第36話 公爵家での夕食と回復魔法
「レオン様、まずはご入浴からです」
ロジェは帰ってきて開口一番そう言った。全く効率しか考えてない。もうちょっと雑談とかないのかよと思いつつ風呂場に向かうと、ちょうど良い温度のお風呂が用意されていた。
ロジェが手配していたのだろうか。確かに仕事はできるのかもしれない。
ロジェに手伝ってもらい風呂に入り、用意されていた豪華な服に着替えた。
「レオン様、髪の毛をセットしますのでこちらにお座りください」
「うん、ロジェは仕事の手際は本当に良いな」
俺はこれから接することが増えるであろうロジェと仲良くなるため、まずは褒めてみることにした。
「仕事ですので当然です」
ロジェはいつものようにそっけなくそう言ったが、少しだけ口元が緩んでる気がする。初めての無表情以外の顔だ! これからはストレートに褒めるのがいいのかもしれないな。
少しは仲良くやっていけそうでよかった。ずっと気まずい雰囲気じゃ俺も嫌だからな。
「できました。では食堂まで行きましょう」
そうして俺は食堂に向かった。食堂にはリシャール様とその妻カトリーヌ様、フレデリック様の三名がいた。フレデリック様の一つ上のお兄様である、ジュリアン様は今日はいないようだ。
そしてフレデリック様は騎士寮にいるはずなのに、また公爵家にいるみたいだ。フレデリック様も関係がある話なのかな?
「本日はお招きありがとうございます」
「こちらこそ呼び出してしまってすまないな。まずは夕食を楽しもう」
それからは他愛もない雑談をしながら、穏やかに時間が過ぎていった。
そして夕食もそろそろ終わりになる頃、リシャール様が徐に本題を話し始めた。
「今日レオン君を呼んだのは手紙にも書いたように、公爵領行きのことについて話したかったからなんだ。私の長男のクリストフは公爵位を継いでるんだが、クリストフの長男リュシアンがレオン君と同い年でね、今度王立学校に通うため王都の屋敷に越してくるんだ。そこでリュシアンを迎えに行くついでに、クリストフに会って、公爵領も見てきて欲しい。レオン君のことはすでに手紙で伝えているから心配はいらないよ」
「はい。公爵領に行くことについては構いません。王都以外も見てみたいと思っていましたから」
こんな誘い断れるわけないよな。クリストフ様達がいい人だといいな。まあ、この公爵家の人ならあまり心配はいらないかもしれないけど。
「それは良かった。では日程についてはあとで詳細を伝えよう」
「はい、よろしくお願いします」
「それからもう一つ話があるんだが、レオン君は貴族が着るような服を持ってないだろう? 明日仕立て屋が来ることになってるから、この機会に仕立てておくといい」
それはありがたいけど……いくらかかるんだろう。公爵家に来る仕立て屋さんの服ってめちゃくちゃ高そう。
オーダーメイドってことだよな? 俺は中古服くらいでいいんだけど……
「それはありがたいんですが、あまりに高いものだと買えないのです……」
「ああ、金額の心配はいらない。全て公爵家が払うから安心してくれ」
え!? 逆にそんな高価なものを払ってもらう方が怖いんだけど……
「そんな、高価なものですし自分で払います。お金も多少は持っていますし」
「いいんだいいんだ、気にしないでくれ」
そう言われても気にするよ! じゃあ何かしらお礼とかできないかな。
俺があげられるものといったら…………魔法具なら作れるけど材料がないし、回復魔法とか? 怪我とか病気の人がいればお礼になるかな。
「せめて何かお礼をさせてください。回復魔法を使うとか、材料があれば魔法具も作ります」
「ちょっと待ってくれ、魔法具なんて作ったことがあるのか? あれは全部、王立の魔法具工房で作られてるんだが」
あっ!! これって内緒だったのか?俺は慌てて口を押さえたが、もう遅い。
でも良く考えたらもう全属性のことも知られてるし、隠す必要ない気もするな。話しちゃってもいいか。
マルセルさんごめんなさい! 俺はマルセルさんに心の中で謝罪しながら、魔法具を作ってることを話すことにした。
「マルセルさんが近くで工房をやっていて、そこで作らせてもらってたんです。あの、マルセルさんは悪くないので罪になったりしないようにしてくれますか……?」
「マルセル殿か。確かフレデリックが会った時に一緒にいたと言っていたな。まさか…………最近たくさん登録された魔法具は、レオン君が考えたものなのか!?」
「は、はい……でも私では登録できないので、マルセルさんの名前で登録してもらったんです」
「そうか……なんでこんなに発明できるのかと疑問に思ってたんだ。それに新技術のものばかりだったからな。一気に魔法具研究が進んだとも言われている。これから公開されてたくさん売り出される予定だ」
やっぱり疑問に思われてたのか! というかそんな大事になってたのか!?
俺が考えてる以上に、俺は常識はずれなのかもしれない……ちょっと落ち込むな。
もっと便利な機械を知ってるから、どんな魔法具を考えても、凄いものだとあまり思えないんだよな。
…………気をつけよう。
「すまないな、少し驚いてしまって話が逸れた。レオン君、これからは魔法具を開発するのはとりあえずやめた方がいい。もし何か思いついたなら、レオン君が個人で使う分の魔石と魔鉄は手配しよう。しかし登録するのは、レオン君が王立学校を卒業するまでは待ってくれ」
「はい。マルセルさんにも言われたので、とりあえず魔法具開発はやめようと思ってます」
「それならいいんだ。それでお礼の話だったな」
「はい、でも魔法具がダメなら、回復魔法を使うくらいしかできないんですけど……」
でも俺なら、病気も治せるとは思うんだよな。まだ人間には試したことがないのが難点だけど。怪我も簡単なものしか治したことないし。
「まだ回復魔法はあまり試したことがないので、どこまで治せるかわからないんですが、この前病気の牛も治せたので、病気も治せる可能性はあります」
「何!? それは本当か!? 君は本当に使徒様なんだな……」
最後の方が小声で何を言ってるかわからなかった。
「え? なんて言いました?」
「いや、なんでもない。それより君に頼みたいことがある。アルバンを治してやってくれないか?」
リシャール様の話によると、執事のアルバンさんは六週間ほど前から体調を崩していて、どんどんと衰弱してしまっているらしい。
今はアルバンさんの息子さんと使用人達が、なんとか仕事を肩代わりしているそうだ。まだ引き継ぎもしてなかったので大変らしい。
「アルバンの家系は、何代もずっと執事として仕えてくれているんだ。俺はアルバン達も家族のように思っている。ダメでも構わないから、見てやってくれないか?」
「はい。力になれるかわかりませんが、なんとか頑張ってみます」
「ありがとう」
リシャール様はそう言って頭を下げた。公爵家のリシャール様に頭を下げられたら、絶対に失敗できない……
俺はかなりプレッシャーを感じながら、決意を込めて拳を握った。
その後、リシャール様は明日見てくれればいいと言ってくれたが、できるだけ早い方がいいだろうと思い、アルバンさんの元に案内してもらった。
リシャール様とフレデリック様も一緒に来るようだ。アルバンさんは普段使用人部屋に住んでいるが、お世話をしやすいようにとのことで、今は客室にいるらしい。
ロジェに先導されて歩くこと少し、一つの客室にたどり着いた。ここにアルバンさんがいるようだ。
ロジェが扉をコンコンと叩き、中に声をかけた。
「リシャール様、フレデリック様、レオン様がお越しです」
そう声をかけると、中で少しの時間バタバタと人が動いている気配がして、ドアが開いた。部屋の中はかなり薬草を使っているのか、薬草臭さが漂ってくる。この世界は病気に対する治療法はあまり発展していないようだ。
「お待たせいたしました」
開けてくれたのはこの屋敷の使用人のようだった。交代でアルバンさんの世話をしているのだろうか。
俺たちが部屋の中に入ると、ベッドに寝ていたアルバンさんが、なんとか起きあがろうとしている。
前に見た時よりかなり痩せてやつれてしまっているようだ。
「大旦那様、フレデリック様、レオン様、見苦しい姿を申し訳ありません。ゴホッ、ゴホッゴホッ」
アルバンさんはなんとか起き上がり話し始めたが、声を出すと咽せてしまうようだ。
「アルバン、見苦しいなどとは思わない。それに無理に起き上がらなくても良いから寝ていろ」
「そうだ、体に負担のかかることはしない方がいい」
リシャール様とフレデリック様がそういうと、アルバンさんはまたベッドに横たわった。かなり辛いのだろう。
「レオン、どうだ。治せそうか?」
フレデリック様が小声でそう聞いてきた。俺も小声で答える。
「まだわかりません。ですが、やってみます」
俺はそういうと、アルバンさんのベッドの横までいった。
「アルバンさん、今から治癒魔法を使います。これで治る保証はありませんが、試してみてもいいでしょうか?」
「はい。治る可能性が少しでもあるなら……お願いします」
「わかりました。楽にしていてください」
アルバンさんのおでこを触ってみるとかなり熱い。高熱が出ている。それから咳だ。さっきもかなり苦しそうだったし、今も呼吸自体が苦しそうだ。
俺は医学の知識なんてないから詳しいことはわからないけど、肺炎とか結核とかかな。とにかくウイルスが、肺に炎症を起こしてるってことだよな。
それなら上半身を中心に、体に害のあるウイルスや菌を消滅させるイメージでいいかな。あまり詳細なイメージはできないから魔力をかなり使うだろうけど、どんどん魔力量も増えてるからできることを祈りたい。
最近は、最初に魔法を使い始めた時の百倍以上にまで魔力が増えているんだ。できるはずだ。
深呼吸をして心を落ち着けて、気合を入れた。
よしっ! 俺はさっきのイメージを頭に浮かべながら、アルバンさんの体に向かって魔力を発動した。
そうするとアルバンさんの体が光に包まれる。
うぅ〜、かなり魔力を持っていかれる……でもまだだ、まだウイルスを消し切れてない……
不思議なことに、回復魔法の光で身体を包むと、どこが悪いのかもなんとなくわかるし、どこまですれば完治したのかもなんとなくわかるのだ。これも俺の特殊能力なのかもしれないな。
そんなことを考えながらずっと魔力を流し続ける。
まだだ…………もう少し……………終わった!
はぁ、はぁ、はぁ、俺はほとんど魔力が残っていなくて、なんとか立てる状態だった。ギリギリだった。
病気を治すにはもっと魔力が必要だな……
俺はなんとか息を整えて、アルバンさんに声をかけた。
「アルバンさん終わりました。体調はどうですか?」
アルバンさんは徐に起き上がると、立ち上がって部屋を歩き回り始めた。
「凄いです!! あんなに苦しかった息も全く苦しくないですし、体も軽いです! レオン様本当にありがとうございます。この御恩は一生忘れません。何かありましたら必ず私がお助けいたします」
「治ってよかったです。そんな大袈裟なことじゃないですよ」
アルバンさんは顔色もかなり良くなってるしもう大丈夫だろう。よかったぁ。
俺は心底安心して部屋を出ようと後ろを振り返ると、呆然としたリシャール様とフレデリック様がいた。
え?? 喜んでくれないんですか?
「お二人ともどうしたのですか?」
「あ、ああ、いや、本当に治ってしまって驚いているんだ……」
「ああ、レオン、君は本当に凄いね……」
二人はまだ呆然としている。俺はなんとか二人を現実に戻して、部屋から退出することにした。
ロジェも無表情が崩れてかなり驚いているようだったから、俺かなり規格外なことやらかしたのかも……まあ、今更だけど。
「レオン君、君が病気を治せることは絶対に秘密にするんだよ。これが知られたら君の身はかなり危険になる。それから、この能力については陛下にも相談する。もしかしたら治療の依頼が来るかもしれないが、もし依頼が来たら、回復魔法を使うのは嫌ではないかい?」
まあ、今まで治せなかった病気が治せるとなれば、権力者はこぞって俺を狙うよな…………怖っ!
内緒にしとこう。俺の知り合いが病気になった時だけ、こっそり使うことにしよう。
あと陛下に相談って、陛下って王様だよな。なんか凄いことになってる……まあ、リシャール様達も公爵家の人々だから今更なんだけど……
依頼は、俺の力でたくさんの人が救えるのなら断る理由はないよな。王家や公爵家からの依頼ってことは、俺の身の安全も考えてくれるんだろうし。
いや、王家って信頼できるのか? まあ、リシャール様が信頼してるなら大丈夫だと信じよう。
「この能力を言いふらすようなことはしません。依頼については、私の身の安全が保障されるならお受けしようと思います」
「本当か! ありがとう!」
もしかしたら、王族とか偉い人で誰か病気の人がいるのかな……?
「では、今日はゆっくりと休んでくれ。明日は仕立て屋が来るから、たくさん注文しなさい。ロジェには最低何着注文するか伝えてあるから、遠慮しないように」
「はい。ありがとうございます」
「レオン、また今度な」
「はい。お休みなさい」
そこで一度話は終わりになり、俺たちはそれぞれの部屋へと戻った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます