第52話 後始末と複合魔法
最初に我に返ったのは、リュシアンの護衛の人だった。凄い勢いで駆けてきて、リュシアンの前で止まる。
「リュシアン様、お怪我はありませんか!?」
リュシアンは、その言葉でやっと我に返ったようだ。
「あ、ああ、怪我はないから大丈夫だ」
やばい、今更気づいたけど、俺めっちゃ怒られるんじゃないか? 公爵家の子息を危険に晒したってヤバそう……
そう気づいて戦々恐々としていると、リュシアンがキラキラした目で俺の方を向いた。
「レオン! 凄い威力だな!」
「あ、ああ、ちょっと魔力を込めすぎちゃった。ごめん……岩壊しちゃったし」
「そんなのいいんだ、岩なんてまた持ってくればいいんだから。私もレオンも怪我していないし」
「そうか、それなら良かった」
俺はホッとして少し顔を緩ませた。しかしそこで気づいた。護衛の人がいたのに敬語使ってなかった!
俺が護衛の人とリュシアンの顔を交互に見てワタワタとしていると、何に焦っているのかわかったのか、護衛の人が声をかけてくれた。
「俺はうるさく言わないから大丈夫だぞ? リュシアン様と仲良くなってくれてありがとな。いつも大人ぶっていたから、逆に年相応のリュシアン様が見れて良かった」
護衛の人がそういうと、リュシアンは恥ずかしくなったのか顔を赤くして抗議している。
「ジャック! それは言わないでくれ」
ジャックさんというのか。ジャックさんはそんなリュシアンを見て優しく笑っている。
良い主従関係を築けてるんだな。ジャックさんいい人だ。
そんな感じで三人で話していると、他の使用人も駆け寄ってきた。また、屋敷の中からリシャール様、クリストフ様、フレデリック様も出てきたようだ。
「何があったんだ?」
リシャール様が少し慌ててそう聞いてくる。
これは誤魔化せないよな……正直に言った方がいい。
「すみません! 私がリュシアン様に魔法を見せたところ、威力を間違えてしまって……」
「どんな魔法を使ったら、こんなことになるんだ?」
リシャール様が、少し強張った顔で恐る恐る聞いてきた。やっぱりこれってやばい威力だよな……
複合魔法のことを説明した方がいいんだろうけど、使用人には聞かれない方がいい気がする。
「えっと……」
俺はチラッと使用人の方を見てから、リシャール様を見た。
するとリシャール様は俺が言いたいことがわかったのか、使用人を下がらせてくれた。
「これなら大丈夫だ」
「ありがとうございます。私が先ほど使った魔法は、二つ以上の属性魔法を組み合わせたもので、私は複合魔法と呼んでいます」
「組み合わせる……? そんなことができるのか?」
「はい。先ほど使ったのは土魔法と火魔法を複合させた、ファイヤーバレットという魔法です」
俺がそういうと、リシャール様はしばらく考え込んでしまった。クリストフ様やフレデリック様も難しい顔をしている。
「レオン君、それは二人で魔法を使って複合させることもできるのだろうか」
確かに……! 練習すればできるかもしれないな。それができれば結構強いんじゃないか? というか、今まで試したことがないのだろうか?
「わかりませんが、できるかもしれません。今まで試したことがなかったのですか?」
「魔法を攻撃に使う時は、戦争の時か魔物と戦う時だからな。基本的には剣で戦い、魔法は補助的役割なのだ。魔力量が五であっても、攻撃に使えるような魔法は何度も使えるものではないからな」
じゃあ、攻撃魔法はあまり発展してないってことなのか。でも、これからも補助的役割としてしか使わないのなら、複合魔法はいらないんじゃないか?
「そうなんですね。でもそれなら、これからも複合魔法はいらないんじゃないですか?」
「いや、レオン君が魔法を教えることになれば、今までよりもたくさん魔法が使えるようになるのだろう? それなら後衛として魔法を専門に使う者を置くのも、有効的かもしれない」
確かに、今までの三倍以上は魔法を使えるようになるだろう。それなら複合魔法で後衛から攻撃するのも有効かもな。
「確かにそうですね、じゃあやってみましょう。私が土魔法で矢じりを作るので、リュシアン様がそれに火魔法を纏わせてくれますか?」
「わかった。さっき見た魔法のようにやればいいんだな」
「では行きます」
『バレット』
『ファイヤーボール』
俺が空中に作った矢じりに、リュシアンがファイヤーボールを纏わせた。
「では三、二、一、で飛ばしましょう。行きます、三、二、一」
ドュンッ……俺が作ったバレットとリュシアンのファイヤーボールが岩に向かって飛んでいったが、俺の方がスピードが速くバレットが先に岩にたどり着き、その後にファイヤーボールが岩に着いた。
うーん、これでもバレットが熱せられることで効果はあるけど、微妙だよな。
スピードを合わせるのは結構大変だ。かなり練習をすればできるかもしれないが、難しいな。
うーん、ロックトルネードならスピードを合わせる必要はないし、広範囲に攻撃できるしそっちの方がいいかもしれない。
「これは、スピードを合わせるのが難しいですね。もう一つの複合魔法、ロックトルネードというのがあるんですが、そちらの方が簡単にできるかもしれません」
俺がそういうと、リシャール様は「もう一つあるのか」と少し驚いたような呆れたような顔をしたが、俺だからと納得したのかすぐに切り替えたようだ。
「では、それをやってみてほしい」
「かしこまりました。これは土魔法と風魔法を使うのですが、どちらかを使える方はいらっしゃいますか?」
「私が土魔法を使える」
フレデリック様がそう言った。フレデリック様は土属性だったのか。
「では土魔法で、複数の矢じりを作っていただくことはできますか?」
「先ほどレオンが作っていたやつか?」
「そうです。私が風魔法でトルネードを作るので、その中に矢じりを作り出してほしいです」
「土魔法で作り出した物を浮かせることができないのだが、作り出して投げ入れるのでもいいだろうか?」
えっと……外から投げ入れても大丈夫なのだろうか? 弾かれる気もするな。それに今回は、作り出した矢じりを浮かせる必要はなくて、トルネードの中に作り出せればいいんだよな。
「この魔法では、矢じりを浮かせる必要はないんです。トルネードの中に作り出せればいいのですが、遠くに作り出すことはできますか?」
「あまりやったことがないな……試してみよう」
フレデリック様がそう言って土魔法を使うと、しっかりと離れた空中に矢じりが作り出されていた。
「できるみたいだ」
「では、今回はそれで大丈夫です」
俺はそのまま魔法を試そうと思ったんだが、フレデリック様が俺をジーッと見つめてきている。え? 何?
「どうしましたか?」
「土魔法で作り出したものを、浮かせるにはどうしたらいいんだ?」
「えっと……今回は必要ないですが?」
「それでも知りたいんだ。教えてくれないか?」
え〜、説明するの結構大変なんだよな。俺はそう思って、フレデリック様を止めてくれる人を探すために周りを見てみると、皆さん興味津々の顔で俺の説明を待っている。はぁ〜、説明するしかないか。
それからは、この世界には重力があるという話から始めて、無重力の話までを説明しきった。土魔法で作ったものを浮かせるには、無重力のイメージが一番いいのだ。イメージなしに浮かせようとすると、魔力がかなり必要になり、普通の人では不可能になる。
…………やっと終わったな。
結構理解してもらうのに時間がかかったし、皆さんが興味津々で質問攻めだった。俺もそんなに詳しくは知らないので、なんとか知ってる知識を集結させて答えた。とにかく疲れた。
でも、これからが本番だ。
「では、ロックトルネードを試してみてもいいですか?」
「ああ、脱線させてすまないな。よろしく頼む」
「かしこまりました。では、トルネードを作ります。矢じりがこちらに飛んでくると危ないので、壁も作ってもいいでしょうか? 向こうを覗けるほどの穴は開けておきますので」
「ああ、構わないよ」
「では、『ウォール』」
俺はトルネードを作る予定の場所をウォールで囲った。これで大丈夫だろう。覗き穴もしっかりと作られている。
「ではいきます。『トルネード』フレデリック様お願いします」
「わかった。『バレット』」
俺が出現させたトルネードに、フレデリック様が出現させたバレットが巻き込まれて、凶悪な感じになっている。
何か物を放り込んでみた方がわかりやすいよな。あの的を使ってもいいだろうか?
「クリストフ様、あの的をロックトルネードの中に入れてもいいですか? 威力がわかりやすいと思うのです」
「ああ、良いよ」
「ありがとうございます」
俺は、カカシのような木と布でできた的をロックトルネードの中に放り入れた。
バキバキッバキバキッ…………
すぐにバラバラに砕け散った。やっぱりこの魔法は凶悪だ。使い所は考えないとだよな。
それからは少しだけトルネードを維持し、しばらくしてから魔力を流すのを止めて、トルネードを消した。バレットは現実の土を使って作るのでそのまま残っている。
土魔法は魔力から土を作り出すこともできるのだが、身近にある土を使った方が消費魔力量が減るのだ。それゆえに、ほとんどの場合は現実の土を使う。
ふぅ〜、とりあえず成功してよかった。俺は複合魔法が成功したことに満足して、後ろを振り返った。すると皆さん驚愕の表情で固まっている。
おおっ……やっぱり結構驚いてるみたいだ。まあ、かなり凶悪な魔法だからな。
「どうでしたか? 一応魔法は成功しましたけど……」
「ああ……あまりにも威力が高くて驚いただけだ。これは、魔物相手にはいいかもしれないな」
リシャール様がそういうと皆さんフリーズから戻ってきて、今度は難しい顔で考え込んでいる。
色々使える場面を考えているのだろう。でもとりあえず疲れたから屋敷に戻りたい。もうお昼過ぎてるし、お腹空いた。
「あの、屋敷に戻りませんか? もうお昼も過ぎてますし……」
「もうそんな時間なのか! そうだな、考えるのはまた後にして一度屋敷に戻ろう。陛下にも相談が必要だろう」
リシャール様は最後に不穏な言葉を言って、屋敷に戻って行く。
また陛下に相談するような案件なんですか!?
目立たないようにって思ってるのに、なんでやり過ぎちゃうんだ……
俺は疲れて少し足取り重く、屋敷の方へと歩き出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます