第15話 中心街を観光

 銀行を出て、中心街のお店を見ながらマルセルさんと歩いている。


「まずは昼ごはんにするかのぉ。レオン何が食べたい?」

「うーん、どんなお店があるんですか?」

「そうじゃなぁ、格式高いレストランとおしゃれなカフェ、普通に平民向けの食堂もあるぞ」

「ここにも平民向けの食堂があるんですね」

「それはそうじゃ。ここらのお店の従業員はほとんど平民じゃし、貴族の屋敷で働いてる平民も多くいるからな。じゃが、レオンの家があるあたりよりは値段は高いな」


 やっぱり中心街の方が物価が高いのか。というかこの三択だったら俺が選ぶの一つしかないじゃん。


「平民向けの食堂で」

「よし、おしゃれなカフェじゃな」

「マルセルさん、そんなこと言ってないです!」

「わしが行きたいからいいんじゃ。本当はレストランが良かったんじゃが、流石にドレスコードがあるからのぉ。レオンの格好では入れんからな。でも服を買ってから行くのもありじゃろうか?」


 服を買ってから!? 流石にそれはダメだろう。


「カフェで、カフェに行ってみたいです!」

「よし、じゃあカフェに行くかのぉ」


 なんか、嵌められた気がする……

 まあ、カフェ行ってみたいからありがたく奢ってもらおう。


 それからしばらく歩くと、目的のカフェに着いた。

 外見は普通の綺麗な家という感じだが、外にはおしゃれな看板がかかっていた。

 中に入ると、平民の家にあるような木目丸出しで、装飾も何もされていない机とは違い、白く色が塗られていて縁が複雑に彫られているオシャレなテーブルと椅子があった。


「いらっしゃいませ。あちらの机でよろしいでしょうか?」

「レオン良いか?」

「は、はい。そこで大丈夫です」


 突然話を振られるとは思わず、焦ってしまった。

 店に入ると、若い女の人が席に案内してくれた。


 働いてる人はみんな平民だと思うけど、やっぱり貴族に接することがあると、言葉遣いとか立居振る舞いとか教えられるんだろうな。

 普通に敬語を使ってるし、俺の周りにいる人とは違う。


「ではこちらがメニューですので、注文が決まりましたらお声がけください」


 そう言って店員さんは下がって行った。


「レオン、どれがいいんじゃ?」

「ちょ、ちょっと待ってください」


 マルセルさんは既にメニューを見ていたので、俺も慌ててメニューに目を落とした。

 カフェと言うだけあって、メニューにはオシャレな名前が並んでいた。フレンチトーストやサンドウィッチ、ジャムトーストなど、俺の知っているものも多くあるが、いくつか聞いたことのない料理がある。


 これは推測だが、俺の翻訳機能が日本に似たようなものがあるものは日本の名前に翻訳して、日本にないものはこっちの名前そのままの発音でカタカナに変換されているんだと思う。

 そして俺が話した言葉もこの世界の言葉に翻訳されているんだろう。すごく便利だけど、不思議な能力だよな……


 まあ、便利だからいいか。今はお昼ご飯だ!

 どれがいいかな…………よしっ、サンドウィッチとフレンチトーストにしよう。


「マルセルさん、俺はサンドウィッチとフレンチトーストがいいです」

「飲み物はどうするんじゃ?」


 そっか、飲み物もメニューにあるんだ。平民の食堂はどこでも果実水だから、この世界に来て初めて飲み物を選ぶな。

 えっと……紅茶と緑茶、フルーツジュースがあるみたいだ。って、緑茶もあるのか!? 

 この世界ってやっぱり日本的だよなぁ。なんでなんだろうか……

 でも紅茶と緑茶って同じ茶葉からできるから、どっちもあるのが普通なのかな?


「紅茶でお願いします」

「わかった。なら頼むぞ」


 マルセルさんが店員さんを呼んで注文してくれた。マルセルさんはジャムトーストと紅茶を頼むみたいだ。


 この世界の食文化は発展してないって思ってたが、実際は貴族とその周辺では発展しているのかもしれないな。

 まだ最近発展しはじめて、平民まで浸透していないとかなのか?


「マルセルさん、貴族の食事は平民のものよりかなり発展してるんですか?」

「そうじゃな。十数年前に戦争が終わってから急激に発展しとるんじゃよ。それまでは、貴族の方が量が多く肉の良い部位を食べていたくらいじゃったが、最近は調理法が色々発展しとるんじゃ。それに、砂糖が輸入できるようになって甘味も増えてきとるよ」


 戦争があったのか……戦争が終わってて本当に良かった。

 これからは平民の食卓も豊かになるかな?


「じゃあそのうち平民の食事も豊かになりますよね?」

「まあ、いずれはそうなるじゃろうが、何十年も先の話だろうのぉ。裕福な層には比較的早く広まるかもしれんが、貧しい層は中心街との関わりも薄いからのぉ」


 そうなのか……また貴族かよ。もう貴族になりたい! 羨ましすぎる。そのためにはとりあえず王立学校だよね。


 俺が王立学校入学への決意を新たにしていると、料理が運ばれてきた。


「お待たせいたしました」


 まずは飲み物が運ばれてきて、そのあとに食事だ。

 フレンチトーストもサンドウィッチもすごく美味しそう。思わずお腹がぎゅるぅと鳴ってしまった。

 は、恥ずかしい……早く食べよう。


「じゃあ食べようか、いただきます」

「いただきます!」


 俺はサンドウィッチから食べることにした。ナイフとフォークが置いてあるから、これで食べた方がいいんだろうな。

 異世界で初めての銀食器だ。やっぱり貴族は食事マナーとかも決まってるんだろう。

 マルセルさんをチラッとみると日本の銀食器の使い方と大差ないようなので、俺も普通に食べることにした。


 フォークでサンドウィッチを固定してナイフを入れてまず驚いた。このパン硬くない!

 貧しい平民に食べられてるパンは、カチカチのフランスパンみたいなやつなのに、これは食パンに近い……パンも発展してきてるんだな。


 俺はまず一口食べてみることにした。

 ぱくっ…………美味しい! めちゃくちゃ美味しい!

 レタスとチキンにハーブトマトソースのようなものがかかっている。日本で食べても普通にレベルが高いサンドウィッチだ。

 俺はあっという間に食べ切ってしまった。


 次はフレンチトーストだ。こっちは見た目はフランスパンだけど、すごく柔らかい。

 ぱくっ…………美味しすぎる。甘い。

 これは確実に砂糖が使われてるな……日本のフレンチトーストと大差ない。それどころか甘いもの食べたかったからより美味しく感じる。

 涙が出そうなほど美味しい。やっぱり食事って大事だな。


 最後に紅茶を飲む。日本で飲んでた紅茶よりフルーティーな紅茶だった。日本のより美味しいかもしれない……


 めちゃくちゃ満足だ、また来たいな。そんなことを考えながら満面の笑みで一息ついていたら、マルセルさんが話しかけてきてくれた。


「美味しかったか?」


 俺はやっとそこで、食事に夢中でひたすら無言で食べてしまったことに気づいた。


「ご、ごめんなさい。俺夢中で食べちゃって……」

「別にいいんじゃ、美味しそうに食べてて良かったぞ?」


 マルセルさんがちょっと揶揄うように言ってきた。

 は、恥ずかしい……次は気をつけよう。


「えっと……すごく美味しかったです。ご馳走様です」


 俺は恥ずかしくて思わず声が小さくなってしまった。

 マルセルさんはそんな俺にちょっと笑ってから言った。


「それなら良かったわい。じゃあ次は買い物に行くかのぉ」


 そう言ってマルセルさんが席を立ち会計をしてくれたので、俺も後に続いて店を後にした。


「じゃあ、次は革製品の店じゃな。銀行カードの他に、お金も少し入れられるようなものがいいじゃろう」


 革製品って絶対高いよな……でも何を言っても変わらないだろうしありがたく買ってもらおう。


「ありがとうございます」


 


 そうしてしばらく歩くと、かなり大きなお店の前に着いた。ここは貴族や富裕層向けの革製品を中心に扱う商会の本店らしい。


「いらっしゃいませ。本日は何をお探しですか?」

「銀行カードとお金が少し入れられるもので、首から下げるタイプのものが欲しいんじゃが」

「かしこまりました。それではこちらの商品がおすすめです」


 そう言って店員さんが見せてくれた商品は、日本でいうと首にかけるタイプのパスケースのようなものだった。


「レオン、どれがいいんじゃ?」


 どれがいいと言われても、どれも大差ないように思える。強いて言えば、色が濃いか薄いかくらいだが……


「えっと、色が濃い方がいいかな」

「こちらでございますね、それでしたらこちらの商品は、丈夫な皮を使っているのでおすすめですよ」


 店員さんが色が濃いものの中でのおすすめを教えてくれた、ありがたい。


「じゃあそれでお願いします」

「かしこまりました。銀貨五枚ですがよろしいですか?」

「大丈夫じゃ」

「ではこちらでお会計お願いいたします」


 銀貨五枚!? 五万円ってことだよな、そんな高いのか。でももうマルセルさんお金払ってるし……

 どんどんマルセルさんへの恩が積もっていくな。いつか恩返ししないと……


 マルセルさんが買ったものを持ってやってきた。会計は終わったようだ。


「レオン、銀行カードを入れておけ。無くしたら困るじゃろ?」

「はい、本当にありがとうございます」

「いいんじゃよ、気にするな。お金を使う相手がいなかったから余っとるんじゃよ」


 マルセルさんは笑ってそう言った。本当にありがたい。絶対に恩返ししよう。


 そう思いつつ、俺は買ってもらった財布に銀行カードを入れた。実際手に持ってみるとパスケースよりかなり大きく、もう首にかけられる財布だったので財布と呼ぶことにした。


 これならいつでも服の下に身につけておけるから、寝てる時もずっと身につけてよう。防犯にはそれが一番だ。

 それに、こんな品の良い財布を持ってたら、お金持ってますと言ってるようなものだから、中心街以外では服の外に出さないことにしよう。


「ちゃんと入ったか?」

「はい、完璧です。ありがとうございます」

「いいんじゃよ。わしはこれからレオンに稼がせてもらう予定じゃからの」

「はい。魔法具頑張って考えます!」

「まあ、焦らなくても良いわい。じゃあ、そろそろ帰るかのぉ」

「そうですね。時間かかりますしそろそろ帰りましょうか」


 そう言って、最初に乗合馬車を降りた広場に向かって歩き出した。

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