ブルー・クラウド【ホテル/ガトリングガン/文明】

 ガトリングのガトちゃんには親がいない。いつも1人だ。

 ガトちゃんは寂しさに負けないように孤独に耐えているけれど、たまに心が折れる夜は裏山の草むらから夜空に向かってガトリングを発射する。

 たまに通り過ぎようとする鹿や猪に流れ弾が当たってしまったり、熊を撃っちゃったりするけど、ガトちゃんは気にしない。

 どんな脅威が迫ってきたってガトちゃんはへっちゃらだ。

 でも、そんなガトちゃんでも水はニガテだった。

 だからガトちゃんは雨が強い日はホテルに泊まる。ホテルの支配人たちも、ガトちゃんが泊まれば暴漢対策はバッチリだからWIN-WINの関係だ。

 ガトちゃんはホテルに泊まって映画を観るのが好きだった。もちろん好きな映画は80年代のハリウッドムービーだ。

 シュワちゃんやスタローンがガトちゃんの仲間たちを使って縦横無尽に悪いやつらをコテンパンにするのを観るのが、ガトちゃんは何よりも好きだった。

 

***


 ある日、いつものようにホテルで映画を観ていると、CMが流れてくる。

「文明、それは君が見た光。僕が見た希望。文明、それはふれあいの心」

 これは何だ、何だろう一体。耳に残るフレーズだった。ガトちゃんが聴いたことがない音楽だった。

 それ以来、ガトちゃんはこの曲が何かずっと考え続けた。

 文明? 光? ふれあい?

 文明といえば、ガトちゃんはきっと文明の側にいるのだろう。この間もブルース・ウィリスがガトちゃんで悪漢を鏖殺していた。

 光もガトちゃんについてだろうか?

 派手な音を撒き散らしながらピカピカ光るのはガトちゃんの得意分野だ。

 そうだ、これはボクの歌だ! そうガトちゃんは合点したが、最後のふれあい、という言葉の意味がわからなかった。

 夏の盛りが過ぎて少し暑さが落ち着いた頃、誰も彼もがお墓にお参りをする時期になった。お盆だ。

 人間たちはみな、バケツと柄杓を持ってお墓をきれいにして、先祖の霊を弔う。

 ガトちゃんは炎天下をてくてくと歩いていた。

 窓が開け放たれた軒先からテレビの音が流れてくる。聞こえてきたのはガトちゃんが以前に聞いて気になっていたあの歌だった。

 その時になって、ガトちゃんはようやく気づいた。

 お線香だ。

 あれは、亡くなった人たちへの弔いの歌だったんだ。

 どうしてあの曲がガトちゃんの琴線に触れたのかガトちゃんはその時になってやっと理解した。

 ああ、たまには撃ち殺した動物たちへの鎮魂をしなきゃな、と思ったガトちゃんだった。

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