異世界転生して巨大ホテルを経営することになったんだが!?【巨大/兄/ホテル】
流行り病で死んでしまったはずの俺が目を覚ました時、あたりは一帯の草原だった。
ハッとなって起き上がると目の前に女神がいた。彼女は俺にこう言った。
「あなたに能力をひとつだけ授けましょう。あなたはこの世界に選ばれし者なのです」
「俺が選ばれし者?」
「そうです。あなたはこの地で何をやってもいい。魔王を討伐してもいい。王になってもいい。全てがあなたの望むままなのです」
「フン。ならば、いくら動いても疲れない身体が欲しい。それでこそ、この世界を俺の意のままに収められる」
俺の言葉に女神は頷く。
「わかりました。いいでしょうーー」
***
そして、その日から3年が過ぎた。
元々俺は接客業に従事していた。いわゆるホテルマンだった。
俺は完璧な接客を目指してひとりひとりのお客様に最高のホスピタリティを提供することを是としていたが、効率重視の同僚やムダを減らしたい重役からは煙たがられていた。
そして、同僚から給仕の際に足を引っ掛けられるという嫌がらせを受けて、御得意様の前で大失態を犯し、ホテルをクビにされた。
加えて運の悪いことに、そのまま病にかかって亡くなった。
悔しかった。まだまだやれることはあった。努力が足りなかった。お客様だけじゃなく、俺を蔑んだ同僚や疎ましく思っていた重役だって、とびきりの笑顔にしてみせたのにーー。
そんな俺の夢が叶ったのだろうか。眼前に広がる巨大なホテルを見て思う。
3年間寝ずに基礎工事から全てを行なってようやく作り上げた文字通りの俺の城だ。
最初は1人で木材を切るところからスタートした。物好きな人間がいるぞ、と街のエルフやらオークやらドワーフやらが見物に来るも、あまりに休まず黙々と作業を行う俺を見かねて手伝ってくれた。
ドワーフの知恵やオークの力、そしてエルフの知識が活きた。彼ら彼女らがいなければこのホテルはできなかった。
どの種族もホテルというものを知らない。
この世界にも宿屋の概念はあったが、個室なんてほとんどありえない。あるのは雑魚寝同然の簡易宿泊所だった。それでもこの世界では立派に旅人の疲れを癒す施設だった。
オークもエルフもドワーフも人間が城を作ったのだと錯覚していた。全体像は俺だけが把握できていた。
「ありがとう、みんな。せっかくだからこのホテルに泊まっていってくれないか」
手先の器用なエルフに発注した特注のスーツに袖を通して、俺は凛と声を発する。
40人ほどのエルフとドワーフとオークを家族ごとに部屋へ通す。
エルフのこどもには弓のおもちゃを貸して、ドワーフの老夫婦には館内に通した温泉と城の最上階のバーを勧めた。肩こりのオークには俺手製の低反発マットレスのベッドでマッサージの施術だ。
皆、ホテルというものに最初は戸惑っていたが、翌朝の10時のチェックアウトには満足そうに帰っていった。
聞けば、魔王軍の者も勇者に武器を提供する鍛冶屋もいたらしいが、お客様同士の争いに発展することはなかった。当たり前だ。
俺の城は治外法権だ。どんな主義や主張があろうが、ここでは俺が正義だ。
正義の名の下に、俺は彼らに極上のホスピタリティを提供する。
ある程度このホテルが軌道に乗ったら次は畑を耕して菜園を作るか。温浴施設の発展にも力を入れていきたいが、まずは目玉になるメニューの考案と、告知の広告を作ろうか。
それにしても先は長い。
***
兄が死んで3年が経った。
兄が死んで、僕はとてもショックだったけれど、そんな日々も時がやすらかに穏やかに思い出へと変えてくれた頃。
僕の元にノートが届いた。
最初は驚いたけれど、そのノートは毎日1ページずつ更新されて、兄の異世界での活躍が記されそして増えていった。
どうやら兄は念願のホテルを建てることができ、今は異世界の種族をもてなしているらしい。
なんとも兄らしいな、と思うと同時に僕は気づいた。
携わる全ての人を満足させ、笑顔にさせたい兄だから、こうやって悲しむ僕に日々を知らせるノートを届けたのだ。きっとそうだ。
ノートから顔を上げると窓から秋の陽射しが柔らかく降り注いだ。
秋晴れの空が目に染みて、涙が一筋零れ落ちた。
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