第14話 中心街と銀行

 はぁ、はぁ、今やっと、乗合馬車から降りて中心街の入り口の広場に着いた。

 もう辛すぎた。ひたすら揺れる。地面も土だからボコボコしてるし、ガッタンガッタンずっと揺れてた。

 コンクリートが恋しい!

 それに椅子も、クッション性皆無の木の椅子だから、お尻が痛すぎる!


「レオン、どうしたんじゃ行くぞ」

「は、はぁ〜い」


 俺はなんとかマルセルさんに付いて行った。

 ここは中心街の入り口の一つのようで、大きな広場になっている。

 この広場の先からは石畳となっていて、街がすごく綺麗だ。誰でも入れるけど、俺みたいな貧しい平民丸出しの格好だと浮く。

 さっきのお姉さんのような人もいるけど、仕事が見つかればそこのお仕着せをもらえるので、あまり汚い格好をしている人がいないようだ。

 石畳の大きな道を歩いて行くと、両脇には高級そうなお店がたくさん並んでいる。貴族のお屋敷はどこにあるんだろうか?


「マルセルさん、貴族のお屋敷ってどこにあるんですか?」

「貴族の屋敷は大通りには面していない、道をもっと入って行ったところにあるんじゃ。この辺は男爵の屋敷、もう少し進むと子爵の屋敷、伯爵、侯爵、公爵と王城に近づくにつれて、高い爵位を持つ貴族の屋敷がある構造じゃ」

「そうなんですね」


 じゃあ貴族の屋敷は見れないかなぁ。ちょっと興味あったんだけど、まあ貴族とはあんまり関わらない方がいいって母さん言ってたから見れなくてよかったかもな。

 でもマルセルさんも貴族なんだけどね。


 しばらく歩いてるけど、マルセルさんは歩みを止めない。これって銀行に向かってるんだよね? こんなに遠いの?


「マルセルさん、銀行に向かってるんですよね?」

「ああ、用事は先に済ませた方が良いじゃろ」

「こんなに遠いんですか? 貴族の人も歩くんですか?」

「貴族は自分の家の馬車で移動するんじゃよ。中心街は、貴族の屋敷の一つ一つがすごく広いから、必然的に広くなってるんじゃ」


 こんなところまで貴族が優遇とは……! もう貴族になりたい……


「でももう少しで着くぞ」


 マルセルさんがそう言うと、視線の先にすごく大きな建物が見えてきた。

 周りを騎士の人が巡回していて、少し物々しい雰囲気もある。もしかしてあれが銀行……?


「あれが銀行ですか?」

「そうじゃよ」


 めちゃくちゃ入りづらっ! これは俺一人で来ても門前払いされそう。誰でも利用可能って言っても、絶対建前だけのやつだよこれ。マルセルさんがいてよかったぁ。


 建物に入る時絶対に止められると思ったが、予想に反して入る時には誰に止められることもなかった。

 しかし中に入ってみてその理由がわかった。中にも騎士がずらりと並んでいたのだ。

 これは……悪いことを企む奴なんていないってことだな。


 俺は何も悪いことをしていないのになんだかビクビクとしながらマルセルさんの後を歩き、一つの受付にたどり着いた。受付は若い男の人だった。


「こんにちは、ご用件はなんでしょうか」

「今日はこの子の口座を作りたくてきたんじゃが、すぐにできるかのぉ」

「そちらのお子様ですか?」

「そうじゃ」

「失礼ですが、口座が必要には見えないのですが。口座は三年間お金の動きがないと失効してしまいますが、大丈夫ですか?」

「おお、大丈夫じゃよ、口座開設のお金もちゃんと払うぞ」

「かしこまりました。ではこちらの書類に記入をお願いします。できればご本人様に書いていただきたいのですが、代筆が必要ですか?」

「いえ、字は書けるから大丈夫じゃ」

「かしこまりました。ではよろしくお願いします」


 なんか疑われてたみたいだけど大丈夫みたいだ! よかったぁ、ドキドキした。

 それで、この書類を書けばいいのか。

 書類に書くのは名前、性別、年齢、住んでいる街の名前だけだった。一瞬街の名前が思い出せなかったが、レオンの記憶を探ってすぐに思い出した。

 王都ラスリアだ。覚えとかないとだな。


 書類を全部書いて受付の人に渡すと、それを確認して今度は水晶玉のようなものを取り出してきた。


「これに魔力を少し流してください。あなたの魔力を記録します」


 俺は言われるがままに魔力を流した。すると水晶玉は少し光った。


「これであなたの魔力を登録しました。口座を作成するのに十分ほどかかりますので、少しお待ちください」


 そう言って受付の人は後ろに下がって行った。

 えっと、さっきの水晶玉ってなんだ? あれで魔力が登録できたのか……? というかすごいオーバーテクノロジーじゃないか? どういうことなんだ?


「マルセルさん、さっきの水晶ってなんですか?」

「ああ、あれは魔力を登録できる水晶玉でな、これから口座にお金を入れるときもお金を下ろす時も、あれで本人確認ができるんじゃよ」

「えっと……あれは誰かが発明したものですか……?」

「いや、あれは百年程前に森の奥にあった教会から見つかったものなんじゃ。確か水晶玉が百個ほどあってな、最初は何に使えるものかわからなかったらしいんじゃが、研究の末、魔力で個人の識別ができ、全ての水晶が繋がってることがわかってな。それから銀行に使われるようになったんじゃよ」

「そうなんですね……誰かが作ったものなのでしょうか……?」

「いや、あれは神の遺物だろうと言われておる」

「神の遺物……?」

「そうじゃ、出処がわからず壊せないし劣化しないものを神の遺物と呼んでおるんじゃ。あの水晶玉は使い道がわかったから良いが、まだ使い道が分からないものもあるらしいぞ」

「そんなものがあるんですね……」


 まさかそんなものがあるなんて……この世界ってもしかして本当に神様がいるのか……? いや、地球にもいたのかもしれないか。

 今は考えてもわからないことだな。

 そこまで考えた時、受付のお兄さんが帰ってきた。


「お待たせいたしました。こちらがレオン様の銀行カードです」


 俺は銀行カードを受け取った。木で作られているようで、そこには俺の名前と口座番号、登録店名が書かれていた。


「そちらの銀行カードを受付で見せてもらい、魔力で本人確認が取れたらお金の引き出しや預け入れ、振り替えなどができます。銀行カードは紛失されますと、再発行には銀貨一枚かかりますのでお気をつけください。それでは本日は口座作成で銀貨三枚です。お支払いお願いいたします」


 銀貨三枚!? そんなに高いのか! それは平民はほとんどの人が作れないよ。というかマルセルさんにそんなに払ってもらっていいのか……?


「銀貨三枚じゃ」

「確かに承りました。本日はありがとうございました」


 受付の人はそう言って軽く頭を下げた。この世界は頭を下げる文化はあるのか……うちの周りでは誰もやらないから初めてみた……

 って、今はそんなことじゃなくて、お金だ!

 俺は既に出入り口の方に向かっているマルセルさんを慌てて追いかけた。


「マルセルさん、あんなに高いのに払ってもらっていいんですか?」

「今日は全部わしが払うと言ったじゃろ? それよりもそのカードを無くさないように、首からかけられるものを買った方が良いな」


 マルセルさんはそう言ってどんどんと歩いて行ってしまう。ここは素直にお礼を言った方がいいか。


「マルセルさん、ありがとうございます。でもこれ以上はもういいですよ!」

「いや、買った方がいいじゃろう。それにわしは今まで、誰かにお金を使うってことがなかったんじゃ。わしに買わせておくれ」


 そんなこと言われたら断れないじゃないか……!


「じゃあ、よろしくお願いします」

「よし、じゃあこれからは中心街の観光じゃ。お昼も食べないとな」

「はい!」


 俺は少し苦笑いをしながらマルセルさんに付いて行った。

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