第8話 魔法具工房
「それでじゃ、お主は魔法具に興味があるんじゃったか?」
「そうです!」
やばい、色々ありすぎて本題を忘れるところだった。
「そもそもなんですけど、魔法具って何ですか? 一度も見たことないんですけど……」
「それは当たり前じゃ。魔法具は貴族にしか出回っていないからな」
「何でですか?」
「高いからじゃよ。平民が一生かかってもとても買えるような値段ではない」
「そんなにですか……?」
「ああ、原料も貴重なものだからのう。安くなることはないな。平民に魔法具が出回るようになるのは難しいじゃろう」
そんな……せっかく便利なものが見つかったと思ったのに……俺は期待が大きかっただけに絶望感を感じていた。
貴重な原料ってなんなんだろう? それが手に入ればなんとか魔法具を作れるか…………?
「原料って何ですか?」
「原料は魔石と魔鉄じゃ」
「魔石と魔鉄……? 何ですかそれ?」
「魔石は透明な宝石みたいなものでな、魔力を流し込むとその流し込んだ魔力の魔法を発現させられるものじゃ。魔鉄は、魔力を流すと自由に変化させられる鉄のことじゃ。魔鉄で形を作って魔石をはめ込んで作るのが魔法具と呼ばれている」
それって、電池と鉄みたいなものか……? やっぱり機械みたいなのがあるのか! 欲しい……!
「その魔石と魔鉄はどこで手に入るんですか……!?」
俺は興奮してそう聞いたが、その答えに一気にテンションが下がった。
「魔石と魔鉄が採れる鉱山は、すべて国営で国が買い取ってるから手に入らんよ。魔法具もそのまま国営の工房で作っとるからな」
なんと……それじゃあ絶対に手に入らないじゃないか! なんとかして手に入れる方法はないのか……
砂糖もだが魔法具まで貴族が独占してるなんて!
あれ? でもここって魔法具工房なんだよな? 国営のはずなのになんでこんなところにあるんだ?
「お爺さん、この魔法具工房はなんでここにあるんですか? 国営の工房で造られるんじゃ……?」
「ああ、この工房は特別じゃ。わしは最近まで国営の工房で働いてたんだが歳をとってやめてな、普通はそのまま隠居するんじゃが、わしは魔法具を作り続けたいと思ってな。この工房を始めたんだ」
「そんなに簡単に工房を始められるんですか?」
「普通は無理じゃな。わしの昔の発明が功績となって爵位がもらえる予定じゃったんだが、その爵位の代わりとして自分の魔法具工房をやることを許可されたんじゃよ。最近は自由気ままに新しい魔法具を考えてはそれを売ってるんじゃ」
「そうだったんですね……じゃあ、他には国営じゃない工房はないってことですか?」
「ないと思うぞ。そうそう認められないじゃろうし、引退してからも魔法具を作りたいやつなんてあんまりいないからのぉ。工房の給金は良いからお金には困らんからな」
ということは国営じゃない魔法具工房はここだけってことか? これはめちゃくちゃラッキーだ! ここに来なければ魔法具の存在を知ることもできなかったんだからな。
ここで作ってる魔法具はお金さえ払えば売ってもらえるんだろうか……?
「お爺さん、もし俺が魔法具を買えるだけのお金があったら売ってもらえるんですか?」
「いや、売ることはできない。この工房を開く条件は、すべての魔法具を国営の工房に売ることじゃからな。貴重な原料を無駄にしてないかを確認するためじゃろうな」
そうか……原料も流出しないように、お爺さんに売った量と買い取った量で確認してるってことか……
じゃあ魔法具を手に入れることは不可能ってことか? 貴族になるのは無理だろうし……
せっかく便利なものを見つけたのに…………諦めるなんてできない!
俺はおじいさんに素直に聞いてみることにした。
「お爺さん、俺は食堂の息子でただの平民ですが、魔法具を手に入れる方法はありますか?」
「そうじゃのぉ。難しいと思うが王立学校に行けば可能性はあるかもしれんな。それに王立学校を卒業すると役人になれるんじゃが、王城の役人寮は魔法具が使われとるぞ」
王立学校!! この世界に学校なんてあったんだな。
でもそこに行けば魔法具を使った快適な生活を手に入れられる可能性があるってことだよな。なら俺は王立学校を目指す!!
でも平民がいけるのか?
「そこって平民でも行けるんですか?」
「一応誰でも受験できるから受かれば入学できるぞ」
「お金とかは……?」
「授業料と教材費は無料じゃ。だが、貴族ばかりだから付き合いに金がかかるじゃろうし、服も良いものを着なければ周りから浮く。あと学校は中心街にあるから、その近くで暮らすお金もかかるじゃろう」
授業料と教材費がかからないのは良いが、その他にかなりお金がかかりそうだ……
やっぱり金策を考えなくてはいけないな……
「受験って難しいんですか?」
「貴族の子が小さい頃から勉強して受ける試験だからのぉ。平民はほとんど受からないぞ。平民で受かるのは豪商の子くらいじゃな」
「学校って何歳から行くんでしょうか?」
「学校は十歳から十五歳までの5年間じゃ。お主は何歳じゃ?」
「今年八歳になりました」
「じゃあ、あと二年弱くらいじゃな。試験は冬の終わりで、春から学校じゃ」
あと二年あるなら勉強すればいけるはず……俺の頭は大学生なんだからな!
あとはどうやって勉強するかだが……
「お爺さんに勉強を教えてもらうことってできますか?」
「わしはもう忘れてることも多くて教えられんよ。教材もないし、実家との仲はあまり良くなくてな」
「そうですか……」
既につまづいた……俺の頭なら算数とかなら大丈夫だろうけど、歴史とかは一切わからないし……
とりあえず勉強については後で考えよう。おじいさんを困らせてもしょうがないしな。
「じゃあ勉強については自分で考えてみます。それでお金のことなんですけど……」
俺は一つの金策を思いついていた。お爺さんは魔法具を考えてると言っていた。ということは注文を受けて作っているのではなく、新しいものを発明してるということだ。
それなら俺の知識を売ればお金になるんじゃないかと思ったのだ。
「俺が考えた魔法具が良いと思ったらそのアイデアを買ってくれませんか?」
「お主が考えた魔法具を? 魔法具を見たこともないお主がどうして思いつくのじゃ?」
「そこは…………秘密です。ダメですか?」
俺はこれがダメだったらまた一から考えないといけない、なんとかお爺さんに受け入れてほしいと願いながら返事を待った。
そしてしばらく経ってからお爺さんは答えた。
「まあ、いいじゃろう。ただしお主が考えたことにはできんから、わしが考えたことになってしまうぞ? それでもいいのか? 使用料もわしに入ることになる」
「それは全然良いです。使用料って何ですか?」
「ああ、説明してなかったな。魔法具は最初に発明した人に優先的に作る権利が与えられる。しかし他の人もそのアイデアを使う使用料を払えばその魔法具を作れるのじゃ。これは王宮に登録するからしっかりとした制度で、後からの変更はできんぞ」
なるほど……特許のようなものか。本音を言えば俺の名前で登録したいが、そんなことできないからしょうがないよな。
「それでも良いです。ただし、使用料も考えて俺のアイデアを買ってくださいね」
「ふん、良いアイデアじゃったらな」
「良いのを考えますよ。本当はこれから今ある魔法具について聞きたかったんですけど、ここに来てかなり時間が経ってるので、また今度来たら既存の魔法具について教えてもらえますか?」
「ああ、わしはいつでもここにおるからいつでも来ると良い」
「ありがとうございます! 絶対また来ます! あ、お爺さん名前を聞いても良いですか? 俺はレオンです!」
「わしはマルセルじゃ」
「じゃあまた来ます!」
俺はそう言って工房を出て、家に向かって駆け出した。これからの展望が少し見えて、足取りはかなり軽くなっていた。
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