てしまった。

 もう、皆さんの口に合うよう祈るしかない。

 使用人の方が運んできてくれた料理は、綺麗にお皿に盛り付けられて、高級料理のように見えた。俺が作ったとは思えない。とりあえず、全て一口ずつ食べてみよう。


 まずはブリの塩焼きからだな。

 ぱくっ…………うん、美味い。やっぱり塩焼きは美味い。だけど米が欲しくなる!! これはダメだ、白米が食べたい。


 次はホタテのオーブン焼きだ。

 ナイフで切ってフォークで食べる。最初はサクッとした食感があるけど、すぐにじゅわ〜と旨みが出て来て口の中に広がる。やばい……美味すぎる…………ニンニクも効いているな。これは絶品だ。


 ホタテのオーブン焼きは完璧だな。次はフライだ。トマトソースをかけて、サクッ…………美味っ!! サクサク食感最高すぎる。トマトソースも絶品だ。流石ナセルさん、美味しいです。


 次は最後、タコの唐揚げだな。ぱくっ、おおっ噛めば噛むほど旨みが出てくる。醤油につけた方が美味しいけど、塩でもいけるな。


 ふぅ〜、全部めちゃくちゃ美味しい。良かった、大成功だな。俺は皆さんの反応を見るために周りを見回した。

 あれ? なんか静かだな……もしかして美味しくないとか?


「あ、あの、お口に合いませんでしたか?」

「レオン君!」

「は、はい!」

「これは美味すぎるぞ! なんなんだ、特にこのホタテのオーブン焼きという料理、何個でも食べられる」

「私はこのサクサクした料理が好きですわ。食感がとても面白く、トマトソースとよく合いますわ。パンにも合いますわね」


 美味しいのなら良かった。リシャール様はホタテのオーブン焼きが好きみたいだ。わかります。

 カトリーヌ様はフライが好きみたいだな。


「レオン、ここまで美味しい料理を作れるとは驚いたぞ! 私はアジのフライが好きだ」

「私はタコの唐揚げだな。ただタコを焼いて塩をかけたものとは、また違う美味しさがある」


 リュシアンはアジのフライで、フレデリック様はタコの唐揚げらしい。美味しいと思ってもらえて良かった。

 俺は安心して続きを食べ始めた。

 リシャール様は「この料理を王都で食べるには製氷機があれば……」などと、ぶつぶつと呟いていたのでいずれ王都でも食べられるようになるかもな。

 リシャール様、頑張ってください!


 そうして大満足の夕食を終え、その日はすぐに眠りについた。慣れない料理をして結構疲れていたのだ。




 そして次の日の朝、今日はお昼を食べたら領都に帰るので、それまでにホタテの貝殻の処理をしてみようと思っている。


 朝食後、庭にやって来た。

 確かホタテの貝殻を、焼いて砕いて肥料にしてたよな。あれ? その前に水につけるんだっけ? 真水につけてたような気がする。

 うーん、よく覚えてないな。

 とりあえず長期的に試して効果をみるしかない。五分の一を今焼いて粉にしてみよう。あとは、水につける日数を変えて試してみるしかないな。


 俺は五分の一ほどの貝殻を手に取り、土魔法で少し窪ませた地面に入れた。そしてそこに火魔法で火を注ぎ続け、貝殻をしっかり焼いた。他の焼き方がいいのかも知れないけど、とりあえず焼けば大丈夫だろう。

 よく覚えてないから、適当にやってみるしかないのだ。

 後はこれを粉々にするんだよな。俺は土魔法で硬い石の器のようなものを作り、そこに貝殻を入れた。そして土魔法で作った硬い石の棒で貝殻を砕く。

 おー、結構簡単に砕けるな。でも細かくするのは大変かも。俺はしばらく無心で砕き続けた。


 よしっ! このぐらいでいいかな?

 俺がそう思って立ち上がったところ、ロジェが怪訝な表情で粉々になった貝殻を見ている。


「レオン様、先ほどから何をされているのですか?」

「実験だよ」

「実験とは、何のでしょうか?」

「この貝殻を粉々にしたものが、肥料になるかもしれないんだ。とりあえず少し作ってみようと思ってね。リシャール様やクリストフ様に説明するにも、現物があった方がいいからね」


 ロジェは俺の説明を聞いて少し納得したようだった。


「この粉を入れる袋を持って来てもらってもいい?」

「かしこまりました」


 そうしてロジェが持って来てくれた袋に貝殻の粉を入れた。とりあえずここまでだな。後は領都に戻って、他の貝殻は真水につけて試してもらうしかない。焼かないで粉々にしてみるのもありかも? あとは、どのくらいの量をどのくらいの頻度で使うのかも試さないとだよな。確かめないといけないことがたくさんある。

 ここまで知識が曖昧だと、リシャール様も困るだろうか? 

 うーん…………でもゴミになっていたものが有効活用できる可能性があるのだから、相談するだけしてみよう。


 本当は、こういう知識を話すと何でそんなことを知ってるんだと疑問に思われるから、今までは話さないようにしてたんだ。だけどマルティーヌによると、リシャール様やアレクシス様は俺のことを使徒様だと思い込んでいるらしい。それならば、色々な知識を知っていることを疑問には思わないだろう。

 俺が自分から使徒様だと嘘をついたわけじゃなくて、否定してるのに相手が勘違いをしてくれてるのなら良いよな。ちょっとだけ勘違いを利用させてもらって、少しでもこの世界を自分の為に改善したい。

 とりあえず、海の幸を王都で食べられるようにするための一歩になれば良いな。この肥料が港街の特産品になって、今より街が注目されたら海の幸にも注目が集まるかもしれない。需要が高まれば必ず供給も上がるはずだ。製氷機も作ったし、輸送に問題もないだろう。

 まあ、こんなに上手くいくとは限らないけど、やらないよりはマシだからな。



 昼食まで時間があったのでとりあえずリシャール様に話してみようと思い、ロジェに面会できるか確認してもらったところ、いつでも来てくれと返答があった。

 

 俺とロジェは、貝殻と貝殻の粉を持ちリシャール様の部屋を訪ねた。


「それで今回はなんの話なんだ?」


 リシャール様は、俺がソファーに座るのと同時に人払いをしてくれた。俺の話はいつもやばい話だって思われてるのかな……まあ、否定はしないけど。


「今回はホタテの貝殻の話です」

「ホタテの貝殻とは、昨日の夜食べた料理のホタテか?」

「はい。ホタテの貝殻は焼いて砕くと肥料になるのです」

「なっ……本当か!?」

「はい。そんなに慌てるようなことですか?」

「いや、貝殻は特に使い道のない邪魔なものだと思っていたからな、驚いたんだ。それを有効活用できるのならばありがたい。海岸にもゴミとして積み上がっていると聞いている」


 確かに、邪魔な山が宝の山になるかもしれないもんな。


「それでどうすれば肥料になるのだ?」

「あまり正確なことは言えないのですが、とにかく砕いて土に混ぜればいいのだと思います。ただ砕く前に焼いたり、何日間か真水につけたりすると効果が変わるはずです。一番効果的な作り方はわからないので、そこは試行錯誤してもらうしかないのですが……」

「いや、それだけわかっていれば簡単に試行錯誤できる。冬の間に何パターンか作ってみて、夏野菜で試してみるのがいいな。とりあえずは領都の屋敷の畑でやるのがいいだろう。上手くいったらこの街で作らせるか。街の特産品になるかもしれないな……」


 リシャール様は、後半は完全に独り言で自分の思考の沼に沈んでしまった。

 話を進めていいかな……?


「リシャール様?」

「ああ、すまない。つい考え込んでしまった」

「いや、大丈夫です。それからどれほどの量を土に混ぜ込むのか、どのくらいの頻度が最適かもはっきりとしたことは言えないのですが……それでも良いでしょうか?」


 確か、肥料って量が多すぎてもダメなんだよな。日本でお母さんがやってた家庭菜園では、肥料をあげすぎてダメになったって言ってた気がする。


「ああ、新しいことを始めるのに試行錯誤するのは当然だ。ホタテの貝殻が使えるかもしれないという情報だけでありがたい。確かに、どれほどの量を使えば良いのかも試してみないとダメだな。今まで使っていた肥料との併用なども試してみるべきだろう……」


 リシャール様がまた思考の沼に沈みそうだ。これは、早めに話を終わらせた方が良さそうだな。


「リシャール様、この袋に入っているのが真水にはつけずに焼いて砕いたものです。この木箱には市場でもらって来た貝殻がそのまま入っています」

「これか、結構細かく砕くんだな」

「どのぐらいの細かさがいいのかも試行錯誤して欲しいのですが、粗すぎるのはよくないと思います」


 リシャール様は、貝殻の粉をじっと眺めてから顔を上げた。


「レオン君、有益な情報をありがとう。君には世話になってばかりだな。何か恩返しできたらいいんだが」


 リシャール様がそう言って、少し申し訳なさそうにしている。


「いえ、私はタウンゼント公爵家の方々にはとても良くして頂いているので当然です。逆に、私がもっと恩返ししなければならないと思っています。今回も曖昧な情報で申し訳ないです」


 最初に会った貴族が公爵家の方々のように良い人たちでなければ、家族を人質に取られて、無理やり何かをさせられていた可能性もある。俺自身が監禁された可能性もある。魔法が使えるとは言っても、万能ではないからな。


 最初の頃はあまり危機感がなかったので、本当に俺はタウンゼント公爵家の方々と会えて幸運だった。もう一生分の恩があると思っている。


「そう言ってもらえて嬉しいよ。では、この話は領都に帰ったらクリストフと話し合うことにする。またレオン君に話を聞くかもしれないが良いか?」

「はい。いつでも聞いてください」


 そうしてリシャール様との話は終わった。リシャール様は、使用人に海岸から貝殻を持って来させるようだ。たくさんないと様々なパターンが試せないからな。


 公爵家への恩返しは、真剣に考えた方がいいかもしれない。凄く良くしてもらってるのに、返せているものが少なすぎる。また使えそうな知識を思い出したら、リシャール様に伝えることにしよう。



 それからは、自分の部屋に帰りのんびりとした後、皆さんと昼食を食べて港街を後にした。

 とても充実した二日間だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る