第49話 公爵領の領都へ
次の日の朝はスッキリと目が覚めて、食堂で朝食をとり出発の準備を整えた。昨日リシャール様に話したからか、モルガンさんに会っても昨日ほど緊張することもなかった。
そして出発の時間だ。
「この度は、この街にお寄り頂きありがとうございました。皆様の旅の安全を祈っております」
「ああ、世話になったな。帰りも寄る予定だからよろしく頼む。帰りは一名増えるので、あと二つの客室もそれまでに準備しておいてくれ」
リシャール様がそういうと、モルガンさんは少し顔を強張らせたがすぐに笑顔に戻り、頭を下げた。
「かしこまりました。お待ちしております」
そうして俺たちは馬車に乗り、また領都へと出発した。
モルガンさんはどうやって、あと二つも客室を準備するのだろうか? 家具は基本的にオーダーメイドだし、公爵家で使うような家具は高価だ。家具を売ってしまったのなら、お金も時間も足りないだろう。
…………まあ、俺が考えることじゃないな。あの人を心配する義理なんかないし。
その後の旅路はすごく順調だった。
二日目に泊まった代官邸の代官は、物腰柔らかで穏やかな人で、俺にも普通に客室を用意してくれていた。平民を見下すような態度もなく、身体をゆっくりと休めることができた。
皆こんな風に穏やかな貴族だったり、タウンゼント公爵家の皆さんみたいに良い人たちならいいのに。でも昨日のモルガンさんみたいな人が、貴族の半数以上を占めてるんだよな。
ということは、王立学校に行けばあんな感じの貴族の子供がたくさんいるってことか。すごく憂鬱だ……
俺はひっそりと一年間暮らしたい。公爵家に住まわせてもらうけど、一人で王立学校まで歩いて行くようにすればあまり目立たないかな? 公爵家の馬車なんかで行ったら目立ちすぎる。
…………でも、俺は公爵家の勢力を後押しするって約束したから、公爵家の後ろ盾があることを示さないといけないのか? うわぁ〜! めちゃくちゃ目立つし、めんどくさい奴に絡まれそう。
こうなったら逆に、これから会うリュシアン様と仲良くなって、めんどくさい奴を排除してもらうのがいいかもしれないな。
よしっ! 頑張って仲良くなろう。
俺がそんな決意をしたところで、領都に着いたようだ。
「レオン君、領都についたぞ。これから領都の大通りを馬車で進むから、街並みを見るといい」
「はい」
俺は同じ景色ばかりなので、見飽きて締めていた窓を開けた。まだ領都に入ったところなのだろう。家がポツポツとあるくらいだ。
しばらく進むと、家が密集しているところに近づいてきた。おおー! 王都と同じくらい栄えてるかも。さすが公爵領の領都だな。
最初は王都の俺の家がある地区のような、少し貧しい格好をした人達がたくさん歩いていたが、段々と服装が華やかになっていく。この辺は貴族と取引するような商人がいる地区みたいだ。
そして、そこも通り過ぎると目の前に豪華な公爵邸が見えて来た。
凄い!! 屋敷の規模や豪華さは王都のものと変わらないが、とにかく敷地が広い。王都の屋敷の敷地も、こんなに広い必要があるのかと思ったが、ここはその倍はある。
自分の領地の領都だから、いくらでも敷地を確保できるのだろうな。庭師が大変そうだけど……
敷地の中を馬車で進み、屋敷の入り口前に馬車が停まった。屋敷の前には若い男性と女性、俺と同じくらいの男の子と二歳くらいに見える男の子がいた。そしてその後ろに使用人がずらりと並んでいる。
多分あの人たちが現公爵一家なのだろう。
俺たちは馬車から降りて、現公爵一家と対面した。
「父上、母上、フレデリック、レオン、長旅ご苦労様です。ようこそおいで下さいました」
「クリストフ、久しいな。ソフィア様とリュシアンも元気そうで何よりだ。そしてそちらが新しい子かな?」
「はい。アルベールと言います。私の次男で三歳になったところです」
まだ三歳なのか。茶髪に金の瞳の可愛い子だ。
「アルベール、父上に挨拶を」
「お祖父様、初めまして、アルベールです」
アルベール様はまだ少し辿々しい言葉遣いで、そう挨拶して、ペコっと頭を下げた。多分たくさん練習したのだろう。挨拶した後にちゃんとできて嬉しかったのか、ニコッと笑った。
かっわいい〜! なにこの子、とりあえず可愛い。このぐらいの歳の男の子だと、生意気な感じだと思ってた。貴族として教育されてるからか、大人しくしているし、人見知りもあまりしないのか、俺たちのことを興味津々な様子で見ている。
こんなに可愛い弟だったら欲しい!!
俺がそんな風に内心身悶えていると、リシャール様達も同じような気持ちみたいだ。皆さん顔がだらしなく緩んでいる。
リシャール様、威厳ゼロの顔になってますよ。
リシャール様はしばらく顔を緩めていたが、ハッと正気に戻るとわざとらしく咳払いをして、アルベール様に言った。
「アルベール、何か困ったことがあったら私に言うんだぞ。それから、何か欲しいものがあったら直ぐに言いなさい」
リシャール様、威厳を出すんじゃなかったんですか。最初は少し厳しい顔を作ったが、すぐに可愛い孫を見るおじいちゃんの顔になっている。
何でも買ってあげるって、典型的なダメなおじいちゃんじゃん。アルベール様はよく分からなかったのか、少し首を傾げている。
その様子を見て、クリストフ様は苦笑いだ。
「父上、アルベールに何でも買い与えるのはおやめ下さい。わがままな子に育ってしまっては困ります」
「まあ、そうだな…………では、必要なものがあれば私が買おう」
リシャール様はどうしても何か買ってあげたいらしい。クリストフ様だけではなく、ソフィア様やリュシアン様まで苦笑いを浮かべている。
「では、何か必要なものがあればお伝えします」
「ああ、よろしく頼むぞ」
「それから、君がレオンだね。私はタウンゼント公爵家の現当主、クリストフ・タウンゼントだ。そして、妻のソフィアと長男のリュシアン、次男のアルベールだ」
クリストフ様は俺の方を向いて、そう紹介をしてくれた。クリストフ様は茶髪に金の瞳で優しそうな方だ。
「初めましてクリストフ様、ソフィア様、リュシアン様、アルベール様。レオンと申します」
「クリストフの妻、ソフィアですわ」
「長男のリュシアンだ」
「アルベールです」
ソフィア様は青髪に青の瞳で細身の綺麗な方、リュシアン様は青髪に金の瞳で、九歳ながら既に精悍な顔つきをしている。なんだか強くてしっかりしてそうだ。アルベール様はとにかく可愛い。
「では自己紹介も終わったことですし、屋敷に入りましょう。父上、母上どうぞお入り下さい」
リシャール様達はクリストフ様に従って屋敷の中に入っていくので、俺も後に続いた。なんか、家族の集まりに一人部外者がいるみたいで、落ち着かないんだけど!
俺は少し肩身が狭い思いで後を付いていった。
そうして歩いてたどり着いたのは、かなり広い応接室だった。大きなソファーが机を挟んで二つあるが、一つに余裕で六人ぐらい座れそうだ。
一つのソファーにはクリストフ様御一家が座り、もう一つに俺たちが座る。
俺は座っていいのかと少し躊躇ったが、クリストフ様が「レオンも座ってくれ」と言ってくれたので、ソファーに腰掛けた。
はぁ〜、緊張する。俺はじんわりと滲んでくる手汗を、さりげなくズボンで拭った。
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