第28話 火魔法の魔法具

 それから季節一つ分ほどは、いつも通りの穏やかな日常が過ぎていった。その間に毎日魔法の練習とトレーニングをしていた俺は、かなり強くなったと思う。魔力量もかなり増えた。

 でももっと頑張る予定だ。魔物とも騎士とも戦ったことがないから、どこまで強くなればいいのかがわからないのだ。まあ、強くて悪いことはないだろう。



 最近は、魔法の練習とトレーニングに時間を取られて、マルセルさんのところに全然行っていなかったので、今日は久しぶりに、マルセルさんのところに行くことにした。


 最近は冬になったのでとても寒く、たまに雪が降って積もる日もある。冬になったらストーブやドライヤーが切実に欲しくなったのだ。

 俺には魔法具を買えないかもしれないが、とにかく現物を作らないことには始まらない。

 火魔法と風魔法を使ってストーブのようにすることもできるが、かなり魔力を消費するし、ずっと続けるには集中力が必要ですごく疲れるのだ。

 結局竃に火がついている厨房にずっといて、暖をとることになる。寝るときは重いが、家にある布を全て掛けて寝ている。

 とても寝苦しい。切実にストーブが欲しい。


 

「マルセルさん! お久しぶりです!」


 俺はマルセルさんの家のドアを開けて、家の中に呼びかけた。そうすると、奥から「入っていいぞ」と声が聞こえてきたので、俺は遠慮せず家の中に入っていった。


「マルセルさん、こんにちは」

「おお、レオン久しぶりじゃな」

「最近来れなくてすみません」

「別にいいんじゃよ、それで今日は何の用じゃ?」

「今日は、火魔法の魔法具を考えたいなと思って来ました。冬になったら寒くて、どうしても欲しくなったんです」


 俺は苦笑いしながらマルセルさんにそう言った。


「それは構わんが、火魔法の魔法具は成功せんぞ? 魔鉄が熱に耐えられんからな」

「そうなんですよねー、だから頑張って考えようと思いまして。もしかしたら良い方法が思いつくかもしれませんし」


 俺はそう言って、どうしたら火魔法の魔法具が成功するのか考え始めた。

 まず、魔法具は魔石を魔鉄にはめ込むことで、魔石に組み込まれた魔法が発現するものだ。発現するときは魔石から発現する。

 例えば、水道なら魔石から水が出てくる。光球なら魔石が光る。送風機なら魔石から風が出る。

 火魔法は魔石から火が出るので、魔鉄が熱に耐えられなかった。それが失敗原因だ。


 どうすればこの問題を解決できるか……例えば魔石周りの魔鉄を絶縁体で覆うとか……? この世界の絶縁体ってなんだろう? ゴムとか石とかかな? でもこの世界でゴムって一度も見たことがない気がする。

 確かゴムの木って日本では作られてなかったよな。熱帯地域が原産だった気がする。それならこの国は、植生が日本に似ているから、ゴムの木はないのかもしれない。

 他国にはあるのかもしれないけど、それを探すのは大変すぎるなぁ。というかそもそも、ゴムって電気は通さないけど熱では溶けるんじゃないか? ダメだ。

 そうなると石だけど、石を加工するのが大変過ぎるし、石って重すぎる。

 絶縁体を使うのは無理か……そもそも魔石が魔鉄に触れてないといけないんだから、いくら絶縁体を使っても、魔石が触れてるところから熱が伝わるよな。

 絶縁体はダメだ。


 じゃあ他の方法だけど……何があるだろう? 火魔法が魔鉄から離れたところに発現すれば簡単なんだけどなぁ。


 …………あれ? 俺が作った製氷機って、風魔法を魔石から離れたところに発現させてなかったっけ?

 そうだよな! それなら火魔法も同じことができるんじゃないか?

 なんで今まで気づかなかったんだろう! 魔石から発現する魔法は、魔石から直接発生するっていう固定観念があったよな。製氷機を作ったときは、氷が作れることに意識が向いてて気づかなかった。

 とりあえず試してみたい!


「マルセルさん! 魔石から発現する魔法は、魔石から直接発生しますよね」

「それは当たり前じゃろ? 魔石なんだから」

「でも製氷機を作るとき、俺は風魔法を魔石から離して発現させました」

「確かに風魔法を使っていたが、あれは魔石から風を出してるんじゃなかったのか?」

「はい! あれは箱の真ん中から風を発生させてたんです」

「まさか……そんなことができるとは……でもそうじゃな、なんで今まで気づかなかったんじゃろうか……」

「固定観念ですね。思い込んでることって、気づけないものですよ。それで、火魔法を試してみてもいいですか?」

「ああ、良いぞ」


 マルセルさんは魔石と魔鉄をくれたので、まずは魔鉄を変形させることにした。今回はストーブを作りたいけど、ストーブの周りの部分を魔鉄で作ると、そこが溶けちゃう可能性がある。

 なので魔鉄は、真ん中に魔石を嵌め込める一枚の薄い板にした。そして魔石には、魔鉄の上に三十センチくらいのところに発現するようにして、小さいファイヤーボールを込めた。


 魔石を魔鉄にはめ込んでみると、しっかりと三十センチ上空にファイヤーボールが発現した。

 成功だ!! もしこれでも魔鉄が解けてしまうようなら、間に石などを入れればいいかと思ったが、熱は上に行くのでこのままでも大丈夫みたいだ。


「マルセルさんできました! これで周りは普通の鉄格子のようなもので覆えば、完成ですね!」

「レオン……わしたちが諦めてたものをこうも簡単に作られると……まあ、レオンだからしょうがないか」


 何それ!? 俺そんなに常識はずれじゃないよ!

 マルセルさんが最初は驚いていたが、だんだんと呆れた顔になってくる。


「俺だからしょうがないってなんですか! でもこれで便利になりますね」

「それはそうじゃが……これは王宮に届け出るのはやめておいたほうがいいかもしれんぞ」

「なんでですか?」

「この前の製氷機でもかなり目立ったからのぉ。これ以上わしが目立つと絶対に探られる。多分レオンにたどり着く奴もでてくるじゃろう。お主は目立つのは避けたほうがいいじゃろ?」

「そうですけど……そんなに目立ちますか?」

「目立つに決まっておる! 今まで魔法具が作られ始めて数十年で四つしか商品化したものはないんじゃぞ。それなのに一年のうちに何個も登録したら、目立つに決まっておるじゃろうが!」


 そ、そうか……そう考えると登録しないほうがいいかもしれないな……


「じゃあ登録はやめてくれるとありがたいです……」

「それが良いな」

「でも、これはどうしましょう? それに、この前の製氷機で、風魔法を魔石から離れたところに発現させちゃったので、気づかれるのも時間の問題じゃないですか?」

「うっ……確かにそうじゃな。この前登録したときに作った製氷機は渡してしまったから、気づかれるのは時間の問題じゃろう」

「それなら他の人に先を越される前に、火魔法の魔法具も登録したほうがいいんじゃないですか?」


 俺がそう言うとマルセルさんはしばらく考え込んでいたが、結局魔石から離れたところに魔法を発現させられることに気付かれたら同じだと思ったのか、登録することに渋々頷いてくれた。


「まあ、それなら今回は登録しよう。でも今回が最後じゃ! これからはお主が地位を得たら、自分で登録するんじゃぞ」

「はい、そうします! それで、これも自分用は確保できないですか……? 思ったんですけど、俺は貴族じゃないので魔法具を買えなくても、マルセルさんなら買えるんじゃないですか?」


 俺は「魔法具は全て王立の魔法具工房に売るから、売ることはできない」と言ったマルセルさんの言葉を真に受けていたが、マルセルさんの工房にも魔法具はある。

 それなら、王立の魔法具工房か魔法具店のようなところでなら、買えるんじゃないかと思ったのだ。平民には買えなくても、貴族になら買えるだろう。


「まあ、そうじゃな……確かにわしの工房からレオンに売ることはできないが、わしが魔法具店で買ってきたものをレオンに売ることはできる。それなら問題はない」

「やっぱりそうなんですね! じゃあ、ストーブだけ買ってもらえますか?」

「まあ、いいじゃろ」


 やったぁ!! ストーブが手に入る! 

 これで耐えられない寒さだけは、なんとか凌げる!


 俺はそのあとストーブの他に、料理用コンロと湯沸かし器の魔法具部分も作り、普通の鉄で作るところは大体の設計図を書いた。どうせ登録するなら、思いつく火魔法の魔法具を全部作ってしまえと思ったのだ。

 これでマルセルさんが、贔屓の工房に魔法具と設計図を持っていってくれて、その工房で完成まで作られるらしい。

 その完成品を持って王宮に登録に行くそうだ。

 俺の分のストーブを買ってくることも、約束してくれた。


「じゃあ、これを全て登録したら、ついでにお主の口座にお金は振り込んどくぞ。魔法具を購入する分は引いておくからな」

「はい! ありがとうございます! あっ、そういえばこの前口座を見たら、マルセルさんが言ってた金額より多かったんですけど、どうしてですか?」

「あれは、水魔法の新しい使い方を見出したと言うことで、報酬が出たからその分じゃよ」

「そんな報酬なんて出るんですね。その分までくれるなんてありがとうございます!」

「あれはわしが発見したわけではないからな。お主がもらって当然じゃよ」


 俺に伝えないで自分がもらうこともできたのに、正直にくれるなんて、やっぱりマルセルさんは良い人だな。

 俺がニヨニヨとマルセルさんをみていると、マルセルさんは恥ずかしくなったのか急に俺を追い出し始めた。


「レオン、もう時間なんじゃないか? そろそろ帰ったほうが良いぞ」


 マルセルさんが俺を追い払うように、あっち行けと手を振っている。


「はぁ〜い。じゃあそろそろ帰りますね」


 俺は苦笑いしつつそう言って、マルセルさんの家を出て、うちに向かってゆっくりと歩き出した。

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