ガイアが令和も俺に囁いている【惑星/脳/無職】

 ある日、ぶらぶらと外を歩いていると俺の頭に声が聞こえた。脳の奥に直接響く「星を守って……」という蕩けてしまいそうな声だった。

 あたりを見回すも誰もいない。

「あなたの脳に直接呼びかけているの」

「君は?」

「私は地球」

 地球はどう聞いても美しい女性の声だったが、地球というか惑星に性別の概念があるとは知らなかった。

 俺はその声を聞いて地球に惚れてしまった。しかしそれは一目惚れというよりは今まで見てこなかった幼馴染の女性らしい仕草に異性を意識してしまうような、そんな惚れ方だった。

 決して先輩の部屋で昼間から大麻を吸ってハッピーな気分になってみた夢ではないのだ。トリップする瞬間に目に入った『ガイアが俺に囁いている……』の一節が脳にこびりついていたからではないはずだ、きっと。

 それから俺は地球を愛することに決めた。家に戻って、手袋とゴミ袋を持って。

「じゃあ、行ってくる」と、妹に敬礼する俺はしかし「あーあ、無職は昼から暇でいいね」とイヤミを言われる始末だった。

「き、君だって学生の身分じゃないかぁ!」

「あたしは夜からバイト。にいちゃんは?」

「ぐむむ」くらいしか言い返せない。

 たしかに無職だ。しかし俺は今から地球を愛するという重大な使命が待っているのだ!

 

***


 夏の午後、山道には観光客が捨てていったゴミが打ち捨てられていた。

 泣き声が聞こえる。

 シクシク……という音は蝉の鳴き声の聞き間違いだったかもしれないが俺には地球が泣いているように聞こえた。

 だから、必死にゴミを拾った。

 ゴミを拾うたびに地球は喜んでいた。ああ、これがデートってやつか。先輩とマリファナを嗜むくらいしか楽しみのなかった俺に、こんな普遍的な青春を送れるようになるとは思ってもみなかった。

 昼から夜になるとパンパンになったゴミ袋をそこらに置いて、俺は地球を愛撫した。

 なんだか地球はくすぐったがっているような喜んでいるような、そんな気がした。

 そのまま俺はムラムラきてしまい、パンツと一緒にズボンを下ろし、下半身をそのまま柔らかそうな土の中に挿した。

 そしてこれは正常位なのか騎乗位なのかわからないなと思いながら俺は地面に果てた。

 ゴミ拾いを通じた地球とのデートと地球とひとつになった満足感で俺はそのまま眠ってしまった。

 ふふふ、俺はどうやらこの地球という惑星を本気で愛しちまったらしい。


***


 ことの終わりは呆気なかった。

 私有地で致したことが防犯カメラ経由で地主にバレてしまい、下半身を露出したまま寝ていたところを俺は警察に逮捕されてしまった。

 しかも、最高の環境で吸ってやろうと先輩の部屋からパクってきた極上のガンジャも内ポケットから見つかり、無職の俺はますます社会復帰が難しくなってしまった。

 父親にはぶん殴られ、妹は目を泣き腫らしてサイテーと罵っていたけれど、それはまあいい。

 俺にとっては今のこの服役している時間がサイコーなんだ。

 なぜって? ボランティア活動と称して山間部のゴミを拾って地球を綺麗にすることで、彼女を愛することができるんだからね。

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