第27話 攻撃魔法
それから数日後の午後、俺は魔法を練習するために森に来ていた。
いつもマリーたちと来ている森の外縁部ではなく、少し奥に行き川の近くの開けた場所を練習場所にした。
まずは何から始めるか……とりあえず魔法について知ってる知識をまとめよう。
まずは属性だが、魔法は六属性に分かれていて火属性、水属性、風属性、土属性、身体強化、回復の六つだ。俺は回復属性ってことになってるが、全部の属性が使える。
次は魔法の種類だが、魔法はイメージした現象が発現するから、種類分けできるものではない。イメージの力によって変わる。ただし、水属性の人が火魔法を使えないように、その属性によって使える魔法の範囲が決まる。また、俺が知ってる限り、ほとんどの人が魔法名を声に出して魔法を使うが、それはイメージを補完するもので声に出さなくても魔法は使える。
最後は魔法の威力だが、魔力をたくさん使うほど威力が増す。故に魔力量が少ない人は弱い魔法しか使えない。しかし、詳細なイメージをすることで、魔力の消費量を大幅に減らすことができるので、イメージ力を鍛えれば魔力量が少ない人でも、少しは強い魔法が使えるようになるだろう。しかし日本の知識を使っているので、俺以外の人には今のところできていないと思われる。
あと、俺は魔力を限界まで使うと、魔力量が少しずつ増えてるみたいだ。多分これも俺だけに起きる現象な気がする……取り敢えず多いに越したことはないから魔力量も増やしとこう。
魔法について今わかってることはこのくらいだな……とにかくイメージが大事だ。
まずはどの魔法の練習をするのがいいんだろうか。魔物などと戦うことを想定するなら、攻撃力が高い魔法がいいだろう。やっぱり火魔法かな。
火の矢でファイヤーアローとかカッコいいよな! ファイヤーボールより貫通力もあって威力が高そうだし。一度やってみるか。
俺は川縁にある大きな岩に向かって、素早く飛んでいく火の矢をイメージして魔法を使った。すると一本の火の矢が岩に向かって一直線に飛んでいった。凄い! できた!
しかし、火の矢は岩に当たって消滅してしまった。岩を見てみると傷跡ひとつ付いていない。威力が足りなかったのか? もう一度、今度はスピードをもっと上げるイメージをして魔法を使ってみた。しかし岩には傷跡ひとつついていない。
なんでだ? スピードの問題じゃないだろうし、岩は硬すぎたのか…………あっ! そうか、俺は火を実体のないものとして考えてるから、貫通力をつけるのは無理なのかもしれない。
それならどうするか、ファイヤーボールも燃やす力はあるけど同じ結果になるよな…………
……もしかしてだけど、全属性使えるなら、魔法を組み合わせることもできるんじゃないか?
例えば土魔法で石の矢を作って、それに火を纏わせて飛ばすとか。それめちゃくちゃ強そうだな。
よし、まずは土魔法で矢を作ることをイメージして、火魔法を纏わせる。それを岩に向けて飛ばしてみる。速度はできるだけ早く、銃の弾丸のイメージだ。
ドンッ……おお、結構大きい音がしたな。明らかにさっきまでよりは威力が高いだろう。
岩を見てみると、矢の先端が岩に突き刺さっていた。
成功だ! でも、石の矢を作るのに割と魔力を消費するんだよなぁ……もっと小さい矢でもいいか? いや、そもそも魔法で飛ばすんだから、矢の先だけでいいんじゃないのか?
俺は矢の先だけ、少し尖った弾丸のようなものをイメージして作り、それに火を纏わせて飛ばしてみた。
するとさっきと同じくらい岩にめり込んでいて、消費魔力はかなり減った。
大成功だ!! これは使い勝手の良い魔法になりそうだな。名前はどうしよう? ファイヤーアローって言っても、もう矢じゃないからな……
弾丸って確かバレットって言うんだった気がするから…………ファイヤーバレットでいいか! うん。かっこいい。まあ、名前は特に必要ないんだけど、気分の問題だ。
よし! じゃあ次だ。ファイヤーバレットは単体への攻撃だから、範囲攻撃魔法も考えようかな。
範囲攻撃って言ったら、風魔法かな? トルネードとかできそう!
とりあえず小さめの竜巻をイメージしてやってみよう。そう思ってやってみたが、結構魔力を消費するわりに攻撃力はあまりなかった。
確かに風によって何かが切れるってイメージしづらいよなぁ……かまいたちとかって実際の現象として見たことないし。
それなら……竜巻の中にさっきのバレットを出現させたらいいんじゃないか?
そう思ってやってみたら、竜巻の中のものを無差別に切り刻むという、非常に残酷な攻撃になった。竜巻の中に入れてみた太めの枝が、バラバラのボロボロになっている……ま、まあ、威力が高いのはいいことだよな。
とりあえず強い魔法ができてよかった。でも結構魔力を消費するんだよなぁ。まあ、やばい時の必殺技って考えれば良いか。名前は……ロックトルネードとかかな。
それから俺はどんどんと攻撃魔法の開発と練習をしていった。
水魔法でウォータージェット。岩が少し削れるくらいの威力しかないが、消費魔力量が少ないのが魅力だ。
火魔法でファイヤーボール。これは火の温度を上げて、熱での攻撃力上昇を考えてみた。
土魔法でウォール。土を盛り上げて壁を作る魔法だ。強固な壁にするほど消費魔力量が多くなるので、あまり強度は上げられないが防御には便利だろう。
身体強化魔法でビルドアップ。特定の部位の筋肉量を上げて、力を上げる魔法だ。これはかなり使い勝手はいいだろう。何にでも応用可能だ。剣とかを使うときにも使えるかもしれないな。
攻撃魔法はもう十分だ。というか…………ちょっとやりすぎたかも。
俺は周りを見渡してそう思った。岩は何度も攻撃されてひび割れてるし、木々は嵐の後のようにぐちゃぐちゃだ。
これ、やばいかな……? でも結構森の奥に来たし、こんなところまで来る人はいないだろう。多分……
それよりも、実際に攻撃魔法を試してみたいな。
魔物の森に行くわけにはいかないし……この森にも熊や猪などの普通の獣はいるって言ってたよな。その獣を倒してみるか?
たとえ獣でも命を奪うのは嫌だけど、もし経験してなくて魔物を倒すのを躊躇って自分が殺されたら……それが一番最悪だよな。やっぱり経験しとくべきだ。
俺は獣よけの鈴をしまって、川が見えるくらいの位置で帰り道はわかるようにして森の奥に進んだ。
三十分くらい歩くと、ガサガサッと音が聞こえてきた。
俺はどこから獣が出てきてもいいように、周りをよく観察しながら耳を澄ませた。
……ガサッ
後ろだ! 俺は後ろから音が聞こえてきたのですぐに後ろを振り返ると、真っ黒な熊が俺に向かって突進してきているところだった。
俺はすぐ足にブーストをかけて、思いっきり横に飛んだ。木の枝で腕や足を引っ掻いたが、そんなこと構っていられない。俺はすぐに立ち上がり熊の方を向いた。
熊ってこんなに攻撃的なの!? しかもかなり大きい。さっきは少し気づくのが遅れてたらやばかったよな。やっぱり魔法だけに頼らないで訓練も大事かも……
そんなことを考えていると、また熊がこちらに突進してくる。俺は熊の頭を狙ってファイヤーバレットを放った。
しかし、ファイヤーバレットは熊の頭の少し上を通り過ぎ、後ろの木に当たって木を粉砕させた。
やばい! 外れた!
どうしよう…………動いてる相手に当てるの思ったより難しいぞ!
俺はまた横に飛び退いて熊を避けた。
今度こそ絶対当てるために、次は胴体を狙ってファイヤーバレットを放つ。
すると、熊には当たったが熊の右肩あたりにめり込み、致命傷にはなっていないようだ。
やばい……逆に怒らせたかも! また熊が俺の方に突進してきていたので、俺は急いでロックトルネードを放った。
ロックトルネードを消すとそこには、熊だっただろうものしか残っていなかった。
うぇっ……気持ち悪い…………
やっぱりロックトルネードは威力が高すぎるな……本当に危ない時以外は使うのやめよう。
というかかなり危なかった。魔法が使えるからって自分の力を過信し過ぎてたかも。もっと命中率を上げる練習もしないとだし、自分の訓練もしたほうがいいかもしれないな。
これからは魔法の練習と体力作りだな。
そこまで考えてハッとした。やばい……今何時だろう? というか時計壊れてないかな!?
慌てて時計を見て見ると、壊れてなかったみたいだ。よかった……けど、もう17時過ぎてる!
やばい! あと1時間以内に帰らないと!
俺は自分についた傷をヒールで治し、ピュリフィケイションで服を綺麗にして、家に向かって駆けて帰った。
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