第10話 魔法具のアイデアと銀行
俺はまず、自分が欲しいものを考えてみることにした。
とりあえず冷蔵庫と冷凍庫、あとは電子レンジにドライヤーとエアコン、それからコンロみたいなのもあったら便利だよね。でもコンロとかって誰か思いついてそうだけど、成功しなかったのかな?
「マルセルさん、一つ聞いてもいいですか?」
「なんじゃ?」
「料理をするための火の魔法具のようなものは開発されてないんですか? 誰かが思いつきそうですけど……」
「ああ、それならずっと研究されとるんだが成功してないんじゃ」
「なんでですか……?」
「魔法具は魔石を魔鉄に嵌め込むことで作動すると言ったじゃろう。魔石だけ魔鉄だけではダメなんじゃ。それで火魔法は魔鉄を溶かしてしまうんじゃよ。多分魔鉄は魔法の火に弱いんじゃろう。だから火魔法で魔法具を作っても使ってるとすぐ壊れてダメなんじゃ」
「そうなんですね」
魔鉄は魔法の火に弱いのか……それだと難しいか。でも絶縁体のようなものを魔鉄と魔石の間に入れればできなくもないか?
いや、でも魔石は魔鉄に触れなければ発動しないから……これは今の俺の知識では無理だな。別の魔法具を考えよう。
まずは冷蔵庫。この世界に氷魔法は無いみたいだから、なんとか水魔法を使って作れないか考えよう。
「マルセルさん、水魔法で出す水って凍るギリギリまで冷たくできないんですか?」
「そうじゃな……魔法で出す水の温度は変えることができるが氷を作り出すことはできない。これが今までにわかっていることじゃ。できる可能性はあるかもしれんのぉ」
「マルセルさんは何属性なんですか?」
「わしは回復属性じゃ、だから今試してみることはできないな」
マルセルさんって回復属性だったんだ。そういえばこの工房って他の人いないよね。
「他の属性の魔法具を作る時はどうしてるんですか?」
「王宮から材料を買うときに、魔石に魔力をあらかじめ込めておいてもらうんじゃよ」
そーいうことか……あらかじめ込めてもらう魔力を零度以下の水に出来るかなんて言っても、絶対理解してもらえないよね。しょうがない今は試せないけど、とりあえず水魔法で出す水の温度は変えられるってことは覚えておこう。
確か何かのテレビで、零度以下の水の実験をやってたんだよね。それは何かしらの刺激があれば瞬時に凍るって言ってた気がする。
もしその水を作り出せるのなら、水魔法でその水を出して風魔法で刺激を与えれば細かい氷が作れるんじゃ無いかと思うんだけど……試す方法がない。
自分が水属性なら試せるし、まずは自分の魔法属性を知ってからの方が良いかもしれない。まずは教会に行った方がいいな。
「マルセルさん、色々と思いついたんですけど、自分の魔法属性と魔法の使い方を知ってからの方が効率が良いと思うので、教会で魔力測定をしてからまた来るのでもいいですか?」
「ああ、わしは全然構わんぞ。ただその前に報酬についての話をしても良いか?」
「はい。それは俺の方からお願いしたいです」
「レオンがこの前来てから考えてたんじゃが、とりあえずわしが良いアイデアだと思ったものには金貨一枚払おう。それから、もしレオンが考えたアイデアが魔法具となり、王宮に登録されたら白金貨5枚を払おう。これでどうじゃ?」
えっと、金貨一枚と白金貨五枚……ってどれくらいの価値なんだろう。レオンは銅貨までしか知らなかったんだよね。
「お金の価値がよくわからないのですが、教えていただけますか?」
「そうじゃったか、すまんな。レオンは平民ということをすぐに忘れてしまうわい」
そこからマルセルさんがお金について丁寧に教えてくれた。それをまとめるとこんな感じだ。
鉄貨 10円
小銅貨 100円
銅貨 1,000円
銀貨 10,000円
金貨 100,000円
白金貨 1,000,000円
レオンの記憶から鉄貨が十円くらいで、全ての貨幣が十単位で次の貨幣にいくようだったので、日本円に当てはめてみるとこんな感じになると思う。ただこれはあくまでも適当に当て嵌めただけだから、合ってるかはわからない。
それでこの教えてくれた価値に基づいて考えると、金貨一枚は十万円、白金貨五枚は五百万円となる。
十万円と五百万円。十万円と五百万円!?!?
え!? こんなにもらっていいの?? 多すぎない?
「マ、マルセルさん、金貨一枚と白金貨五枚って多すぎませんか!?」
「いや、これでも少ないくらいじゃ。魔法具は貴族が買うものだから高く売れる。それに使用料はかなり高いのじゃ。だから魔法具は儲かる。特に新しい魔法具を開発した時は面白いくらい金が入ってくるんじゃよ」
そうなのか。原料も貴重だし高いんだろうなとは思ってたけど……凄いな。
とりあえず、貰えるものはもらっておこう。
「マルセルさん本当にありがとうございます。精一杯新しい魔法具を考えます!」
「ふん、レオンが何も思いつかなかったら一鉄貨も払わんからいいんじゃ」
マルセルさんは挑戦的な眼差しで俺をみている。絶対に良い魔法具を考えよう!!
「絶対に思い付きますから、お金を用意しておいてくださいね!」
俺はそこまで言って思った。そういえばお金ってどうやって貰えばいいんだ……? そんな大金持ってたら怖くて夜も眠れない。銀行的な仕組みはあるのだろうか。
「マルセルさん、お金ってどうやって貰えばいいんでしょう? 金貨とか白金貨とかを貰っても持ってるのが怖すぎます」
「そうか、レオンは口座を持ってないのか。これは作らないとダメじゃな」
「口座……?」
「ああ、平民にはあまり知られてないじゃろうが、この国にはお金を預けられていつでも引き出せる仕組みがあるんじゃ」
マルセルさんが色々説明してくれたことをまとめると、国営の銀行があるらしい。この国の国民なら誰でも口座を作れてお金を預けられるけど、平民はお金が貯まることがあまりないので豪商くらいしか利用していない。貴族と貴族の屋敷で働く使用人は全員口座を持っているそうだ。
そして銀行の本店が王都中心街の王城のそばにあり、支店は貴族の領地の領都にあるらしい。口座を作るのも、預け入れと引き出しもどこでもできるそうだ。
「じゃあ俺は口座を作らないといけないんですね」
「そうじゃな、口座があればわしの口座からレオンの口座に直接お金を移せるから安全じゃ」
口座は便利そうだし絶対作っとくべきだな。でもそうなると一度中心街に行かないといけないけど……子供でも作れるんだろうか。
「口座って俺が行っても作れるんですか?」
「作れるじゃろうが、貴族でもない平民の子供が行ったら怪しまれるな。レオンは格好からして裕福そうではないしのぉ。まあ、わしと一緒に行けば大丈夫じゃよ」
「え、一緒に行ってくれるんですか?」
「ああ、家の魔法具に魔力を補充してもらうついでじゃ」
ついでだと言っているが、絶対優しさからついて来てくれるんだろう。マルセルさん優しいな……
言ったら絶対にそんなことないっていうから言わないけど。俺はそんなことを思いながら顔がニヤけるのを必死に抑えていた。
「いつ中心街に行きますか?」
「レオンの行ける時で良いぞ」
うーん……俺の自由時間は昼営業の後から夜営業までだけだから、四時間くらいしかないんだよね。中心街は乗合馬車で二時間くらいかかるって母さんが言ってたから、休み時間だけで行って帰ってくるのは無理だろう。
そうなると、昼営業の手伝いを休めるか母さんに聞いてみないとわからない。
「母さんに家を空けていい日を聞いてくるので、それから予定を決めるのでもいいですか?」
「わしは大丈夫じゃよ」
「ありがとうございます! じゃあまた来ますね。次に来る時までに教会にも行けたら行ってきます」
「ああ、いつでもいいからな」
「はい! じゃあ今日はこれで帰ります」
「気をつけるんじゃよ」
「色々教えていただいてありがとうございました!」
マルセルさんに挨拶をして工房から出て、家まで駆け足で帰った。夜営業の前に、教会に行く日と中心街に行って良い日を決めたかったのだ。
「母さん父さん、ただいまー!」
「レオン早かったのね」
母さんが厨房の方から顔を出してくれた。俺はカウンターのところまで行き、椅子に腰掛けて母さんに話しかける。
「母さん、今度行きたいところがあるんだけど、お昼の手伝い休んでもいい?」
「行きたいところ? お手伝いを休むのは良いけど、どこに行くの? 一人で行くの?」
まあ、当然聞かれるよね。なんて言えばいいだろう、本当のことを言ったら絶対ダメって言われる気がする。
この前貴族の話をしたときに、母さん怖い顔してたしなぁ。
「えっと……中心街に行くんだ。今日仲良くなったお爺さんが今度用事があって行くんだって。俺も一緒に連れて行ってくれるって言ってくれたんだけど……ダメ?」
母さんはしばらく難しい顔をしていたけど、「まあレオンも八歳だしね」と言って許可してくれた。
この国の成人は十五歳だけど、八歳を超えれば一人で生きていける歳だと思われている。多分八歳の時に魔法を覚えるのが関係しているのだろう。
「母さんありがとう!」
「楽しんできなさい。でも中心街に行く前に教会に行くことにしましょう。魔法が少しでも使えた方が便利よ」
「教会!! やったー! いつ行くの?」
やっと魔法が使える! 俺は嬉しくてワクワクが止まらなくなってきた。
「そうねぇ、明日の夜営業はお休みにして明日の午後に皆でいきましょうか」
「うん! じゃあ中心街には明後日に行ってきてもいい?」
「いいわよ」
「なんだ、明日は教会に行くのかい?」
父さんが仕込みが一段落したのか会話に加わってくる。
「ええ、明日の夜営業は休みにして、午後に皆で教会に行こうかって話してたのよ」
「それは楽しみだ。レオン良かったね」
「うん!」
父さんが満面の笑みで俺の頭を優しく撫でてくれた。その間に母さんは、俺が中心街に行くことも父さんに話している。
「レオン、中心街には貴族がいっぱいいるんだから、目をつけられないようにするんだよ。目立つ行動はしないこと。約束できる?」
父さんが真剣な表情で俺の目を見て言ってきた。
「うん。約束するよ」
俺も真剣な表情で答えると、父さんはいつもの柔和な笑みに戻った。
「楽しんで来るんだよ」
「うん!」
俺は明日と明後日が楽しみで軽い足取りで、夜営業の準備を始めた。
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