29:悪役令嬢と1週間

 あれから1週間……相変わらず私はライルから逃げまくっていた。


 ライルへの告白に失敗したあの後、やたら俊敏な動きでやって来たお姉様たちが相談に乗ってくれると言うので思いきって打ち明けてみたのだが……。



「じ、実は……ライルに告白しようと思っているけど上手くいかなくて……。ライルに私のこと、好きになってもらうにはどうしたらいいでしょうか……?」


 妖艶に誘惑作戦は根本的に私には無理だと悟り、ここはその辺に強そうなお姉様たちの意見を聞くことにしたのだ。だが内容が内容だけに恥ずかしくてもじもじしながらそう言うと、なぜかお姉様たちが震えて出してしまった。


「か、可愛い……もじもじしているセリィナ可愛いわ……!まさに天使!」


「おのれライル……!セリィナに告白されるなんて、なんて贅沢なの……!羨ましい!」


「でも、なにも伝わってなかったのね……。いくら“おねぇ”だからってあれだけオーラ出してるのに。でも鈍感なセリィナも可愛いわ……!」


「そう思うと、ちょっと憐れですわね……。さすがにわたくしたちですらわかりましたのに……と言うかセリィナ以外はみんな知ってると思いますわ。まぁ、そんなところがまた可愛いのですけど……!」


 なんだろう、小刻みに震えながら小声でなにか言っているけどよく聞こえないわ。


「お姉様?」


 どうしたんだろう?と、こてりと首を傾げて見るが、お姉様たちの震えはさらに激しくなり止まらなかった。どうしたのかしら……?


「そ、そうねぇ。ライルの方が歳上だし、セリィナも少し大人っぽくしてみたらいいんじゃないかしら?(そんなことしなくても絶対にセリィナの事を好きなはずだけど)」


「それに贈り物をしてみてもいいと思うわよ。心のこもった贈り物で相手にアピールするの。例えば手作りの物とか(例え道端の石コロでも、セリィナから貰えれば喜ぶと思うけど)」


 お姉様たちからの各提案に頭を悩ませる。


「贈り物……大人っぽく変身……」


 確かにライルは歳上で大人だし、格好よくて色っぽい。それに比べて(年齢差は仕方ないにしても)私はどう見てもお子さまだわ。


「ありがとうございます、ローズお姉様マリーお姉様!私、大人っぽくなってライルの心を掴めるような贈り物をしてみます!」


「あぁ、決意に満ち溢れたセリィナもこれまた可愛いわ!」


「大人っぽいコーディネートならわたくしたちにまかせてちょうだいね!」


 そして考えた結果、贈り物はハンカチにライルの名前を刺繍してプレゼントすることにしたのだ。お姉様たちは裁縫は苦手と言うことで、侍女のマーサに協力をしてもらうことにした。もちろんライルには内緒だからさらに逃げる羽目になったわけで……。







「セリィナさ「ごめん、ライル!ちょっとマーサに用事があるのぉ!」え、あ、え?」


「あの、セリィ「今日はお姉様たちと出掛けるから!ライルはついてこないで!」わ、わかったわ」


「セ「今はダメなの!」……」







 あ、ヤバイ。恥ずかしさと刺繍がうまく出来ないのに焦ってライルとまともに会話すらしてない気がする。

 でもあと少しでハンカチの刺繍は完成するし、お姉様たちとも相談して大人っぽいコーディネートも完成した。


 今までの行為を思い起こせば恥ずかしすぎて身悶えしそうだが、意識してしまった以上はしょうがない。


 今度こそ、ライルに告白します!






 その時の私はわかっていなかったのだ。その1週間がどれほど貴重だったのかなんて。


 ライルが、私の手の届かないところへ行ってしまうことになるなんて……。

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