28:王の打算(国王視点)

 セリィナ公爵令嬢の断罪劇が失敗に終わり、ミシェル王子が軟禁されフィリアが牢に入れられたと聞いて震え上がる者たちが数名いた。


 セリィナの断罪劇に少なからず手を貸した者たちだ。


 それぞれがフィリアに下心を持つものの、王子には勝てないと諦めたが……この断罪が上手くいけばそれなりに甘い汁が啜れると約束されていたのだ。


 だが、その断罪は間違っていた。


 アバーライン公爵家にいい感情を抱いていない国王ですら「あれはさすがに庇いようがない」と甘やかして育てていたミシェル王子に罰を下したのだ。ほとんどの罪をフィリアに押し付けた感は否めないが王子も罰を受けているとあの断罪劇を目撃した者たちに示さなければ王族の面目は丸潰れだった。




 ***





 この国の現国王であるブレーグスは深いため息をついた。


「ミシェルのやつ、とんでもない事をしてくれた……」


 この問題に一緒に悩んで欲しい王妃は隣にいない。まさか息子があんなことをしでかすなんて夢にも思っておらず、あのあとからずっと寝込んでいる。それほどにショックを受けていた。


 ブレーグスがアバーライン公爵家を毛嫌いしているのはアバーライン公爵自身も察しているだろうが、あの公爵家はとても優秀だ。噂以上の手出しをさせないためにも公爵は牽制も込めてこの国の下地をしっかりと支えてくれていた。それは全てセリィナ嬢を守るためのことだわかっている。だからこそ、嫌がらせのような事はしても面だって手出しはしないでいたのだ。


 それなのに今回はその公爵が最も大切にしているセリィナ嬢をあんな場で断罪するなんて失態をおかしてしまった。しかもとんでもない冤罪だ。一応ミシェル王子に罰を下したと知らせた後は何も言ってこないが反応がないのはそれはそれで恐ろしかった。


 そんな時、ユイバール国から使者がやって来たのだ。


「なんと、これは……」


 あの国は閉鎖的でほとんど交流はないが、今代の王であるルネス国王はかなり血の狂った恐ろしい男だと噂を聞く。特に自分たちとは違う肌の色やあの赤い髪がなんとも不気味だった。


 そんなルネス国王から直々に文書が届いたのだ。正式に訪問したいと言う内容でこれからは国同士の交流を深めたいという理由にも驚いた。


 正直に言えばうまい話だと思った。あの国は閉鎖的ではあるがかなりの力を持っている。他の国もなんとか探りを入れたいと模索しているが全て拒否されていたのに、そのユイバール国から打診があったのだ。この事実は他の国からも一目置かれる事になるだろう。


“運が向いてきた”


 ミシェル王子がとんでもない失態を犯したせいで公爵を始め他の上位貴族からの信頼も揺らいでいる今、あのユイバール国と懇意になれるのは王としての信頼回復の切り札になるはずだ。


 あの恐ろしい王の心を掴んだ男になれるーーーー。


 そして手紙の続きを読み、ニヤリと口を歪めた。


 なんと、公爵家がルネス国王の御落胤を隠していると言うではないか。

 ルネス国王から公爵にその者を返して欲しいと打診したが返事がなく、悪巧みに巻き込まれて人質にされている可能性があるのでそちらの王家で保護して欲しいとのこと。無事に保護してくれればユイバール国の王太子を救ってくれたとして今後はとても良い友好関係が築けるはずだ。と書かれていた。


 ブレーグスは脳内で未来をイメージし、自分はなんて幸運なのかと笑いが止まらなくなった。


 これを上手く利用すれば、気に入らない公爵家に頭を下げることも可愛い我が子に罰を与える必要なもなくなるはずだ。と。

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