31:恐ろし過ぎる男(国王視点)

「……あぁ、やはり赤色とはこの世で最も美しい色だな」


 ユイバール国のルネス国王はうっとりとした顔でそう呟いた。


「はは……ルネス王は変わったご趣味でいらっしゃる」


 自分の息子を助け出して欲しい。と、願い出ていたルネス国王が早々とこの国へやって来て数日。王宮は常にピリピリとした空気が漂っていた。


 最初はブレークスは下心が隠しきれない顔でルネス国王を迎え入れた。公爵家が隠しているというルネス国王の御落胤。その人物さえ手に入れればこの恐ろしい男も自分の思うがまま。そんな妄想に囚われていたが、幸せな妄想など続くはずもなかったのだ。


 まさか、愛する息子が真っ先にこの男の毒牙にかかることになるなんて……。


 ルネス国王は真っ赤に染まった自身の手を嬉しそうに見せてきた。


「どうだ、ブレークス王。貴殿のご子息の血はなかなか美しい赤だ。さっさと殺そうかと思ったが、こんなに美しい赤色が見られて俺はだいぶ機嫌が良いぞ」


「は、ははは……。お褒めに預かり息子も光栄でございます」


 声が震える。そう、ルネス国王の手を染めているのはミシェル王子の血であった。重症ではないにしろ、自国の王子であり我が子が傷つけられたのにブレークス国王は自身を護るためにひきつる顔を無理矢理笑顔にしていた。


 逆らえば、次は自分がやられる。それは自衛本能なのかもしれない。


「俺も驚いたんだ。まさか、挨拶しようと部屋に入ったら顔を見るなりわけのわからないことを叫びながら襲いかかってきたからな。、反撃してしまった。申し訳なかったな。……だが、許してくれるだろう?」


「も、もちろんです。息子の愚行を許して頂きありがとうございます」


 にっこりと意味深な笑顔でルネス国王にそう言われれば頷くしかない。なによりも即刻殺されていてもおかしくない状況で命があっただけ儲けものというものだ。


「俺は心が広いんだ。だがーーーー次はないぞ」


 ゾクリ。と悪寒が走る。


 美しい笑顔だが、それが尚更恐ろしい。次は本気で殺しにくるだろう。それも、残酷な方法で。今回ミシェルの命が助かったのは今後の牽制のためだ。逆らったら国がどうなるか、それを知らしめたのだ。


「あ、あの……」


「では、早く我が国の後継者を見つけ出してくれ。でないと……暴走しそうだ」



 ルネス国王の笑みは、とんでもなく恐ろしく感じた。

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