47:悪役令嬢と主君の責任

 最後に見えたライルはいつもと同じ優しい微笑みを浮かべていた。


 どんなに手を伸ばしても届かない。どうして……。

 


「ライルーーーーっ」

















「セリィナ、目が覚めたのね?!」


「よかった!何日も目を覚まさないから、どれだけ心配したか……!」


 伸ばした手が宙を彷徨うと同時に目が覚める。私の左右にはそれぞれ同じ顔……お姉様たちがいて私を抱きしめてきた。


「……お姉様たち……?ここは……。そ、うだ……ライルがーーーーっ!」


「落ち着いて、セリィナ!」


「そうよ!あなたケガもしてるし、まずは自分の事を……」


「私の事なんてどうでもいい!」


 私の事を心配してくれてるからこその言葉だとはわかってるのに、抱きしめてくる手が煩わしく感じて思わずそれを振り払ってしまった。


「だって、ライルが……!赤かったの!血が……!私を庇って、逃がすために……きっと刺されたんだわ!いっぱい赤くて……どうしよう、ライルが、ライルがぁ……!!」


 ぱしぃっ!


「!」


「ローゼ姉さま?!」


 取り乱して叫ぶ私の頬を打ったのは、ローゼお姉様の右手だった。


 初めての衝撃に思わず言葉を失う。そしてそう言えばあれ程いつか殺されると怯えていたのに、あの頃に手を上げられた事なんかなかったな。なんて、そんな事を呆然と考えていた。


 お姉様たちはいつも私を大切に想ってくれている。それは全てを打ち明けてから嫌になるほど感じていたから、この頬を打つ手が震えているのにもすぐに気がついた。


「……ローゼお姉様…………」


「しっかりしなさい!ライルが誰を助けるためにそんな事になっているかわかっているの?!


 ……全部、セリィナを守る為でしょう!?セリィナの為にライルは命を投げ捨てる覚悟でそんな事になったのに、そのセリィナが取り乱してどうするの?!」


 厳しい表情で私を見るローゼお姉様の瞳から一筋の涙が流れた。


「ーーーーあなたに何かあったら、ライルのした事は全て無駄になってしまうのよ?ライルを大切に想うなら、まずは自分を大切にしなさい!」


 ……そう言われて、初めて体の節々が痛いと悲鳴を上げる。そうか、私の体も限界だったんだ。


「……お姉様…………っ。でも、じゃあ、どうしたらいいの……。私、私ーーーーっ」


 溢れる涙が止まらなくなり、嗚咽で言葉が上手く発せない。ただ、ライルの事が心配で仕方がなかった。


「……セリィナ」


 突然のローゼお姉様の行動に狼狽えていたマリーお姉様がそっと私の手を握ってきた。


「……マ、マリーお姉様…………」


「落ち着いて聞きなさい。ライルの主君たる者として……。


 ライルはーーーー」





















「ーーーーライルが?」



 私は、私が眠っていた数日の間に何があったのかを聞く事になった。




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