一瞬にして永遠なる日々へ【赤/永遠/ゾウ】
何をやってもダメな六郎が一念発起してバイト先に選んだのは動物園だった。
動物園は近所にあったからバイトをサボらず行けるだろう、という甘い考えからだったのと、六郎と同じく地元で暮らし、今は動物園でバイトをしている雄太の存在が大きかったからだ。
六郎は地元で大学生活を送っていたが、留年を続けてはサークル活動をするでもなく学業に打ち込むでもなく、ぶらぶらとしていた。そんな六郎を雄太が誘ったのだ。
雄太も雄太で動物園でバイトをするフリーターだった。六郎と雄太は暇な人間同士、動物園の檻の前で色々なことを語り合った。
2人のお気に入りはゾウで、ゾウが水浴びをしたり、雄太が投げた真っ赤なリンゴをうまそうに食べていたりするのを見るのが好きだった。
それをなんとはなしに眺めながらバイトをサボって語り合うのが好きだった。
好きな漫画や音楽や、タバコの銘柄や映画の話題など、2人の話はつきなかった。
六郎はいつもこの時間が永遠に続けばいいのになぁとぼんやりした頭で考えていた。
ところがある時、転機が訪れた。
なんと雄太はタイヘ行って、ゾウ使いになるのだという。
いつもゾウの飼育をしていて、次第にゾウに乗って旅をしたいという気持ちが芽生えてきたのだという。
目標が見つかって目をキラキラさせる雄太が眩しくて六郎は直視できなかった。
そしてそこから六郎は雄太を避けるようになってしまった。
雄太がバイトを辞める最終日も、2人はギクシャクしていた。
しかし、ゾウの檻を清掃していたとき真っ赤なリンゴが六郎の前に転がってくる。
そういや、雄太はよくゾウにこれをあげていたな。そう思いながら身体を起こすと、ゾウがつぶらな瞳でこちらを見ているのに気づく。
それはまるで、友の門出を祝福してやれよと言っているように見えて、六郎は手で顔を拭って雄太の前に行く。
「雄太、最後にこれ、ゾウに食べさせてやりなよ」
久々の会話に雄太は大きく頷くと、リンゴをゾウに渡した。
するとゾウはリンゴのお礼に鼻で組んだ水を空へ巻き上げた。
晩夏の午後に虹がかかった。
それを見て「いい門出だな」と雄太はぽつりと漏らした。
それを聞いた六郎は、
「またいつでも戻ってこいよ」
と強く言った。
2人の最後の別れ際、握手をする六郎の表情は明るかった。
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