第51話 魔法の授業(リュシアン編)
結果、夕食に海の幸はありませんでした。
港街から領都までは馬車で三時間はかかるようで、まだ製氷機が普及してないから、領都まで運んでくるのは難しいらしい。今の季節なら大丈夫だろうけど、危険性があるものをわざわざ食べる必要はない、という考えのようだ。
確かにそうだけど……! 製氷機は早急に普及が必要だ。ただ平民に買うことはできないから、公爵家が買って貸し出すことになるだろう。そうすると盗難されないように監視も必要だからその人員も必要になるし、頻繁に使うのなら魔力を込められる人も必要だよな、
…………結構大変そうだ。
それに、そんな大量に作れるのかという問題もある。魔鉄や魔石がどの程度あるのかわからない。平民にも広げられるほどあるのだろうか?
問題点は山積みだな。
まあ、とりあえずは港街に行って、海の幸を堪能しよう!
海の幸はなかったけど夕食は普通に美味しかった。そして夕食が終わった後は、旅の疲れもあるだろうからと早々に休んだ。
俺は部屋でベッドに横になると、すぐに眠りについた。
「レオン様、おはようございます」
う〜ん……ロジェが俺を起こしている。でもまだ眠い。
「レオン様、本日はリュシアン様に、魔法をお教えするのではなかったのですか? そろそろ起きなければ間に合いません」
「うん、起きるよ……」
そうだ。今日はリュシアン様に魔法を教えるんだった。俺が遅刻はダメだろう。
よしっ! 起きるか。俺はベッドの上で起き上がり、うーんと伸びをした。
「ロジェおはよう」
「おはようございます。リュシアン様の従者からの伝言ですが、リュシアン様は本日レオン様に魔法を教えてもらうことをとても楽しみにしておられるようで、できれば予定の時間よりも早く、準備が終わり次第来て欲しいとのことです」
「そうなの? じゃあ結構急いだ方がいいってことだよね」
「はい。リュシアン様は既に朝食を終えられているようです」
それ早すぎない? というか今、俺を待ってるってこと!? 俺が待つのはともかく待たせるのはダメだろう。
急がなきゃ!
「ロジェ、すぐに朝食の準備をして。俺は着替えておくから」
「かしこまりました」
そうして俺は、今までで一番急いで準備をした。
なんか朝から疲れたよ。
「レオン様がお越しです」
ロジェがリュシアン様の部屋の扉を叩き、そう言った。魔法の練習には外の方がいいのだが、リュシアン様の部屋に呼ばれたのだ。
ドアが開き部屋に入ると、リュシアン様が金の瞳をキラキラと輝かせて、ソファーに座って待っていた。
第一印象は精悍でしっかりとしたイメージだったが、昨日の応接室での様子や今の様子からして、素は好奇心旺盛なところがあるようだ。まあ、まだ九歳だからな。
「リュシアン様、おはようございます」
「レオンおはよう。座ってくれ」
「失礼いたします」
「皆はレオンにお茶を準備したら下がってくれるか」
リュシアン様がそう言うと、使用人達はテキパキとお茶の準備だけをして下がって行った。護衛の方もすんなりと下がっていった。
俺は結構信用されてるのかもな。というか、公爵家の使用人ってやっぱりレベル高い。
「レオン、今日は魔法を教えてくれるのだろう?」
「はい。リュシアン様は火属性でしたよね? 魔力量はいくつなのでしょうか?」
「レオン、同い年なのだしそのように改まって話さなくてもいいぞ! せっかく初めての友達なのだから、もっと仲良くなりたい」
また言われた……マルティーヌ様といい、リュシアン様といい、俺は平民だということをわかっているのだろうか?
「ですが、私は平民ですし……」
「そのようなことは関係ない! 確かに公の場や他の人がいる場所では改まった言葉遣いも必要だが、二人しかいない時はいいだろう?」
これいくら断っても意味ないやつだ……
まあ二人きりの時ならいいよな。これの問題点は、俺がタメ口に慣れて他の人がいる場でも言葉が崩れてしまうことなんだよな。気をつけないと。
「じゃあ、二人きりの時だけはそうするよ」
「ありがとう! 私のことはリュシアンって呼んでくれ」
「わかったよ。これからよろしく、リュシアン」
俺がそういうと、リュシアンは本当に嬉しそうに破顔した。こんなに喜んでもらえるのなら良かった。
「じゃあ魔法を教えてくれるか? 私の魔力量は四なんだが、大丈夫だろうか?」
「うん、魔力量はいくつでも魔法を教えるのに支障はないよ。ただ、どの程度で魔力切れが起こるのか、一応確認しておきたかったんだ」
俺が魔法を教えるのは王立学校を卒業してからと言われているが、例外で全属性のことを知っている人には教えてもいいと言われている。
「それなら良かった。火魔法だから外の方がいいよな? 魔法の練習場があるんだ」
「ならそこに行こう」
そうして俺とリュシアンは、外にある魔法の練習場へと行った。そこは屋敷の裏にあって、開けた場所で岩や的が置かれている。
リュシアンの従者と護衛、それからロジェは少し離れたところにいる。会話は聞こえないほどの距離だ。
「リュシアンは魔法を使うときに、イメージをしてるよね? どんなイメージ?」
「それは、火をイメージしている」
「それって燃えている火をイメージして、火魔法を使ってるってことだよね?」
「そうだな」
「じゃあそのイメージに、今から俺が教えるイメージを加えて欲しいんだ」
そうして俺は、またまた空気や酸素についての説明をした。リュシアンは剣術が好きなようだったから頭はどうなのだろうと思っていたけど、かなり理解が早かった。
考え方は柔軟だし、記憶力もいい。剣の腕も強くて頭もいいとは、王立学校に行ったらめちゃくちゃモテそうだな。
「レオン、なんとなくわかった気がするからやってみてもいいか?」
「うん、さっきのイメージで魔法を使って、ファイヤーボールをあの岩に当ててみて」
「わかった。『ファイヤーボール』」
おおっ! 結構スピードがあるな。リュシアンは魔法の腕もいいのかもしれない。
「どうだった? いつもより少ない魔力で使えたと思うんだけど?」
「レオン! これは凄い! 今までの半分以下の魔力しか使ってない」
「それなら良かったよ」
とりあえずできたなら良かった。俺は安堵して少し体の力を抜いた。
「それじゃあ、そのイメージを忘れないようにね。すぐにイメージできるようにしておけば、咄嗟にも使えると思うから」
「わかった! レオンありがとう」
「いいんだよ。友達でしょ?」
俺がそういうとリュシアンはすごく嬉しそうな顔になった。確かに領主の子だと領地で友達もできないもんな。
「うん!」
「じゃあ。そろそろ終わりにして戻る?」
「うーん、その前にレオンの魔法を見せてくれない?」
「魔法? 昨日見せたけど……」
「昨日は攻撃する魔法じゃなかっただろ? 攻撃魔法を見せてくれないか?」
「まあ、いいけど……ファイヤーボールでいい?」
「うーん、レオンは全部の属性魔法が使えるんだよな? それを組み合わせた魔法とかできないのか?」
うっ……できるけど威力が高すぎるんだよな。あれを見せたら怖がられないかな?
「えっと……できないよ」
俺はそう否定したが、少し視線を泳がせてしまったので、リュシアンには嘘だとバレバレだったようだ。俺のことをジト目で見てくる。
「レオン、嘘はよくないぞ」
「うっ……だけど、威力が高すぎるんだよ」
「じゃあ威力を抑えてやればいいじゃないか」
まあ、確かにそうか。見てるのはロジェとリュシアンの従者と護衛の方だから、全属性は見せても問題ないよな。
他の方々の従者や護衛には最初の時に全属性であることがバレているから、公爵家の人間のお付きの使用人には伝えてあるらしい。
「じゃあファイヤーバレットって魔法をやってみるね。土魔法で作った矢じりに、火魔法で火を纏わせたものなんだ」
「なにそれ。凄くカッコ良さそうだ!」
「俺もそう思う」
俺は褒められてちょっと嬉しくなった。今までは森で練習してただけだからな。それに最近は回復魔法の練習ばかりで、使っていなかった。久しぶりだ。
えっと、どのくらいの魔力でやれば小さな威力になるだろう? とりあえず前の時と同じくらいの魔力量でやれば大丈夫だよな。あの時は岩にめり込んだくらいだったし。
俺はなんとなく、ファイヤーバレットと口に出して魔法を使った。その方がかっこいいという理由だけだ。
『ファイヤーバレット』
俺が放ったファイヤーバレットはかなりのスピードで岩まで飛んでいき、岩を爆散させた。
やばい!! 俺は瞬間的にそう察知して、俺たちの前に魔力をかなり込めて頑丈にし、ウォールを作った。
ドガンッ…………
凄い音がして、その後静寂が訪れた。
やばい……なんでこんな威力になったんだ? 俺、前の時と同じくらいの魔力を込めたはずなんだけど? もしかして魔力量が増えすぎて繊細なコントロールができなくなってるとか?
確かに回復魔法は結構魔力を使うから、繊細なコントロールは必要ないんだよな。
うわぁ〜、やっちゃったよ。
周りを見てみると、ウォールを作ったので周りの地面が沈んでいて、小さな岩の破片が散乱している。
遠くでは、使用人の方達が呆然としているようだ。
横を見ていると、リュシアンが驚きに口を開けてポカーンとしている。
この事態どう収拾すればいいんだ?
誰か助けてくれー!!
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