第37話 仕立て屋

 次の日の朝。

 俺はロジェに起こされて目覚めた。


「レオン様、本日は仕立て屋が来ますので、そろそろ起床の時間です」


 う〜ん……まだ眠い…………

 やっぱり昨日慣れない治癒をしたからかな。魔力はほとんど回復してるけど、身体はだるいな……


「レオン様、顔色が優れないようですが大丈夫でしょうか?」

「うん……ちょっと疲れてるだけだから大丈夫」


 起きないとだよな。よしっ!

 俺は気合を入れて起き上がり、目一杯伸びをして目を覚ました。


「ふぅ。もう大丈夫だよ」

「それではこちらをお使いください」


 そう言ってロジェが、小さな水が入った桶と布を持ってきてくれた。

 俺はそれで顔を洗い、服を着替えて支度を整えた。服は公爵家からの借り物だ。


「ではこれから朝食の用意をしますので、お席でお待ちください」


 ロジェはそう言って、別の使用人が持ってきてくれたワゴンから朝食の用意を始めてくれる。

 本当に無駄がないな……やっぱり仕事はできるんだなぁ。俺がそんなことを考えながらぼーっとしているうちに、朝食の用意はすぐに整ったようだ。


「ロジェありがとう。いただきます」


 うん……美味しい。少し柔らかめのパン、ジャム、小さなオムレツ、紅茶、の朝ごはんだ。

 この世界で料理が発展し始めててよかった。異世界で定番の不味い料理だったら、耐えられなかったな。

 このジャム砂糖たっぷりで甘い。う〜ん、幸せ。


 そんな朝食を終えて、ソファで一息ついていると仕立て屋が公爵家に到着したようだ。


「ご案内してもよろしいですか?」

「うん。よろしくね」

「かしこまりました。レオン様はソファーに座ったままお待ちください。仕立て屋が来ても立ち上がる必要はありませんので、そのままでお願いします」

「わかったよ」


 俺は平民だから身分は同じなのに、公爵家の客人が仕立て屋に頭を下げるのはダメだそうだ。

 身分差は難しいな。いずれは覚えないといけないだろう。



 しばらく待っていると仕立て屋が部屋まで来た。たくさんの布やデザイン画のようなものを持っている。


「本日は当店をお呼びくださり、ありがとうございます。レオン様にピッタリの服を仕立てさせていただきます」


 部屋に来た三人のうち、一番前にいた壮年の男性が挨拶をした。


「はい。こちらこそよろしくお願いします」

「では、まず採寸からさせていただいてもよろしいでしょうか?」

「では、こちらの衝立の奥でお願いいたします。レオン様こちらへ」


 ロジェが衝立の向こうに促してくれるので、それに従う。俺はよくわからないので、ロジェに任せとけば間違いないだろう。

 そして衝立の向こうに行くと、仕立て屋の若い男性とロジェの手で、手早く採寸された。


 採寸が終わったら次はデザインを決める。俺と壮年の男性がソファーに向かい合って座った。


「本日は何着仕立てますか?」


 うーん、俺は全然わからない。確かロジェが知ってるんだよな。


「ロジェ、何着仕立てればいいんだ?」

「はい。王立学校でも着られるように、下級貴族と同程度ほどの服を三着ほど。それから就寝の際に着る夜着を二着。また、王宮にも行けるような晴れ着を一着。この晴れ着も下級貴族程度のものでお願いします」


 そんなにたくさん仕立てるのか!? やっぱり貴族ってお金かかりそう…………今回お金を出してもらえて助かったかも。


「では、その六着を仕立てます」

「かしこまりました。ではまず、晴れ着からデザインをお決めしましょう」


 そこからはデザイン画を見て、どのデザインがいいかを決めて、どの布がいいか、飾りはどれにするかなど、ひたすら決めていった。

 俺は貴族の服なんてよくわからないので、ほとんどロジェにお任せだ。ロジェなら恥ずかしくない服を決めてくれるだろう。


 全ての服を決めた時には、二時間くらい経過していた。

 疲れた〜。俺的には服なんて着れればなんでもいい気がするけど、色々慣例があるみたいだ。

 今回公爵家で服を作ってもらって本当によかった。もし自分で作ってたら、どんな服にすればいいのかわからなかっただろう。


「それでは仕立て終わりましたら、公爵家にお届けするので良いでしょうか?」

「はい。公爵家にお願いします」

「かしこまりました。本日はありがとうございました。これで失礼させていただきます」


 そう言って仕立て屋の人達は屋敷から帰っていった。

 本当に疲れたし、お腹空いた。

 もう昼食の時間だよな。話は昨日で終わったからもう帰ってもいいんだろうけど、お昼食べさせてもらえないかな〜。


「ロジェ、俺のお昼って準備されてるのかな?」

「はい。レオン様が望む限りいつまでもこの屋敷にいていいと、大旦那様からの伝言です」


 いつまでもって、そんなに長居するつもりはないけどね、嫌でもあと半年くらいでここに住むようになるんだし。

 まあこの屋敷の方がご飯美味しいし、お風呂もあって水洗トイレで、便利でいいんだけど。

 でも、あと半年くらいしか一緒にいられないんだから、家族を大事にしないと。最初は本当の家族だと思えなかったけど、今では俺の中でもどんどん大事な存在になっている。なんか、家族のこと考えてたら家に帰りたくなってきたな。お昼食べたら早めに帰るか〜。


「ロジェ、お昼だけもらってもいいかな? お昼食べたら帰るよ」

「かしこまりました。では昼食の準備をしてきますので少々お待ちください」


 そうして俺が昼食を食べて一息ついている時、部屋のドアがノックされた。

 コンコン。


「アルバンでございます」


 アルバンさんだ。体調がおかしいとかあったのかな!?

 俺は慌てて、ロジェにドアを開けるように言った。

 アルバンさんは、痩せた体型は戻っていないものの、以前見た時のようにハキハキと動いていた。顔色も良く、やつれた感じも少し消えている。とりあえず良かった。


「レオン様、お時間をいただきありがとうございます」

「いえ、俺は大丈夫ですが、何か体調に異変などありましたか?」

「いえ、そのようなことはありません。とても調子が良いのです。今日はレオン様に再度お礼を言いにきました」


 なんだ、体調がおかしいんじゃなければ良かった。回復魔法で人の病気を治すのは初めてだったからな。


「昨日は私の病気を治していただき、本当にありがとうございました。レオン様には一生感謝してもしきれません。本当は、私はもうダメだと思っていたのです。それがこんなに元気になりまた働けるなど、夢のようでございます。本当に感謝いたします」


 アルバンさんはそう言って深く頭を下げた。目には涙が浮かんでいるようだった。

 俺はもらい泣きしそうになり、慌てて涙を拭ってアルバンさんに頭を上げてもらった。


「アルバンさんを治すことができて良かったです。これから体調に異変などありましたら、遠慮なく言ってください」

「はい。本当にありがとうございました。今後、レオン様のお力に必ずなりますので、何かありましたら私にお声がけください」

「はい。ありがとうございます」


 そうしてアルバンさんは退出していった。こんなに感謝される力を得られて良かった。もっとこの力を活用できるように練習しないとだな。


 俺は清々しい気持ちで、公爵家から家に帰るために馬車に乗り込んだ。

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