第29話 魔法具の設置

 火魔法の魔法具を作ってから数日後、マルセルさんの家に行くと、ストーブと料理用コンロ、湯沸かし器が完成していた。


「もう完成したんですね!」

「ああ、もう登録も終わったぞ。本当にわしが開発してるのかと疑われて危なかったんじゃが、上からの指示が来たらすぐに登録されたんじゃ。レオン、王宮の上層部と繋がりがあるのか?」


 マルセルさんは俺にじーっと、疑いの目を向けている。  

 俺は王宮に知り合いなんているわけないし、そもそも貴族の知り合いはタウンゼント公爵家の方々だけだし。

 あ、そういえばリシャール様は王宮で働いてるんだっけ?

 ……まあよくわからないけど、登録できたならいいじゃないか。


「よくわからないですけど、タウンゼント公爵家の方々ですかね? でも登録できたならいいじゃないですか」

「待て! レオンはフレデリック様だけじゃなくて、タウンゼント公爵家の方々とも繋がりがあるのか!?」

「あれ……? マルセルさんに言ってませんでしたっけ? この前屋敷に招待されたんです」

「屋敷に招待じゃと!? それは……」


 そのあとマルセルさんは、小声でぶつぶつと「レオンの異常さなら興味を持つのもしょうがないか」とか「タウンゼント公爵家の勢力にはレオンは使える人材なのか」とか言っていたが、そのうち納得したようだ。


「まあ良い。レオンのことは深く考えないに限るからな。とにかく登録はできたから、ストーブの購入金額を引いた、白金貨十四枚と金貨五枚を口座に入れといたぞ」


 俺はなんだか釈然としないが、ここで俺は異常じゃないとか言っても説得力がないので、やめておくことにした。


「ありがとうございます。後で確認しておきます」

「ああ、そうしてくれ。それで、ストーブはどうやって持って帰るんじゃ? わしが持ってる荷車を貸そうか?」

「貸してもらえるとありがたいです! 明日にでも返しにきます」


 そうして俺はマルセルさんから荷車を借り、ストーブを持って家に帰った。



「ただいまー! 父さん、ちょっと手伝ってくれる?」

「おかえり、レオンどうしたんだ?」

「これ重いから家の中に運ぶの手伝ってくれる?」

「いいけど……これなんだい?」

「魔法具だよ、これならうちでも使えるから!」


 父さんは魔法具って聞いて、とにかく驚いている。魔法具は貴族が使うものっていう認識だからな。

 俺はもっとたくさん家に魔法具が欲しいんだけど、料理用コンロは厨房を改築しないと設置できないから無理だ。平民の家に魔法具を設置するための工事はしてくれないらしい。

 水洗トイレも水道も、そもそも中心街では下水道のようなものがあって成立しているので、この家ではできない。お風呂も同じだ。お風呂はさらに湯船を設置する場所もない。

 マルセルさんの工房は、魔法具が設置されてるけど、国によって特例で下水道が引かれているらしい。爵位の代わりってことだろう。羨ましい。

 俺はピュリフィケイションを魔石に込めて浄化の魔法具を作ればいいんじゃないかと思ったが、マルセルさんに聞いてみるとそれは無理そうだった。ピュリフィケイションはかなり魔力を消費するが、魔法具にしても同じらしく、トイレ一回分を綺麗にするのに、最大限魔力が込められている魔石で、二回ほど魔力を込め直さなくてはならないそうだ。それでは実用は無理だよな。


 こんな感じで俺の家で魔法具を使うのはほぼ無理なのだ。だが、ストーブならどこに置いても使えるし、改築工事もいらないので俺の家でも使える!

 本当は魔法具全部を使って便利な家にしたいが、それは無理なので諦めている。快適な生活は役人になってからだな。でもどうせなら貴族になりたいけど……もっと便利そうだし。



 俺がそこまで考えたところで父さんがフリーズから戻ってきた。


「ま、魔法具って貴族が使うやつだろう? なんでレオンが持ってるんだ?」


 父さんがそう小声で聞いてきた。やっぱり魔法具があるって知られない方がいいんだよな。盗まれる可能性もあるし。使うとしたらリビングと寝室だな。


「マルセルさんと仲がいいから、それで手に入れられたんだ」


 俺がそう言うと、父さんは納得したようだった。俺が貴族と知り合いだったりしてるから、だんだんと慣れてきているようだ。父さんも母さんも、俺のことについては深く考えないようにしてるところがある。


「じゃあ、早く家の中に運んじゃおうか」

「うん!」


 俺と父さんでとりあえず寝室に運ぶことにした。母さんも魔法具に驚いていたが、父さんの「レオンが持ってきたんだ」の言葉に納得したようだ。それで納得されるのも喜んでいいのかよくわかんないな。まあ、いいけど……

 マリーは魔法具がよくわかってないようだったが、とにかく暖かくなることに喜んでいた。



 その日の夜、寝室で俺は、母さんと父さんに魔法具の使い方を教えて、魔力を込める際のイメージについても教えた。


「魔力を込めるときのイメージは、魔石から三十センチほど上空に、小さなファイヤーボールを作るイメージだよ」


 二人とも火属性だからすぐにできるかと思ったけど、魔力量が少なくて上手くいかない。


「レオン、母さんも父さんも魔力量が少ないから、そもそもファイヤーボールも作れないのよ?」


 そうか……それだと難しいかも。

 でも、酸素の概念とかイメージ力を鍛える練習をすれば作れるようになるんじゃないか? 俺もそのイメージでかなり消費魔力量を減らせたからな。


 俺は母さんと父さんに、酸素についての説明をして、できる限りイメージ力を高める練習をしてもらった。


「なんとなくでも理解できた?」

「まあ、少しは理解できたけど、これで何かが変わるのかしら?」

「これでファイヤーボールが使えるようになるなんて、信じられないな」

「とにかくやってみようよ! ここだと危ないから中庭に行こう」


 そうして、三人で中庭にやってきた。マリーは疲れてたのか、俺たちが話しているうちに寝てしまったようだ。


「じゃあ、さっきのイメージでファイヤーボールを作ってみて。手のひらから少し離れたところに、小さめのイメージで」


 二人とも恐る恐るではあるが、ファイヤーボールを試してみてくれた。すると、二人とも小さなファイヤーボールを作れるようになった。

 凄い! 大成功だ!!

 やっぱりイメージ力ってかなり大事なんだな……この方法を使えば、この世界の魔法の強さがかなり高まる気がする。でも、敵を強くしちゃう可能性もあるから気をつけないとだな……


「レオン凄いわ!! 本当にできるようになるなんて」

「レオンありがとう。日常生活でも使えるし、自衛にもなるよ」

「使えるようになってよかった! これで魔法具にも魔力を込められると思うから、戻ってやってみよ!」



 寝室に戻り、母さんと父さん二人に魔力を込めてもらうと、どちらも問題なく魔力を込めることができている。


「これでいつでも暖かく寝れるね!」

「それは本当に嬉しいわね。冬は寒くて眠っていても目が覚めたりしていたから」

「これで風邪をひくこともなくなりそうだね」


 母さんと父さんが喜んでくれてよかった。


「でもこれは周りの人には知られないほうがいいわ。この魔法具のことも、さっきの魔法の使い方のことも」


 母さんが少し顔を険しくしてそう言った。


「特に魔法の使い方の方は影響力が大きそうだ。レオン、他の人には安易に教えてはいけないよ」


 やっぱりそうだよなぁ。広めるなら全属性のことを明かせるようになった時かな。


「うん、わかってるよ。母さんと父さんも内緒にしてくれる?」

「私たちがレオンを危険に晒すようなことを、言うわけないじゃない」

「その通りだよ」

「母さん、父さん、ありがとう」


 母さんと父さんは、絶対前のレオンと違うことに気づいてると思う。でも何も言わずに変わらず愛してくれる。本当に嬉しい。俺も家族を危険に晒さないように気をつけよう。


 そこで話を終わりにして、ストーブをつけて寝ることにした。部屋も布団もぬくぬくで、すぐに深い眠りに落ちた。

 やっぱりストーブ最高だ…………

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