第5話 砂糖のありか

「「ただいまー!」」


 まずはニコラとルークの家に来た。マリーがおじさんにどうしても会いたがったからだ。


「おかえりなさい。マリーちゃんとレオンも来たの?」

「マリーがおじさんに会いたいって言ってて」


 俺は苦笑しながら答えた。


「会いたいの! おじさんいる??」


 マリーが待ち切れないかのようにソワソワとしている。


「ちょっと待ってて、今呼ぶわね」


 おばさんは椅子から立ち上がり、ドアを開けてお店の奥に呼びかけた。


「ベン〜! マリーちゃんとレオンが来てるわよ」


 おばさんがそう呼びかけると、お店の奥からドタドタと足音が聞こえてガタイの良いおじさんが現れた。

 しかしおじさんと言ってもまだ若いが……この世界は結婚が早いのか子供がいても親がみんな二十代だ。


「マリー来たのか!? おー! お前はいつでも可愛いなぁ」


 おじさんはそう言ってマリーを抱き上げた。マリーはキャッキャッと嬉しそうに笑っている。

 マリーは軽々と高く抱き上げてくれることが嬉しいようだ。確かに俺たちの父さんは背も高くないしガタイも良くないからな……がんばれ父さん。俺は密かに父さんを応援した。


「レオンも来たのか! よしよし、順調にでかくなってるな」


 おじさんはマリーを抱き上げたまま俺のところに来ると、俺の頭をガシガシとかき混ぜた。


「おじさん! 頭がぐしゃぐしゃになるよ!」

「そんなことは気にするな! 男だろう?」


 いや、男だから気にしないって意味わかんないし……でもこんな豪快なところも人に好かれるところなんだろうな。ずっと笑顔で目はとても優しく俺たちを見ている。

 マリーがおじさんを好きな理由がわかった気がした。マリーは人を見る目があるな。

 でもだからといって安心できない。俺がマリーに近づく男は警戒しなければ……! 

 マリーを守る決意を新たに気合を入れていると、マリーは既に下ろされていて、もう帰ろうとしていた。

 早いな! マリー、お兄ちゃんを置いていかないでくれよ。そう思いながら俺も急いでマリーを追いかけた。


「おじさん、おばさんまた来るね。ニコラとルークもまたな」

「うん、またね」


「マリーちょっと待って! お兄ちゃんを置いてかないでよ」


 そう言うとマリーは家のドアの前で立ち止まり、俺をジト目で見てきた。


「だってお兄ちゃん最近ぼーっとしてるんだもん。話しかけても聞いてないこと多いでしょ」


 マリーは俺をジーッと見てくる。や、やばいな。俺がいろいろ考え込んでいるのに気付かれてたか?? でも俺がレオンじゃないことは気付かれてないはず……まだ大丈夫だよな……


「そんなことないよ! ちゃんと聞いてるよ。ちょっとぼーっとしちゃうことが多いだけ! これからは気をつけるから」


 俺が慌ててそう言い訳をしていると、マリーはしばらく俺の顔をジーッと見てから言った。


「それならいいけど……ちゃんと話聞いてよね」

「うん! ちゃんと聞くよ。ごめんね」

「まあいいよ、家入るよ?」

「そうだな」


 マリーはドアを開けて家の中に入っていった。俺はホッと安堵の息を吐いてマリーに続いて家に入った。これからはもっと気をつけないとだな。


「「ただいまー!」」

「あら、帰ってきたの? おかえりなさい」

「どうだった? 果物は採れたかい?」


 父さんと母さんは厨房にいるようだが、カウンターから顔を出してくれている。

 マリーは食堂のカウンターにある椅子によじ登り、麻袋を開けて中を見せた。


「母さん父さん見て! こんなに採ったんだよ!」

「あら、木苺じゃない。本当に沢山ね。凄いわマリー」

「本当だ。これだけあればいっぱい食べられるな。夜ご飯の後にみんなで食べようか?」

「うん! 楽しみ!」


 マリーは父さんが出してくれた大きめの木の器に木苺を移している。すごく笑顔で嬉しそうだ。よっぽど木苺が好きなんだな。

 俺はもう少し甘くして食べたい……砂糖があればジャムにするのに……

 母さんに砂糖のこと聞いてみるか。


「母さん、甘い調味料ってないの?」

「甘い調味料?? どうして?」

「えっと……そう! 甘い調味料があればもっと木苺が甘くなるのにって思ったから」


 不自然じゃないよな……? どうか砂糖あってくれ!


「そうねぇ。蜂蜜とか砂糖とかかしら」

「砂糖あるの!?」

「レオン、砂糖のこと知ってるの?」

「い、いや、たまたま聞いたんだ。砂糖って甘い調味料があるって」

「そうなの。でも砂糖も蜂蜜もこの辺では売ってないわね」

「え!? どうして?」

「平民は甘いものにお金をかけられるほど裕福じゃないから、砂糖や蜂蜜は売れないのよ。他の調味料より高いし」


 そんな……でも砂糖はあるってことだよな! この世界にないわけじゃない。あとはどうやって手に入れるかだ!


「じゃあどこに売ってるの?」

「王都の中心街になら売ってると思うわ」

「王都の中心街?」

「そうよ。ここは王都の西の外れなの。中心街は王様がいて貴族様たちが住んでるところよ。高級なお店がいっぱいあるからそこなら売ってるわ」


 やっぱりいるのか、王様と貴族……! もしかして貴族じゃないと甘いもの食べられないとか……?


「じゃあそこに行ったら買える?」

「多分買えないわ。中心街にあるお店は貴族とその関係者しか入れない店も多いそうよ。それに入れたとしてもすごく高いから買えないわ」

「そうなんだ……」

「それに、中心街は遠いわよ。乗合馬車で2時間以上はかかるわ」

「そっか…………じゃあ……諦めるよ」

「それがいいわね。レオンはもう八歳だから教えとくけど、貴族様に目をつけられたら大変よ。この辺に来ることはないから大丈夫だと思うけど、失礼なことをしてはいけないわ。良い貴族様もいるけど、理不尽な貴族様もいるからね」


 貴族怖い……できる限り近づきたくないな。でも砂糖は貴族のところにあるなんて!

 これは他の売ってる場所を見つけた方が良さそうだな。


「母さんありがとう! 甘い調味料は諦める! 木苺そのままでも美味しいからね」


 俺はそう言いながらにっこりと笑って、母さんを安心させた。さっきから母さんが怖い顔になっていたのだ。

 そうすると、母さんはふっと顔を緩ませて言った。


「じゃあ夜ご飯の後は木苺を食べましょう!」

「うん!」


 しかし、あの木苺を食べるのは辛い……なんとか砂糖なしで美味しくする方法はないか……

 何がいいだろう………………フレンチトーストに掛けるとか? パンケーキに混ぜ込むとか!

 パンケーキに混ぜ込むのいいかもしれない!そう思いついて、俺は早速母さんに厨房を使って良いか聞いた。


「母さん! 俺、木苺を使った料理考えたんだ。厨房を使ってもいい?」

「レオン本当に? 料理なんてしたことないのに……」


 料理をしたことないのにレシピ考えたのは不自然だったか……? でも絶対作ってみたい、あれは酸っぱすぎる。


「母さんと父さんが料理してるとこ見てたからだよ」


 そう言って無邪気な目で母さんを見つめると、母さんはふっと笑って頭を撫でてくれた。


「じゃあ、作ってもらおうかしら」

「レオンが料理をするのか? 父さん楽しみだな」


 父さんも笑顔で楽しみにしてくれている。これは頑張らないと!


「じゃあ、レオンが料理できるスペースを空けとくから、先に荷物を片付けて手を洗ってきなさい」

「うん!」

「マリーもレオンと一緒に荷物片付けてきなさい」

「わかった! お兄ちゃんが料理するの? 楽しみ!」


 マリーが無邪気に楽しみにしてくれている。これはプレッシャーになってきたな……美味しくできてくれるといいんだけど。


 マリーと一緒に二階の物置部屋に来て、荷物を置いた。籠を下ろした時、薪のことを忘れていたことに気づいた。薪は厨房に持っていったほうがいいだろうから、また下に持っていかないとだな。


「マリー薪のこと忘れてたね。下に持ってこうか」

「うん! お小遣いもらわないと!」


 マリーは木苺からお小遣いに意識が逸れたみたいだ。お小遣いで何を買おうか今から迷っている。


「じゃあ下に行こう」


 マリーと薪を籠のまま持って下に降りていくと、母さんがちょうど厨房から出てきたところだった。


「母さん、薪も拾ってきたんだ」

「あらそうなの、ありがとう。厨房の薪置き場に置いてきてくれる?」

「「はーい!」」


 俺とマリーは厨房に入り、厨房の端にある薪置き場に枝を積み上げた。


「薪も拾ってきてくれたのか、ありがとな」

「うん! 私いっぱい拾ったよ!」

「マリーは偉いなぁ」


 父さんは得意げなマリーの頭を優しく撫でている。


「じゃあ籠を置いて手を洗ってくるね」

「私も!」


 俺たちは二階に籠を置きに戻り、中庭に行くためにリビングに入るとそこには母さんが待っていた。


「二人とも薪を持ってきてくれたお小遣いよ」

「やった〜! ありがと!」

「母さんありがとう」

「いいのよ、屋台で何か買いなさい」

「「うん!」」


 俺とマリーは自分の木箱の中にお金を入れた。

 リビングには四つ小さな木箱があり、自分の大切なものを入れる箱にしているのだ。

 お金を仕舞ったら、俺とマリーは中庭に行き井戸の水を汲んで手を洗った。

 マリーはこの後リビングで少し休むようだ。俺はパンケーキを作らないと! 頑張ろう!


「じゃあ俺は厨房に行くからね」

「うん! お兄ちゃん美味しいご飯作ってね!」

「わかったよ。頑張ってくるね」


 そう言って俺は厨房に向かった。

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