月を掴みかけた男【兵器/激怒/映画化】

 大国の技術者であったクーパーは、戦争に伴って開発される兵器の在り方に疑問を抱いていた。

 なぜこれらの近代兵器は人を殺す以外のことが出来ないのか。戦力を削ぐというつまらない現代戦のためになぜ戦い続けているのか。

 それならば、人類がおよそ到達し得ない月面まで行く方がよっぽど有意義だし、この開発こそがより技術革新を産むのではないか。 

 クーパーはいつしかそう考えるようになった。

 クーパーは密かに兵器の研究と称して月面へ向かうためのロケットを開発し始めた。

 そして、理想の設計図ができた。完璧だ。もしこの航空宇宙機が完成すれば、月面を目指すことが出来るはずだ。

 パイロットはこいつしかいない。クーパーは思った。親友のジョシュアだ。ジョシュアはクーパーの幼馴染で大国のエースパイロットとして軍の戦果を挙げ続けていた。クーパーの贔屓目がなくても天才と目されるパイロットだった。

 ジョシュアはクーパーの話を聞いた。そして真剣でひたむきなクーパーの野望に賛同した。ジョシュアもジョシュアで兵器による人殺しの効率を求めていくことに嫌気が差していたのだ。

 そして数年の歳月の中でクーパーはジョシュアのために最高の機体を作り上げた。

 その過剰な燃料を積んだエンジンは、世界中を爆撃により攻撃し拠点制圧に使うためだと嘘をでっち上げたが、上層部はクーパーを信じ切っていた。

 そして、ジョシュアがテストとして期待に乗る、すなわち月面まで無断で飛ぼうと2人が決めた日の前日、ジョシュアは何者かに撃たれて死んだ。クーパーの野望を知った軍の回し者だった。

 仲の良かったジョシュアが死んだ。

 クーパーは激怒した。なぜ、ジョシュアが死ななければならないのか。それほどまでに人を殺すことが大切なのか。

 クーパーも狙われていたが軍の者たちの追手を振り切って、コックピットまで走る。

 そして、航空宇宙機に乗り込むとそのまま軍部の静止を振り切って、まっすぐ宇宙まで飛んでいった。しかし、パイロットとして訓練を受けていないクーパーは大気圏を振り切るのが限界だった。大気圏を抜ける中、押しつけられる重力で舌を飲み込んでしまい、そのまま絶命した。

 航空宇宙機はそのまま飛べるだけ飛んでいって、慣性の法則に従って宇宙の果てまで漂っていってしまった。

 しかし、この月を目指した2人の若者の話は国内の厭戦気分とマッチして、やがて大国が戦争を止めるきっかけとなった。

 2人は没後10年もすると英雄として、祭り上げられるようになった。

 この内容は映画化され、ずっとずっと先の、後世まで語り継がれていったとの話だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る