第9話 既存の魔法具
それから数日はマリーと出かけたり、ニコラやルークと森に行ったりしていたので魔法具工房へは行けず、あれから四日後の今日、俺はまた魔法具工房へ向かっていた。
今日はとても暖かくそよ風が吹いていて、気持ちの良い日だ。
俺は天気の良さとこれから魔法具について教えてもらえるということで、足取りも自然と軽くなり前よりも早く魔法具工房にたどり着いた。
「こんにちは! レオンです」
俺は元気にドアを開けて中に入り、奥に向かって少し大きめに挨拶をした。
この工房は、玄関を入った部屋は机と椅子と少しのインテリアしかないような簡素な部屋だ。応接室のようなものだろうか……?
そして部屋の奥にドアが一つあり、そのドアの奥が作業場となっていると推測できる。
そんなことを考えながら待っていると、奥のドアが開いてマルセルさんが入ってきた。
「マルセルさんお久しぶりです! 時間がなくて遅くなっちゃったんですけど」
「レオンか、別に大丈夫じゃよ。それで今日は魔法具を見たいんだったか?」
「はい! 新しい魔法具を考えるのにも今ある魔法具を知らないと無理ですからね」
「じゃあついてくるんじゃ」
そう言ってマルセルさんは奥のドアを潜っていった。俺は慌ててその後を追う。
ドアの奥は廊下となっていて、左側の壁にドアが二つと階段が一つあり、廊下の突き当たりにドアがもう一つあった。
マルセルさんは廊下の突き当たりのドアを開いて部屋に入っていく。
そちらが作業場なのか……? 俺は物珍しそうにキョロキョロと家の中を見回しながら、マルセルさんに続いて部屋に入った。
部屋の中は真ん中に大きな机があり、壁際には大きな棚が置かれている。そして、椅子が一つと長椅子が一つ置いてあった。
机の上にはたくさんの紙の束と、鉄のようなものや宝石のようなものがあった。多分これが魔鉄と魔石だろう。
「マルセルさん、ここは作業場ですか?」
「ああ、ここの方が実物があるから説明しやすいかと思うてな」
「ありがとうございます! 凄いですね!」
俺はどんどんとテンションが上がっている。どんな魔法具があるのか知りたい!
「レオンはその長椅子に座れ」
「はい。ありがとうございます」
「それで魔法具の種類じゃが、一番有名な魔法具はこれじゃ」
マルセルさんはそう言いながら天井を指さした。
ん? どういうことだ? と思いながら天井を見上げてみると、そこには電球があった。
「でんっ……!」
俺は電球と叫びそうになって寸前で口を押さえて止めた。セーフだ。多分……
「なんじゃ、どうした?」
「いえ、なんでもないです。これ凄いですね! この部屋窓が開いてないのに明るいなぁって思ってたんです!」
「そうじゃろう。これは光球じゃ。回復属性を魔石に組み込んである。一度魔石が満タンになるまで魔力を入れれば三十日は光り続けるんじゃ。光を消したい時は魔石を外せば良いぞ」
ん? 光球は回復属性なのか……そう言えばこの世界、光属性ってないんだよな。
それに光を消す時は魔石を外せばいいってことは、遠隔操作できるスイッチのようなものはないってことか……
やっぱり日本の機械ほど便利ではないんだな。
でもこの世界で俺にとっては画期的すぎる! 蝋燭の光は薄暗いし、少し匂いもするし……
「回復属性の魔力で光るんですか?」
「そうじゃ、回復属性にはライトの魔法もあるじゃろう?」
「俺、魔法をあまり知らないんです。魔力測定もこれから行くところで」
「そうなのか。魔法は火、水、風、土、身体強化、回復の六属性じゃが、その中に様々な魔法があるんじゃ。どこまで使えるかはその人の魔力量と素質次第じゃな」
この世界の魔法はそんな仕組みだったんだな……まあ、魔法は教会に行ってから覚えよう。
「魔法は教会に行ってからちゃんと覚えることにします! それで、光を消す時は魔石を外すって言ってましたけど、スイッチのようなものはないんですか?」
「スイッチ……とはなんじゃ?」
もしかして、この世界にスイッチの概念がないのか? だからここの言葉に翻訳されないとか?
でも良く考えてみれば、機械がなければスイッチなんて要らないもんな。魔法具になければないんだろう。
「えっと……ボタンみたいなもので、そのボタンを押すと光がついてもう一度押すと光が消える仕組みのようなものはないんですか?」
「そんなものはないな、でも確かにそんな仕組みを魔法具に作れたら、いちいち魔石を外さなくて良くなるのか、便利じゃな。でもどうやればいいのかわしには見当がつかん」
「そうですか……その仕組みを考えたらそれも買い取ってもらえますか?」
「ああ、それは喜んで買い取るんじゃが、そんなこと本当に出来るのかのぉ」
「それは、任せてください!」
俺はマルセルさんにニッコリと笑顔を向けた。多分機械の仕組みを応用すればなんとかできるんじゃないかと思うんだけど……魔法が使えるようになったら試させてもらおう。
とりあえず今は他の魔法具だな。
「他の魔法具も見せてもらえますか?」
「ああ、ここにはない魔法具もあるんじゃがな。他の魔法具は、水洗トイレ、水道、送風機じゃな」
水洗トイレあるのか!! それだけで貴族になりたい。それに水道も! 送風機って扇風機と同じようなものだよな。
凄い……この世界にはないと思ってたものばかりだ!
絶対に王立学校に行こう! 俺は決意を新たにした。
他にはどんな魔法具があるんだろう??
「その三つなら家にあるが見るか?」
「あるんですか!? 見ます!」
「じゃあ、まず送風機はこれじゃ」
マルセルさんはそう言って机の上にあった四角い筒を指差した。
え? これ?? 扇風機を想像してたからイメージと違うな。
「これですか?」
「そうじゃ、この上の凹みにこの魔石を嵌めると作動する」
そう言ってマルセルさんが魔石を嵌め込むと、少し強めのそよ風が俺の頬を撫でた。
凄い! 本当に風が来る!
威力の調節はできないのかな?
「これって風を強くしたりできるんですか?」
「それは魔石に込める魔力によって決まるんじゃ。だから魔力を使い切ってまた入れる時か、魔力を上書きすれば変えることはできるぞ」
魔石に込める魔力の強さとかイメージで決まるってことか……途中で気軽に変えられないのはちょっと不便だけどそこはしょうがないな。
「次は水道と水洗トイレじゃな。水道はこっちじゃ」
そう言ってマルセルさんが案内してくれたのは、階段を上がった先の台所だった。
「これが水道じゃ、この上に魔石を嵌め込むと水が出るんじゃよ」
水道は手のひらサイズよりも短く細い筒のようなもので、その筒の片方が塞がっていて、そこに魔石を嵌め込むところがあった。
そこに魔石を嵌め込むと筒の反対側から水が出るらしい。
「使ってみてもいいですか?」
「良いぞ。飲めるから飲んでみるか?」
「そーなんですか!? じゃあ飲んでみます」
俺はマルセルさんからコップを受け取り、そこに水を入れた。魔石を嵌めてから数秒待つと水が出てくるようで、日本の水道と大差がない感じだった。
「じゃあ、いただきます」
俺は恐る恐る水を口に入れて一口飲み干した。
ごくっ…………美味しい! これは日本で飲んでた天然水と同じような感じだ。魔法の水って美味しいんだな……
「すごく美味しいです!」
「そうじゃろう。魔法の水は美味しいし安全じゃから、貴族は飲み物にも料理にもみんなこれを使うんじゃよ」
ますます貴族が羨ましい……
「じゃあ最後は水洗トイレじゃな」
トイレは一階の廊下にあったドアの一つだった。
トイレのドアを開けてまず驚いたのは、和式じゃなくて洋式トイレだったことだ。
そして、日本のトイレでは手を洗う場所の真ん中に、魔石を嵌め込むところがあった。
魔石を十秒ほど嵌め込んで、流れたらまた外すのだそうだ。
少し日本に比べると不便さはあるがそんなことは気にならない。
なんせ俺の家はボットン便所だからな。あれは匂いがきついし落ちそうで怖いし嫌いだ。
マルセルさんと俺は作業場に戻ってきて、椅子に座り一息ついた。
「それで魔法具はどうじゃった?」
「すごく便利で素晴らしいと思いました!」
「それは良かったわい」
マルセルさんは魔法具を褒められたことが嬉しいのか顔を少し緩めている。本当に魔法具が好きなんだな。
魔法具は本当に凄かった。この世界にはないと諦めてたものばかりだった。だけど、見ているうちに何個か疑問が湧いてきたんだ。
まずは魔法具と魔法はどちらの方が効率がいいのか。例えば送風機で風を送るのと、風魔法を使える人が風を送るのはどちらの方が魔力を使うのだろうと思った。
また、自分の持っている属性の魔法しか魔石に注げないってことは、自分の持ってる属性の魔法具しか作れないんじゃないかって思ったんだ。
これらの疑問をマルセルさんに聞いてみた。
「まずは効率の話じゃが、これは魔法具の方が圧倒的に高い。少ない魔力で長期間使うことができるのが魔法具の一番の利点じゃ。また、自分の属性しか作れないのは基本的にはそうじゃな。しかし、他の属性のやつに魔法を注いで貰えば他の属性の魔法具も作れるぞ。実際工房ではよく行われていたわい」
「そうなんですね。じゃあもし魔石の魔力が切れたらどうするんですか?」
「それはその属性持ちに魔力を入れてもらうんじゃよ。基本的に魔法具を使うのは貴族で、貴族は家に使用人がいるから誰かしらがその属性を持ってるものじゃ。またその属性を持ってる人がいなくても、魔法具工房にお金を払えば魔力の補充をしてくれるんじゃ」
そーなのか…………少しめんどくさい性能なんだなぁ。まあ、しょうがないよな。
とりあえず魔法具がどんなものか分かったから、これから魔法具にできそうな機械を考えよう!
「マルセルさん、説明してくれた四つの魔法具の他に魔法具はないんですか?」
「失敗作なら多数あるが、日常で使われているのはこれだけじゃ」
え!? この四つだけ!? 少なくないか……?
「結構少ないんですね……」
「魔法具はまだ作られ始めて数十年じゃ。その中で成功してないものも多々あってな」
そーなのか……今頭に思い浮かんでるものだけでも何個もあるぞ……! これはお金になるかもしれない!!
「マルセルさん今何個か思いついたんですけど、少し頭の中でまとめたらアイデアを聞いてもらえますか?」
「もう思い浮かんだのか!? まあ聞くだけならいいじゃろう」
「ちょっと待っててください」
そう言って俺は、頭の中で魔法具にできそうな機械を思い浮かべた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます