第38話 王宮
俺は今、公爵家から家に帰る途中だ。
乗合馬車で帰ろうと思ってたんだが、ロジェが馬車で送ってくれるというので、ありがたく送ってもらっている。
アルバンさんを治すことができて、とても清々しい気持ちだ。人を助けられる能力でよかった。
アルバンさんを治したときに、回復属性の光で身体を包み込むと、どこが悪いのかなんとなくわかるような感じがした。実際に治しきったタイミングもわかったのだ。
もしかしたら、あれは高性能なCTのような魔法なのかもしれない。今度家族にも試してみよう。自覚症状がないだけで病気があったら大変だからな。
でもかなり魔力を使うから、魔力量を増やすのはこれから必須だ。
そんなことを考えていると、外が少し騒がしい気がする。誰かが大声で話しているようだ。
どうしたんだ……?
「ロジェ、外が騒がしいけど大丈夫かな?」
「確認いたします」
ロジェがそう言ったとき、馬車が減速していき止まった。何かあったのかな?
「レオン様はこのまま座っていてください。確認してきますので」
そう言ってロジェは外に出ていってしまった。一人置いていかれるとなんだか不安だ……
でもここは街中だし、深刻な事態とかはないと思うんだけど。
不安に思いながら待っていると、しばらくして少し困惑した様子でロジェが帰ってきた。
「どうしたの?」
「タウンゼント公爵家からの使いで、レオン様にもう一度屋敷に来ていただきたいそうです。依頼があるとのことです」
依頼!? それって回復魔法の依頼のことだよな。もしかしてアルバンさんに何かあったとか!?
それなら早く戻らなきゃ。
「多分、回復魔法の依頼だと思う。早く戻ろう」
「かしこまりました。御者に伝えてまいります」
俺をわざわざ呼び戻すってことはかなり危ない状態ってことなのか? でもアルバンさんはすごく元気そうだったけどな……
アルバンさんじゃなくて他の人なのかもしれない。その人の病状が悪化したとか?
俺は不安に思いながら馬車に揺られて公爵家に戻った。
公爵家に戻ると、屋敷の前に別の豪華な馬車が止まっていて、リシャール様が待っていた。
「レオン君、呼び戻してしまってすまない」
「いえ、私全然大丈夫なのですが、何かあったのでしょうか?」
「その話は移動しながらでもいいか? あまり人に聞かれたくない話なんだ」
「かしこまりました」
「こっちの馬車に乗ってくれ」
俺とリシャール様は、豪華な方の馬車に乗り込んだ。従者も乗せないようで、二人きりだ。
そんなに重要な話なのか……
俺は馬車が動き出したところで、リシャール様に話しかけた。
「何かあったのですか?」
「ああ。この国の第一王女様、名をマルティーヌ様というんだが、冬ごろから体調を崩していてな。私は昨日、レオン君に診て貰えば、もしかしたら治るんじゃないかと思ったんだ。そこで陛下にレオン君のことを話したところ、マルティーヌ様の病状がかなり悪いらしく、一刻を争うらしい。そこで急遽、レオン君に来てもらうことにしたというわけだ」
第一王女様が体調を崩しているのか。それも一刻を争う状況となればこの慌てぶりも頷けるな。というかリシャール様って、陛下と直接話せる関係なのか? 結構高い役職とか? まあ前公爵だからな……
そんな俺の疑問が伝わったのか、リシャール様は答えをくれた。
「レオン君には私の役職を話したことはなかったかな? 私はこの国の宰相なんだ。だから陛下とも直接話せるし、王族の方々とも面識がある」
リシャール様って宰相なの!? 予想以上にすごい人だったんだな……まあ、心強い味方だから俺にとってはいいことだけど。
というか、今はそんなことより王女様のことだ。
「レオン君。どうかマルティーヌ様を救ってほしい」
リシャール様はそう言って頭を下げた。
治してあげたいけど……治せるかはわからない。絶対治しますとは言えない……
でもこのまま何もしなければ絶対後悔する! 俺が人の生死を握ってるのは凄く怖いけど、治すために全力を尽くそう。
「はい。絶対とは言えませんが、全力を尽くします」
「本当か!? 本当にありがとう」
それから少しの間、無言で馬車に揺られると馬車は止まった。
「レオン君、君の存在をなるべく隠したいから、私の従者として振る舞ってくれ。まずは陛下の執務室に行くが、陛下は君のことを全て知っているから、心配しなくてもいい」
「わかりました」
陛下も俺のこと全て知ってるのか…………まあ、リシャール様が話したってことだろうから、味方になってくれるのだろうし、これ以上心強い味方はいないな。
今はそんなことじゃなくて、治療に集中しよう。
俺はリシャール様の斜め後ろを歩き、ついていった。途中何人かすれ違ったが、みんなリシャール様をみると端に避けて少し頭を下げるので、俺に気づいた人はほぼいないと思う。
しばらく歩くと、豪華な扉にたどり着いた。護衛だろうか、騎士が二人扉の前にいる。
「開けてくれ」
リシャール様がそういうと、騎士はすぐに扉を開ける。多分リシャール様は顔パスなんだろうな。
部屋の中には、豪華な服を着た金髪に碧眼のカッコいい人がいた。この人が王様なのだろうか、まだ若いように見える。
ドアが完全に閉まって室内に三人だけになった。護衛の騎士とか従者はいないようだ。人払いされているんだろうか……緊張するな。
「陛下、レオンを連れてまいりました。レオン君、こちらがこの国の国王、アレクシス・ラースラシア様だ」
この国の王様はアレクシス様って言うんだな。覚えておこう。
「リシャールありがとう。君がレオンだな。リシャールから君のことは聞いている。どうか、どうかマルティーヌを治してほしい」
そう言ってアレクシス様は深く頭を下げた。この国の王様に頭を下げられているなんて、俺は落ち着かなく慌てながら、なんとか言葉を返した。
「あ、あの、頭を上げてください。陛下が頭を下げるなんて……それに、まだ治せたわけではありませんから」
「それもそうだな。お礼はマルティーヌが治ってからとしよう」
そう言われるとめちゃくちゃ緊張するんだけど! これで治せないなんてことになったら…………
いや! そんなことは考えない。絶対治そう。
「では陛下、北宮殿に参りましょう」
「そうだな。ではついてきてくれ」
そうして俺たちは陛下に続いて、王宮の中を歩いた。流石に王宮の中を歩く時は護衛なしではダメなようで、二人の騎士がついてきている。
北宮殿って言ってたけど、王宮も何個かに分かれてるってことなのかな? ちょっと聞きたいけど、今そんなことを聞ける雰囲気ではない。後で聞く機会もあるだろう。
王宮はかなり広いようで、結構進んだがまだ着かないらしい。それからもしばらく歩いていると、一つの扉の前にたどり着いた。また、扉の前には騎士が二人いる。
騎士は陛下が近づくと、ビシッと敬礼をした。
俺にも親しみのある、右手を顔の右上でビシッと揃えるあの敬礼だ。この世界はお辞儀といい、敬礼といい、日本と共通点がありすぎるよな。何か意図的なものがあるとしか思えない。
「扉を開けてくれ」
アレクシス様がそう言うと、騎士の方たちは扉を開けてくれた。俺についても何も聞かれなかった。多分、陛下が連れてきた人なら入れてくれるのだろう。
扉の向こうは部屋になっているのかと思ったが、長い渡り廊下に繋がっているようだ。そして扉の反対側にも騎士が二人いる。かなり厳重な警備だな。
この先が北宮殿なのかな? もしかして北宮殿って王族の居住区とかなのか?
渡り廊下を渡り切ると、また扉があり騎士が開けてくれた。
その扉を潜りしばらく歩くと、かなり豪華な扉の前にたどり着いた。ここが目的地だろうか?
扉の前には女性騎士が二人いることからしても、王女様の部屋のようだ。
「陛下! いかがされましたか?」
「マルティーヌの見舞いにリシャールが来てくれたんだ。扉を開けてくれ」
「はっ!」
女性騎士二人は扉を開けてくれた。俺は少し怪しいものを見るような目で見られたが、陛下が連れてきた人物なので止められることはないようだ。良かったぁ。
部屋の中に入ると、王女様のメイドさんが三名と護衛の騎士が二名いた。皆陛下を見て、端によって頭を下げている。
「皆、少しの間席を外してくれるか。お前たちもだ」
陛下が王女様のメイドさんと騎士、それから自分の騎士に向かって席を外すように言った。
「しかし……」
陛下の騎士の方々はすぐに廊下へ下がったが、王女様の騎士は少し難色を示しているようだ。
「あまり長い時間ではないから心配するな。この部屋の中に危険もないし大丈夫だ」
「かしこまりました……ですが、リシャール様の従者の方は下がらせないのですか? 知らない方がいる時に、マルティーヌ様の側を離れるのは不安なのですが」
「彼は大丈夫だ、私が保証しよう。マルティーヌと同い年だからな、少しはマルティーヌも安らぐかもしれない」
「そうですか…………かしこまりました」
騎士の方々は渋々ながら了承してくれたようだ。皆が下がっていき、扉が閉められた。
この部屋には国王のアレクシス様、第一王女のマルティーヌ様、宰相のリシャール様、俺の四人だけになった。
なんか今更だけどすごいメンツだな……
部屋の奥にベッドがあり、王女様が寝ているようだ。アレクシス様はそちらに行き、置いてあった椅子に腰掛けた。
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