星を捕まえる【意思/キャンディ/図書館】

 スーパーマーケットのような図書館があってもいい、と真知子はずっと考えている。真知子はキャンディを舐めながら図書館を回るのが好きだ。

 美味しいものを口にしながら好きな本を選んでそれを読む。そんな日々がたまらなく真知子は好きだった。

 真知子の読書好きはもともとではなかった。真知子の意思とは関係なしに3つ年上の姉が本を借りては真知子の部屋へ置いていった。姉の美咲は物静かな性格で、真知子に何かを伝えたい時はそれを示唆するような本を置く。

 最初は美咲が何を読むのか好奇心から本を開いた。読書にのめり込むようになるまでさほど時間はかからなかった。そして次第に、美咲の考えや伝えたいこと、そういったことを本を通じて真知子は気づくようになっていった。

 ある時、真知子の部屋へ怒ったようなそれでいて呆れたような大きな声が聞きこえた。

 それはどうやら美咲と両親が美咲の進路で揉めていたというようなことだった。

 美咲が大学を出て演技の仕事をしたがっていた。それは、最近真知子の部屋へ置かれる本が演劇論の本や演じることの喜びを通した小説になっていたことからもよく分かった。

 物静かな姉だったが、自分の意思で人前に出る職業に就こうとしていることに真知子は驚きと同時に尊敬を覚えた。

 激論が交わされたその日の夜、美咲は真知子の部屋へ来た。美咲と真知子はパジャマ姿でキャンディを舐めながら、なんとはなしに将来のことについて話をした。

 姉は情熱的に大学で見た舞台のこと、それに参加するべく努力を重ねてきたことなどを聞いた。美咲は多くの本を読んでいたから感情の言語化がうまかった。

 そんな姉だから、自分の信じた道ならば問題なく歩めるだろう。真知子はそう思った。

 美咲は舞台の上で照らされる光を掴みたいの、と言った。それは当てられる照明ではなくもっと抽象的で概念的なもの、星を掴み取りたいのだ、と美咲は笑っていった。

 そしてその夜、真知子の中にも新しい星が生まれた。それはきっと希望の光で、話を聞いた美咲も目をまん丸くして、まちちゃんがそう言うならば、きっとそうなんだろうな、と言った。

「だったらわたしは脚本家になるよ。そしてお姉ちゃんのための戯曲を書く。どこに行ったってお姉ちゃんを見つけるから。だからお姉ちゃんは輝く星になって」

 真っ直ぐな目で見つめる真知子に美咲は力強くうなずき返した。


 数日後、美咲は家族の反対を押し切って夜逃げ同然にいなくなってしまった。それでも真知子は美咲がきっと成功することを知っている。どんな困難があっても美咲のことだ、きっと折れずに歩みを止めないだろう。

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