第6話 友人と腐れ縁の遭遇
一生懸命勉強をしている周りの空気に押されるようにテスト勉強をしていると、朝のホームルームの時間が始まり、カンニングしてはダメだとか、筆記用具を落としたら自分で拾わずに先生に知らせるだとか、今までのテストでも聞いたことのあるような文言を先生が言う。まあ、もう聞き飽きた注意事項だけど、これを聞くとああ、今からテストかぁという気分になる。そんなお決まりの文言を読み上げている浅見先生はいつもニコニコと元気な顔をしている熱血教師だ。今日も心の底から楽しいです、というようなニコニコ顔で、
「よーし、今日はテストだな。無理せずにベストを尽くそうな!」
と無邪気な顔で笑った。もう見るからに熱血だ。着古した様子の黒っぽいジャージ、首から下がるストップウォッチ、服を着ていてもわかる筋肉のついた身体、短く刈り込んだ黒髪、そして何よりどんな時でも「頑張ろうな」の熱血精神。まぁ、熱血教師というのは往々にして煙たがられることの多いイメージだが、浅見先生はなんだかほっとけない感じというか、むしろ生徒に面倒を見られがちな先生だ。今日も生徒に、
「はいはい、頑張るよー。」
とか、
「先生、興奮しすぎ。」
とか宥められている。浅見先生は懐っこくて大型犬みたいな感じがするから、自分たちが生徒というよりもなんだか飼い主のように感じているのかもしれない。テストの注意事項、今日のお知らせなどが読み上げられて、ホームルームの終わりの時間になった。
「起立。」
委員長が低く芯のある声で終わりのあいさつをする。私は彼女の声が好きだ。別に話したこともないしそんなに関わりはないが、号令をかけるのが彼女でよかったと思う。
「礼。ありがとうございました。」
「ありがとうございました。」
一科目目のテストまではあと20分。トイレに行ったり、最後にもう一度見ておこうと教科書を開くものなどめいめい自由に過ごし始めた。私も一科目目の社会に向けて最後の見直しでもしておこうと思い教科書とまとめノートを開く。周りをちらりと見ると志貴も雅も弓弦も勉強していた。自分もやらなきゃな、と思いながら教科書を読み進め、まとめノートで確認する。あー、退屈だなぁと思いはしたものの特にやることもない。引き続きまとめノートを読み返しながら、一応内容をもう一度頭に叩き込んだ。
「始め。」
一時間目の担当テスト監督の合図が静かな教室に響いた。その瞬間、みんなが一斉にシャーペンを持つガタ、という音がして、その後はカリカリとペンを走らせる音だけがする。
私も愛用している細身の製図用シャーペンの芯を出そうと思って、カチカチと上の部分を押した。ところが何度カチカチしても芯が出る様子はない。仕方ないので、カチカチカチカチカチと連打していると、ようやく黒い芯が見えた。全く心配させやがって。
回答用紙に名前とクラスなどを記入して、問題用紙を開く。私がこれらの作業をしている時点で周りの彼らは問題の答えを記入し始めているわけだから彼らが優秀なのか、私が遅いのか。今回の社会の試験範囲は地理だ。志貴が特に苦手としている範囲でもある。因みに私は別に苦手ではない。得意な教科も苦手な教科もないオールラウンダータイプなのだ。無個性とも取れるが。
主観的には、多分客観的にも私はかなりサラサラと解答用紙をうめられていることだろうと思う。勉強が不得意というわけではないので、さほど試験というものに苦手意識もない。
初めは無心で問題を読んで解答を書いていたのが、だんだんつまらなくなってきたので、問題を一行だけ読んで、添付されている図があればそれを見て、それだけで問題の内容を予想し、解答してから問題を読むという謎ゲーを始めた。まぁ、全知全能でも預言者でも、問題の作成者でもないので、流石に全部が全部は当たらなかった。
そんなふざけたゲームをしていても試験時間60分のうち20分が残ってしまった。みんなのシャーペンが紙の上を滑る音を聞きながら解答用紙に書かれた答案を綺麗に書き直したり、見直しの二周目をしたり、自己採点ができるように問題用紙にも自分の解答を記入したりしていた。
そんなこんなでようやく時間は10分過ぎて、残りが10分になった。もうここからはほとんど耐久のようなものだ。前にかけられたアナログの時計の秒針が動くのを見つめる。あと300秒で終わる。
こんな時間が後四教科分続くんだなぁ、と思いながら、
「やめ。」
という試験監督の声に従って手を膝の上に置いた。後ろの人が出席番号順になるように解答用紙を集めて前に渡す。それを試験監督が受け取り、人数分あることを確認して、一教科目の社会が終わった。
二教科めの国語、三教科めの理科も大して社会と変わらなかった。ただし国語に関しては記述の量がすごく多くて、文章を書くことに多少時間を要したがそのくらいだ。古文やら現代文やら普通は分かれていそうなものも全部国語としてまとめられていたので、分量が半端なかった。理科も化学やら物理やら、色々だった。
まぁ、兎にも角にもテスト五科目のうちの半分以上が終わって今日はもう帰ってもいいことになった。それじゃあさっさと帰ろうと思い、志貴や雅、弓弦の方を見るともう既に帰る用意は終わっていた。残念ながら風花はまだテストを受けているだろうから帰れない。
じゃ、4人で帰ろっかと教室の外に出たら、通学用のリュックを背負って、短めのスカートの下にジャージの長ズボン、ブレザーのボタンはいつも開いている。副会長のくせにバリバリ校則違反な格好をした七緒が、そこに突っ立っていた。七緒は軽く手をあげて、
「や、ボクも一緒してもいーい?」と緩い口調で問いかけてきた。彼女のこの緩さでどうして副会長が務まっているのかと思いながら、
「だって。いーい?」
と私が問いかけるとみんな笑って頷いたので、七緒も混ぜた少々イレギュラーな5人で帰った。みんな七緒と話したことがないわけではないので、彼女のノリにもまあまあ慣れている。
七緒と帰るのも何日かぶりだったので、丁度よかった、と思った。イレギュラーなメンバーもたまには悪くない。
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