第50話 現公爵一家
「父上、母上、それからフレデリックも、リュシアンを迎えに来てくださりありがとうございます」
「お祖父様、お祖母様、叔父上、ありがとうございます」
リュシアン様めちゃくちゃしっかりしてる。九歳とは思えないな。これが貴族教育の賜物なのか。
俺は九歳だけど、中身は成人済みだからな。
「リュシアン、お前に何かあったら大変だからな。迎えにくるのは当然だ」
リシャール様は威厳を取り戻そうと、カッコよくそう言ったのだろうが、顔が緩みすぎてて全く威厳はない。
小さい子だからデレデレとかじゃなくて、孫だからデレデレなんだな。
ずっと思ってたけど、タウンゼント公爵家って貴族の中ではかなり家族関係が良好だ。俺のイメージでは貴族って、殺伐とした家族関係のイメージだったんだけど。
他の貴族をあまり知らないからなんとも言えないが、この家は貴族の中では特殊な気がする。
俺って最初にフレデリック様と知り合ったの、かなりラッキーだったよな。それにマルセルさんと知り合ったのも。他の人だったらいいように利用されたり監禁とかもあったかもしれない。
…………そう考えると怖っ! 本当に良かった。
「私は、王立学校に行くのをとても楽しみにしていたのです! 剣の授業が楽しみです」
「そうか、リュシアンは剣が好きなのか。剣の腕を磨くのはいいことだ。自衛にもなるからこれからも頑張りなさい」
「はい!」
リュシアン様が目を輝かせてそう言っている。剣が好きなのか、やっぱり強そうだと思った。九歳にしてはガタイもいいもんな。
というか剣の授業か……俺も楽しみだな!
全属性は隠さないといけないから身体強化は使えないけど、何事もまずは基礎を身につけてからだ。俺も頑張ろう。攻撃の手数は多い方がいいし、魔法は接近戦にはあまり向いてないからな。
「レオンも私と同じ年に入学するんだよな?」
リュシアン様が、急に俺に話を振って来た。
「えっと、そうです。これからよろしくお願いします」
俺がそう言って頭を下げると、リュシアン様は目を輝かせた。
「私は同い年の友達は初めてなんだ。レオン、これからよろしく!」
リュシアン様がそう言ってニカッと笑った。こんなに友好的だとは思わなかった。俺が平民ってことは聞いてるはずだよな。タウンゼント公爵家方々は凄いな、ありがたい。
「よろしくお願いします」
俺も笑顔でそう返した。そうするとリュシアン様は少し周りを見渡して、小声でクリストフ様に尋ねた。
「父上、今ここでレオンの能力の話をしてもいいのでしょうか?」
「そうだな……皆は少し下がってくれるか」
クリストフ様は少し悩んだ後、使用人を皆下がらせた。そうして使用人が全員廊下に下がった。
「リュシアン、ここでなら話していい。一応使用人にも聞かれないようにするんだ」
「わかりました」
リュシアン様はクリストフ様とそう話すと、俺の方をまた向いた。
「レオンは全部の属性魔法が使えるのだろう? 私にも魔法を見せてくれないか! 私は火属性なんだが、もっと魔法が上手くなりたいんだ」
リュシアン様も、俺が全属性を使えることを知ってるのか。そう少し驚いていると、リシャール様が補足をしてくれた。
「本当は子供達には伝えないでおこうと思ったんだが、ステファン様とマルティーヌ様には知られてしまったからな。王立学校で一緒にいることも多いだろうから、リュシアンにも伝えておくことにしたのだ」
確かにマルティーヌ様は知ってるみたいだったけど、ステファン様もなのか。まあ、知ってる人がいた方が気が楽ではあるからいいか。
「そうだったのですね。リュシアン様、私で良ければ魔法をお教えしますし、魔法をお見せします」
「本当か!? レオン、ありがとう」
リュシアン様めちゃくちゃいい子だ。仲良くなれそうで良かった。
「レオン、できれば今ここで全部の属性を使ってみてくれないか。父上から手紙で聞いてはいるが、実際にも見てみたいのだ」
クリストフ様にそう言われた。確かに聞いただけでは信じられないのも無理はない。
「はい。魔法を使うのは構いません。では、火魔法から使いますね」
そうして俺は、火、水、風、土、身体強化の順で魔法を使った。最後は回復属性だ。
「最後は回復属性ですが、怪我などがあればそれを治すのでもいいのですが、病気がないか調べる魔法もあります。皆様の体の状態をお調べしましょうか?」
俺はあれから回復魔法を、毎日魔力が無くなるギリギリまで練習していたのだ。体の不調やその原因を見極める魔法は、かなり精度が上がっている。ずっと家族やマルティーヌと練習していたからな。
以前より少ない魔力で全身を覆えるようになったし、頭痛や腹痛などウイルスなどが原因でないものもわかるようになっている。
ただ、ウイルスや病原菌、悪性の細胞などは取り除けるが、ただの頭痛を治すことはできないんだよな。腹痛も食べたものが原因ならそれを取り除けるんだが、心因性の腹痛などは治せない。まあ、そこまで万能なものはないってことだな。
「それはありがたい! ここにいる全員をできるのだろうか?」
「はい。病気を治すのには魔力を使いますが、調べるのにはそこまで魔力を使いませんので」
「ではよろしく頼む」
「はい。誰からにしましょうか?」
「父上からだな」
「かしこまりました」
俺はリシャール様のところに行き、リシャール様を回復属性の魔力で覆った。
…………あれ? 下腹部に小さな腫瘍のようなものがあるかも? これって、悪性腫瘍とかかな? 多分悪性のものしか感知しないはずだからそうなのだろう。
まだかなり小さいが、今のうちに気づいて良かったかも。このくらいなら、そこまで魔力も使わずに治せるだろう。
そう考えていると、俺が黙りこくってしまったことに不安になったのか、リシャール様が様子を窺うように俺を見てきた。
「レオン君、何かあったのか?」
「あ、すみません。下腹部に小さいのですが病変があるようです。今治してしまってもいいですか?」
俺がそういうと、リシャール様はとても驚いた表情をした。
「でも、私は体調も悪くないが……」
「まだ体調に影響があるほどではないのだと思います。今なら簡単に治せますので大丈夫ですよ」
俺はリシャール様を安心させるように、笑顔でそう言った。そうするとリシャール様も少し顔を緩める。
「そうか、君に見てもらって良かったよ。よろしく頼む」
「はい。ではいきますね」
俺は下腹部に魔力を集めて、魔力を少し多めに流し込んだ。すると回復魔法が少し強く光り、リシャール様の病変は無くなった。
「これで大丈夫です」
「レオン君、ありがとう。君には助けられてばかりだな。これからはたくさん恩返ししなければいけないようだ」
リシャール様が少し笑ってそう言うので、俺も少し笑って答えた。
「リシャール様や公爵家の方々にはすごく良くしてもらっています。このくらい当然ですよ。では次はカトリーヌ様ですね」
そうして俺はカトリーヌ様、フレデリック様を確認し、どこも悪いところがなかったのでクリストフ様の方を向いた。すると、クリストフ様達はポカーンと何かに驚いたような顔をしている。
え? どうしたの?
「えっと、どうしたのですか?」
「あ、ああ、すまない。本当にあれで父上の病気が治ったのかい? あんなに簡単に治せるとは本当に驚いてね」
そうか、初めて見たから驚いているのかな? でもリシャール様は、見た目にはなにも変わってないと思うんだけど?
「でも、リシャール様は見た目に変化がないのでわかりにくいと思いますが……?」
「ああ、でも魔力はとても神聖な光を放っていた」
神聖な光? 普通の光じゃないか?
まあいっか、気にしないことにしよう。なんか感動してくれてるから良いだろう。
確かに他の人が怪我を治す時は、魔力の光なんてほとんどないからな。俺は魔力がバカみたいに多いからできるんだ。
「では、次はクリストフ様でよろしいですか?」
「ああ、よろしく頼む」
「では失礼します」
それからクリストフ様、ソフィア様、リュシアン様、アルベール様の順に調べたが誰も悪いところはなかった。
「皆さま健康なので大丈夫です。これから体調が悪くなることがありましたら、ぜひ私におっしゃってください」
「レオン、ありがとう。とても心強いよ」
「私も安心したわ。ありがとう」
「喜んでもらえたのなら良かったです」
それからはしばらく他愛のない話をして、俺たちは客室に案内されることになった。
客室でしばらく休んだら、夕食だ。海の幸とか出るのかな? 楽しみだ!
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