第41話 第一王妃と第一王子

 俺が少し緊張しつつ、カトリーヌ様の従者の振りに戻って立ち上がり待っていると、部屋に二人が入ってきた。そして、アレクシス様がまたすぐに使用人を全員下がらせる。


 とても綺麗な金髪にピンクの瞳の女の人と、かっこいい金髪に碧眼の男の子だ。双子っていう割には顔があまり似ていないな。二卵性とかなのかな?

 王子様は陛下にそっくりで、マルティーヌ様は王妃様にそっくりだ。


 二人は向かいのソファーに座った。かなり大きなソファーなので、四人で座っても余裕なのだ。


「第一王妃のエリザベート・ラースラシアですわ」

「第一王子のステファン・ラースラシアです」


 第一王妃と第一王子だったのか! ということは未来の国王の可能性が高いってことだ。なんか、周りにすごい人が多すぎて麻痺してきたな……あまり驚かなくなってきたよ。


「お初にお目にかかります。レオンと申します」

「エリザベート様、殿下、お久しぶりでございます」


 俺とカトリーヌ様は順番に挨拶をした。そして、俺は勧められてまたソファーに戻った。


「そこまでかしこまらなくても良いですわ。今日は公的な場ではないもの。私、レオンにどうしてもお礼を言いたかったのです。マルティーヌの命を救っていただき、本当に感謝しています。ありがとう」

「レオン、私からもお礼を言いたい。妹を救っていただき感謝する」


 そう言って二人は頭を下げた。

 落ち着かない! 王族に頭を下げられているのって落ち着かなすぎる。


「あの、頭を上げてください。自分にできることをしただけですから、あまり気にしないでください」

「そんなわけにはいきませんわ。今日はたくさんのお礼の品を用意しました。ぜひ受け取って頂きたいわ」


 エリザベート様の前には、さっきメイドの方が置いていったものがたくさん積まれている。

 もしかしてこれ全部お礼の品とか……?

 多すぎます!!


「あの……お礼は既にアレクシス様からもらっているのですが……」

「あら、アレクシスからのお礼と私からのお礼は別物ですわ」


 そうなんですか……俺からしたら一緒ですけどね! 

 受け取らない方が逆に不敬だよね。素直にもらっとこう。


「そうですか…………わざわざお礼の品を頂けるなんて、ありがとうございます。とても光栄です」


 俺が頑張って引き攣らないように笑みを浮かべてそう言うと、エリザベート様は顔をパァッと輝かせた。

 …………なんか嫌な予感。


「喜んでもらえて嬉しいわ。是非一つずつ紹介させてくださいな。私、心を込めて選んだのですよ」


 これを全部一つずつ説明するのか!? 何時間かかるかわからない量だよ…………でも王妃様の頼みなんて断れない。

 エリザベート様を止められるのはアレクシス様しかいない! 俺がそう考えて視線をアレクシス様の方に向けると、一瞬目があったものの、さりげなく目を逸らされた。

 アレクシス様!? 止めてくれないのですか!? もしかして国王様なのに、妻の尻に敷かれているんですか!?


 はぁ…………エリザベート様を止められる人は誰もいなそうだ。光栄なことなんだし、紹介していただくか……


「ありがとうございます。どんな品なのか楽しみです」


 俺はにこやかな笑みを浮かべてそう言った。多分引き攣ってたけど……


「まずはこちらの品ですわ! これはブローチなのですけど、宝石ではなく魔石なんですのよ」

「魔石ですか……?」

「ええ! 魔石は込める魔力によって様々な色に変化するので、とても良い装飾品なのですわ。これから流行らそうとしているのよ。魔鉄に嵌め込まなければ魔法は発動しませんし、安心してくださいね」


 ええ〜、貴重な魔石を装飾品にしちゃうんですか。俺は魔法具にしたい。

 というかこれってめちゃくちゃ高いんじゃないか? エリザベート様、これは流行らないと思います……これを買うなら魔法具を買うと思います。

 高位貴族になら流行るのかな?


「えっと……それは凄いですね。たくさんの色に変わるのなら、服の色にも合わせられますね」

「そうなのですわ。その日の気分で色も変えられるし、是非つけてくださいね」

「はい。頂きます」

「では次ですわ! 次はこちらのお洋服ですね。こちらは私お抱えの仕立て屋に頼みましたの。最高級の糸を使って、とても豪華なものに仕上げましたのよ」


 なんかすごく豪華だ……これってステファン様が着るような服じゃないか? 俺はもらっても困るんですけど!

 こんな豪華な服、公的な場では着れないし、私服として着るのはありえないし……着る場面が一切思い浮かばないんですけど!


「あの、ありがたいんですけど……この服を着る場面がないんですが……」

「あら、でもレオンは王立学校を卒業したら、貴族の地位をもらうのでしょう? マルティーヌを治したお礼に、アレクシスにそう頼んだと聞きましたわよ?」


 確かに地位が欲しいとは言ったけど、もう貴族の地位をもらえること確定してるの!? 平民がそんな簡単に貴族の地位なんてもらえないと思うんだけど……


「平民がそんな簡単に貴族の地位などもらえるのですか?」

「そんなに簡単では無いけど、レオンには功績があるし、これからもたくさん功績を残しそうですからね、貴族の地位くらいもらえると思いますわよ。ですよね、アレクシス」

「ああ、王立学校を卒業すれば可能だろう。色々と考えているから楽しみにしていてくれ」

「はい……ありがとうございます」


 色々とってなんだろう。なんか嬉しいんだけど、ちょっと怖いような……

 俺のイメージでは騎士爵とか男爵とか、下位貴族の爵位がもらえるのかなって思ってたんだけど、この服だともっと上の爵位だったりする? 

 明らかに公爵家くらいじゃないと釣り合わない服装だ。

 地位はあった方がいいけど、それに伴う義務が多そうだし、そこそこでよかったんだけどな。なんかこれから大変になりそう。

 いや、既に大変なんだけどね……


「では、この服は大切に保管しておいてくださいませ。サイズは大きめに作ってありますから、着る時にお直ししてくださいね」

「はい。ありがとうございます」

「では次ですわ。次は…………」


 この後一時間以上、エリザベート様によるお礼の品紹介が続いた。豪華な装飾品や服、それから仕立てる前の布などを頂いた。凄いものばかりでありがたいんだけど、とにかく疲れた……

 他の人たちも結構疲れている。アレクシス様、ステファン様、マルティーヌ様は少し苦笑い気味なので、エリザベート様の暴走はよくあるのかもしれない。

 王族も大変だね……


「これで以上ですわ。気に入っていただけましたか?」

「はい。とても豪華な品をこんなにたくさん頂いてしまって、本当にありがとうございます。全て大切に使わせて頂きます」


 エリザベート様がとても満足そうに微笑んでいる。とりあえず良かった。

 エリザベート様が満足したのを確認して、アレクシス様がフォローしてくれた。


「これらのお礼の品は、レオンに贈ったものとすると不自然だから、全て箱に入れてエリザベートからカトリーヌへのお礼の品として、公爵家に持ち帰ってくれるかい?」

「かしこまりました。公爵家のレオンの部屋に、丁寧に保管しておきますわ」


 アレクシス様とカトリーヌ様がそんな会話をしている。公爵家に置いておけるのなら良かった。流石にこれを俺の家に持ち帰ったら怖いからな。公爵家なら安心だ。


「レオンもそれでいいか?」

「はい。私の家では保管が難しいので、そちらの方が助かります」

「では、そうしてくれ」


 俺へのお礼の品の管理方法が決まったことで、お開きの雰囲気となった。


「じゃあ今日は結構時間も経ってしまったから、これでお開きとしよう。レオンとカトリーヌは一週間後にまた来てくれるか?」

「かしこまりました」

「よし、じゃあレオンはカトリーヌの従者の振りに戻ってくれ」


 そうだった。俺は一応目立たないように、カトリーヌ様の従者として来てたんだった。疲れて忘れるところだったよ。

 俺は立ち上がってカトリーヌ様の斜め後ろに立った。

 そうすると、アレクシス様がベルを鳴らして従者や護衛を呼ぶ。


「こちらの荷物は公爵家に運びますので、馬車まで運んでいただいてもよろしいですか?」


 カトリーヌ様がそういうと、王宮の使用人が何人か連れてこられて、荷物を運び出していく。

 俺も一つ服を持ち、カトリーヌ様の後ろに続いて部屋を出た。

 そして馬車まで行き、公爵家へと帰った。


 公爵家では、いつも俺が使っていた客室を、俺専用にしてくれるようだ。ありがたい。

 そして荷物を片付けて、俺は家に帰った。

 今日はとにかく疲れた……また授業は一週間後だよな。それまではゆっくりしよう。

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