re:cycle【秋/リサイクル/弁護士】
「判決を下す、リサイクルの刑に処す」
判決を聞いて、ペットボトルは項垂れる。
初公判から頑張ってきたが、ダメだったか。ペットボトルの弁護人である巻上はふう、とため息をついた。
巻上がペットボトルや空き缶などの弁護につくようになってから3年が過ぎた。
彼らはペットボトルや空き缶にも権利は存在する、と主張してリサイクルを拒否した。
新たに生まれ変わるよりもそのままの姿でその生を全うしたい、というのが彼らの願いだった。
だが、巻上の胸中は複雑だ。
元々、巻上は道路に打ち捨てられているゴミが嫌いだった。リサイクル推進派で巻上の妻も同じ意見だった。
巻上がペットボトルや空き缶の弁護を受け持つ弁護士になったのには理由があった。
3年前のことだ。秋の紅葉が美しいと聞いていた軽井沢へ向かっていたとき、落ちていたゴミが気になってしまった。路肩に車を停めて、妻がゴミを拾いに行った。その矢先だった。停車ランプをつけていたのに強引に突っ込んできた車に追突された。玉突きになった車にぶつかって妻は亡くなった。
悲しかった。辛くて気が狂いそうだった巻上だったが、その時のゴミの中身の空き缶は巻上にこう言った。「私はリサイクルされたくないんです」と。
それを聞いて巻上は雷に打たれたような気分になった。エコに励んで地球を美しくしようなんて、所詮は人間のエゴに過ぎないのだ。本来なら空き缶やペットボトルだってこの世に生を受けて好きなように生きて好きなように朽ちていきたいはずなのだ。
以来、巻上はペットボトルや空き缶などリサイクルを拒否するゴミの弁護を行うようになった。今回はダメだったが、まだ控訴すればチャンスはある。
このペットボトルも、もっと自分の好きな生き方を決められるはずだ。たとえそれが、人間の利益と相反するものであったとしても。
***
「奥さん、気を落とさないでください」
頷きながらわたしは、目が覚めない夫を見る。
夫は弁護士で正義感の強い人間だった。
捨てられたゴミを見て、ポイ捨てをする人間に怒るような人だった。
しかし、ある時、ポイ捨てされたゴミは本当にリサイクルされることを望んでいるのか? ということに疑問を持ってしまった。
ポイ捨ては地球のためにならない、しかしゴミの視点に立ったらそれはどうなるだろうか? 途方もない権利についての矛盾を考え過ぎて夫は狂ってしまった。
そしてついには住んでいたマンションの屋上から飛び降りて運良く一命を取り留めたものの、そこから目覚めることはなかった。
もう1年が経つ。また枯れ葉が落ちる晩秋になった。
落陽の中、窓に映る夫の顔が見えた。
ふっと、微笑んだ気がして私は夫が今度は誰を助ける夢を見ているんだろうか、と思った。
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