第14話 娼館
「ベティ、約束通り遊びにきました」
「あら、意外と早く来てくれたじゃない。来る来る詐欺かと思ってた」
「心外ですね、ボクはわりと約束守りますよ」
「そうだっけ?」
夕暮れ近く、表通りの娼館。
あまり仕事の邪魔をしてはいけないので、開店早々に伺いました。指名料込みで大銀貨5枚。安くはないけど、これも恩返しの一部ということで。さすがに延長はできません。初めてなので作法なんかもわかりませんが、まあどうにかなるでしょう。ベティに会うだけだし。
通された部屋は一面真っ赤な内装、「いかにも」という雰囲気。
黒いショールを羽織ったベティ、……ちょっとドキっとしてしまいます。裏通りで見るのとは全然違う。ほぼ丸見えなので目の遣り場に困りますね。
「ねぇねぇユーキ、知ってる?カミラってば先週の売上げ一位取ったのよ!凄くない?さすがあたしの教え子ね!」
『マジでか。あの性悪が?財布盗んで売り上げにしてたりしない?』
「そうなんですか?おめでとうございます。しっかり仕事してるんですね……」
カミラはスラムの仲間……かどうかは微妙ですが、知人。
「あはは、そうねー。速攻で問題起こして出ていくかと思いきや、もう2年近く続いてるんだもんね。あたしもびっくり」
「ベティは何位なんですか?売上」
「2位よ。先々週は1位。ねえ褒めて褒めて~」
「え、凄いですね。何年やってるんですか?何て言うか、大ベテランでしょ?」
『ひどっ』
「失礼ね!
『まあ、どう計算しても三十路半ばは過ぎてるのよね。見た目はそこそこ若いけど』
話しながらもベティは自然と距離を縮め、いつのまにかボクの腕に柔らかいモノが触れています。こういうのも彼女の言う
「ふふふ。ユーキも反応するのね、意外」
「一応、ついてますから」
『そっちは未使用だけどね~、プププ』
考えてみれば「こういうこと」をこういう雰囲気でするのは初めて。僅かに胸が苦しいような、不思議な感覚……嫌いじゃないかも。
「って、あらあら……これは……」
「どうかしました?」
「いやいや、ふふーん、なるほどねー。これはこれは」
『ほんと凶悪』
ベティは粘り気のある透明な液体を使い、ボクの身体を……特に硬直した一部を、執拗に撫でまわす。気持ちいいような、くすぐったいような。今までに無い感覚です。自分で処理するときにも極力余計なことは考えずに済ませていたので、こういう高揚感はあまり経験が無い。少なくとも、痛みや屈辱に塗れたものではありません。
「すっごーい。ユーキ、あなた凄いわよ?」
『かわいい顔してまったくね』
「なにが?……すみません、もう」
「まだダメよー?お楽しみはこれからなんだから。ふふふ……これは……じゅるり」
そう言われても、自分で操作できるものではないような。ショールを脱いだベティの身体が、ボクの上に重なる。……暖かい。というか、熱いくらい。これが――
『はい、良い子はここまでねー』
****
『ふふふ。わたしが代わる必要も無かったわね。どう?癖になっちゃう?』
「……」
『あなたのそれが、あのベティを犯したのよ?どうなの?今まで一方的にされていたことをやり返す気分は』
「……」
『アーロンの下っ端にもやり返してみる?丁度そろそろ集金日よ。またアイツが来るかしら。来るでしょうね……ニヤニヤしながら、ギンギンにして。ふふふ、楽しみね』
「……」
『あれ?これだとわたし、やられ損じゃない?楽しいところはユーキのままなんて。ちょっと今度代わりなさいよ。突っ込む感覚も気になる』
「……」
『ふーん、そっか。ベティの生き甲斐ねぇ。案外、仕事が楽しかったりするんじゃない?ほら、そういう女もいるじゃない。ユーキも一時期そうなりかけてたわよね』
「……」
『あはは、確かに確かに。ハマってたのはわたしか。そうとも言う。あれ?じゃぁ、わたしって結構楽しんでたの?むむむ、そうなのか……』
****
「ただいま」
『おかえり』
2時間で娼館を出て部屋に戻り、遅めの夕食。
ベティの匂い。身体に残っている。
服を脱ぐと一層香りが強くなる。……ああ、あんなに搾り取られた後なのに。
自然と手が動いてしまう。この匂いが消える前に。もう少しだけ。
……ふう。
これは……毎週通う人の気持ちもわかってしまいますね。客をこんな気持ちにさせることができる、ベティは凄い。カミラも同じように凄いんでしょうか。もちろん、行きませんけど。ベティとするのも今日が最初で最後。約束は果たしましたし、何よりお金も体力も尽きそうです。
「……ねえ、セナ」
虚空に向かって話しかける。もしも見ている人がいれば異様な光景でしょう。
『ん?なによ、珍しいわね』
「ボクらはいつまでこうしていられるのかな」
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