第11話 魔力測定
次の日の朝、俺は教会に行く嬉しさで朝からテンションが高かった。
「お兄ちゃんずっとニコニコしてるね!」
「マリー、今日は教会に行くんだよ。お兄ちゃん魔法を使えるようになるんだ!」
「もうっ! お兄ちゃん、昨日それは何度も聞いたよ!」
俺は嬉しさを抑えきれずに何度もマリーに話してしまい、半ば呆れられていた。
しかしこの嬉しさを抑えることはできず、朝ご飯を食べてずっとソワソワしっぱなしだった。
俺はいつもする洗濯や掃除に全然集中できず掃除は適当に済ませ、マルセルさんのところに、明日中心街に行けることを知らせに行くことにした。
「じゃあ明日のこと知らせに行ってくるねー!」
「気をつけて行くのよー」
「はーい!」
俺は返事をしながら家から飛び出して、マルセルさんの家まで走った。お昼営業までもうあまり時間がないのだ。
「マルセルさんこんにちはー!」
マルセルさんの家に着き声をかけた。少し待っているとすぐに奥のドアから顔を出してくれた。
「レオンどうしたんじゃこんな時間に?」
「明日中心街に行けることになったので知らせに来ました」
「ずいぶん早かったな。じゃあ明日わしの家に集合で良いか? 家からなら乗合馬車乗り場もすぐじゃしな」
「はい! 大丈夫です!」
「じゃあ準備しておくわい」
「ありがとうございます! また明日来ますね!」
そこまで話をして、俺はマルセルさんの家を出て、また家まで走った。太陽の位置を見る限り、もう少しで昼の鐘がなるだろう。
「ただいまー!」
俺がドアを開けてそう言ったのとほぼ同時に、昼の鐘がなった。
「レオンドア開けといてー」
厨房から母さんに言われたので、俺はドアを固定してそのまま厨房でお客さんを待った。
すぐにお客さんが来たので、そのまま昼営業の手伝いを始めた。
そしてお昼営業が終わり、今はみんなでお昼ご飯を食べている。
「マリーは一緒に行くかい? ニコラやルークたちと遊びに行ってもいいけど」
「一緒に行く!!」
「そうか、じゃあ四人で行こうな」
マリーと父さんがそんな会話をしている。今日はみんなで教会に行くらしい。
教会は歩いて二十分くらいのところにあるので、歩いていけるようだ。
「母さん、魔力測定ってどうやってやるの?」
「まずは魔力量を測るのよ。魔力を流すと魔力量が表示される金属板みたいなものがあって、それで測るの。一から五までの数字で表示されて、五が一番魔力量が多いのよ。それで、魔力量がわかったら魔力属性を探すのだけど、これは全ての属性の基礎魔法を順番に使ってみて、使えたものが自分の属性よ」
魔力量は装置を使って測るけど、それで属性はわからないってことか。端から試してみて使えたものが自分の属性ってことだな。
「母さんと父さんは火属性なんだよね? 簡単に使えるようになったの?」
「ええ、他の属性は使おうとしても全然ダメだったけど、火属性だけはすぐに使えたわ。レオンは何属性かしらね」
自分の属性はすぐに使えるってことか。俺は何属だろうな…………出来れば回復属性がいいな。自分の怪我を自分で治せるのはでかいよな。
「俺は回復属性がいいな! どの属性が多いとかってあるの?」
「回復属性は便利よね、教会に行ってお金を払わなくてもいいし。でも属性の偏りはあって、火属性が一番多くて回復属性が一番少ないと言われてるわ」
「そーなんだ……じゃあ回復属性は無理かなぁ」
「そんなに極端に少ないわけじゃないから可能性はあるわよ」
属性に極端な偏りはないけど、多い少ないはあるってことか…………俺の属性めっちゃ気になるな……まあ、教会に行けばわかるか。
それから昼ごはんを食べ終わり出かける準備をして、みんなで教会まで歩いてきた。
教会は、真ん中の建物が上に塔がついた礼拝堂みたいなもので、左右に少し小さい建物があり渡り廊下でつながっているようだった。
全体的にこじんまりとしているが、小綺麗な建物だ。
「母さん、左右の建物はなんなの?」
「孤児院と治癒院よ。教会には必ず併設されているの」
教会は孤児院と病院の役割も果たしているのか……凄いな。そういえばこの世界って信仰はどうなんだろう?
「母さん、みんな教会に熱心にお祈りに来るの?」
「うーん、そう言う人もいるけど少数ね。教会は沢山あるけどお祈りするところっていうよりも、魔力測定の場所とか治癒院って認識してる人の方が多いと思うわ」
「そうなんだね」
この世界は宗教が強いってことは無さそうだな。元日本人としては、宗教が強いのはめんどくさいのでよかった。
そんな会話をしながら俺たちは教会の中に足を踏み入れた。教会の中は、奥に神様の像らしきものがあり、その手前にその像に向けて長椅子が並べられている。
「こんにちは。今日はお祈りですか?」
中に入ると修道服を着た女性が話しかけてくれた。それに父さんが答える。
「今日はレオンの魔力測定をしてもらいたくて来たんだけど、今からできるかい?」
「はい、今日は他の人もいないので待たずに出来ますよ」
「それは良かった。じゃあレオンをよろしく頼むよ」
「はい。ではレオン君こちらに来てね」
そう言って修道女が、礼拝堂の側面にあるドアの一つを示している。
「俺一人で行くの?」
俺は教会で一人になることがなんとなく不安でそう言ったが、魔力測定は一人でやるものらしい。
「じゃあレオン頑張るんだよ。父さんたちはこの椅子で待ってるから」
「レオンしっかりね」
「お兄ちゃん頑張って!」
そう言って送り出されながら俺はドアを潜り部屋に入った。
入った部屋は真ん中にテーブルがあり、その上に金属板が置いてある。そして椅子が向かい合わせに二つだけあった。
「では手前の椅子に座ってね」
「はい」
俺は少し緊張しながらも、言う通りに手前の椅子に座った。
「では魔力測定を始めるわ。まずは魔力量を測るのでこの金属板に手を置いてね。手を置くと自動的に魔力が引き出されるから、その感覚を覚えておいて、魔法を使う時と同じ感覚だから」
「わかりました」
俺はそう答え、緊張しながら金属板に手を置いた。
そうすると、体の中から何かが引き出されていく感覚がある。これが魔力なのか……今までは一切気づかなかった。
一度この装置で魔力に気づくと魔法が使えるようになるのかもしれないな。
それからしばらく魔力が抜き取られたところで、修道女から声がかかった。
「そろそろ手を離して」
「はい」
「これで魔力量が測れたわ。あなたの魔力量は……五よ。凄いわ、一番魔力量が多い数値ね。兵士の試験も受けられるわよ」
「兵士の試験……?」
「騎士になるには王立学校を卒業しないとダメだから、騎士はほとんどが貴族だけど、兵士は魔力量が四か五なら平民でも簡単な試験でなれるのよ。給金が高いから人気の仕事よ」
「そうなんだ! じゃあよかったです!」
俺はつい敬語を使いそうになるのを我慢して、子供っぽく見えるように頑張って会話をした。
しかし、兵士のことは知らなかったな……給金が高いのはいいけど、俺は王立学校を目指してるから兵士にはならないな。
「それじゃあ次はあなたの属性を見つけましょう。魔法の属性が何種類あるか知ってる?」
「はい! 火と水、風、土、身体強化、回復の六つです!」
「合ってるわ、それぞれの属性の一番簡単な魔法を使ってみて、使えたものがあなたの属性よ。属性は一人に一つだけだから、一つ使えるものが見つかればそれがあなたの属性となるわ。まずはどれから試してみたい?」
「回復がいいです!」
「わかったわ、回復属性で一番簡単なのはライトの魔法よ。人差し指を前に出してその先が光るようにイメージしてライトと唱えるの。魔法に一番重要なのはイメージよ。イメージに魔力を乗せれば魔法が発動する。慣れてきたら唱えなくても使えるようになるわ。やってみて」
「はい!『ライト』」
俺は指先が光ることをイメージして、さっきの魔力を意識してライトと唱えた。すると指先がイメージしていた通りに光った。
凄いっ!! 使えた!! やっぱり魔法かっこいいなぁ。
「できました!」
「あなた回復属性だったのね、よかったわね。魔法は一度コツを掴めば、そのあとは練習すればすぐに使えるようになるわ。とにかくイメージが大切だから練習するのよ。他の回復属性の魔法はヒールとピュリフィケイションで、ヒールは傷を治す魔法、ピュリフィケイションは汚れを綺麗にする魔法よ」
回復と浄化の魔法ってことか。
「これから練習します!」
「あなたは魔力量が五だから骨折とかも治せるかもしれないわ。しっかり練習しなさい」
「はい! 病気は治せないの?」
「回復魔法で病気は治せないわ。怪我だけよ」
「そうなんだ」
本当に病気は治せないのか? 今まで聞いてきた話をまとめると、魔法はその属性でできる範囲で、イメージと魔力量によって決まるってことだろう。
回復属性なら病気も治せそうだけど……今度試してみたいな。まあ、また家に帰ってからだな。
「じゃあこれから練習頑張ってね、魔法は使えると便利だから。あとあなたは回復属性で魔力量も大きいから、治癒院でも働けるわよ。興味があったらぜひ来てね」
修道女が獲物を見るような目で微笑みこちらを見ている……うっ……早く逃げたほうがいいかも…………
このままだと治癒院で働かされそうだ。
「じ、じゃあ、ありがとうございました」
そう言って俺が椅子から立ち上がりすぐ後ろにあるドアから出ようとすると、お姉さんは獲物を見るような目のまま送り出してくれた。
ふぅ、あんまり教会には来ないようにしよう……
そんなことを考えながら礼拝堂に戻ると、みんなが待っていた。
「レオン終わったのかい?」
「うん! 俺は魔力量が五で回復属性だったよ!」
「魔力量が五だったのか! それは凄いね。回復属性なら怪我したらレオンに治してもらえるな」
「そうね、これからは怪我したらレオンに頼むわ」
「お兄ちゃん回復属性だったの? じゃあ怪我しても大丈夫だね!」
「マリー、怪我はできるだけしちゃダメだぞ」
「はぁ〜い」
父さんと母さんはそんな俺とマリーの会話を聞きながら、優しく微笑んでくれていた。
俺は家族のみんなを治せるこの属性でよかったと心から思った。
「じゃあ、家に帰ろうか」
「そうね、今日の夜ご飯は記念に豪華にしましょうか」
「豪華なご飯!! やった〜!」
「母さんありがとう!!」
俺たちはそんな会話をしながら教会を出て、家へと向かって歩き始めた。
俺は、この優しい家族を守ることができる魔法を、しっかりと使えるようになろうと決意を新たにした。
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