ラヴ・アイデンティティ【フォロー/飼育/CD】
白石ミヅキの秘密を僕だけが知っている。
今日も大学のゼミで一緒になった。
何もなかったように経済危機時代のマクロ経済政策について議論をしている彼女の、秘密を僕だけが知っている。
白石はSNS上で自分の卑猥な画像を公開している。野外での身体露出や自慰をしている様子。
画像と合わせて、その日のプレイ内容などが扇情的に綴られる。
何を隠そう、そのテキストを書いているのは僕だ。
簡単なバイト。
見知らぬ女性の卑猥な画像がまとめて届く。
彼女たちにとっても簡単なバイトだ。
画像の選別と加工をして、卑猥なテキストと共にアップロードする。
発情した馬鹿がフォローを飛ばしてきたら、有料コンテンツのURLをDMする。簡単なお仕事です。
いつものように画像を捌いていると、新しい女からの画像が含まれていた。
僕に送られてくる段階で顔に修正はかかっているが、髪型などから推定、首や耳のほくろから、同じゼミの白石ミヅキと断定した。
白石ミヅキのアカウントはめっぽう伸びた。
マゾヒスティックなシチュエーションが多かったため、歳上のご主人様に飼育されるお嬢様大学生、という設定にしたのが当たったようだ。
何より、僕が白石本人のパーソナリティを知っていることから、テキストにも臨場感が生まれた。
白石が乱れたならこんなことを言うだろう。
ゼミでの会話をエッセンスに、僕が演じる白石ミヅキはその現実感を増していった。
しかし僕には不満が溜まっていく。
僕はどこまでいっても白石ミヅキにはなれない。
こんなにも白石のことを僕は理解している(それこそ性器の形まで!!)のに僕は白石と一緒にはなれないことに苛立ちを感じ始めた。
悶々とする毎日の中でも、白石はゼミで談笑し、その夜にはあられもない姿の画像が送られてくる。
白石が理解できなくなり、僕は気が狂いそうになる。
白石と同じ服を着て、同じ色のウィッグを被っても、僕が白石に成り代わることは出来なかった。
僕は行動に出てしまう。
購買部で安いCD-Rを買い、そこに未加工の白石の画像を入れ込む。呼び出す場所と日時のテキストファイルを添えて。
何食わぬ顔でゼミの日に白石にそれを手渡す。その晩は身体が震えて眠れなかった。
翌日、研究棟の裏に僕は出向く。
白石は時間通りに訪れた。
「やっぱり、そうだったんだね。この前駅前で見かけたのも、田中君だったんだ」
僕は白石の格好で白石に向き合う。
僕は白石を殺そうと鞄の包丁に手を伸ばす。
が、突然、白石が僕を抱きしめた。
「いいえ、あなたは私になる必要なんてないよ」
白石は言う。
僕は白石になりたいわけじゃない。自分も白石のように自分を解放したいだけなのだ。
僕と白石は波長が偶然あっただけ。
僕には僕だけの解放すべき想いがある。
それが僕のテキストには表れている。
「今度は私があなたを世界に出してあげる」
その後僕は自分のマゾヒスティックな妄想を自身の身体で叶えていく。シチュエーションは、お嬢様に飼育される男。
動画サイトにアップされている僕の姿を、君にも見て欲しい。
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