>>10 What you can do as a friend




「今から私がお話するのは、如月さんや私がまだ海明小学校に通っていた頃の事です」


 香菜子ちゃんはそう言って、クリームをほんの少しスプーンで掬い上げた。


「──ある時、1人の女の子が、海明小学校に転入してきました。名前は『佐々木(ささき)詩織(しおり)』といいます。その女の子は、如月さんと同じクラスに入ったと友人から聞きました。……私はその時、如月さんとは別のクラスだったので、ここから先に話すのはあくまで『噂』です」


 そう言って香菜子ちゃんは1口それを食べると、スプーンをテーブルの上に置いて、ゆっくりとその話を始めた。


「転入生の佐々木さんは、誰にでも優しく接する明るい人だったそうです。そんな佐々木さんですから、勿論如月さんにも声をかけました。……でも如月さんは当時、クラスの皆から嫌われていて、いつも1人で行動していたんです。そんな如月さんに佐々木さんが声を掛けたから、皆の視線は一気に如月さんに向けられました」


 ……ん?

 私はふと、ある言葉が気になって話を一旦止める。


「どうして菜々ちゃんは嫌われていたの? 良い子なのに……」


 私が初めて菜々ちゃんを見た時の第一印象は、歌が上手くて照れ屋な明るい女の子だった。それに優しくて……、本当に凄く良い子なのに。嫌われる要素が分からない。


「んー……。私も如月さんの事が好きなので、詳しくは分かりませんが……集団心理なんじゃないですかね。如月さんは当時、暗い女の子だったんですが、最初は明るかったんですよ。それが噂では、男子から結構視線を浴びていて、周りの女の子は気に食わなかったとか。如月さん独特の『ふふ』って笑い方も、可愛さアピールしている様で嫌だって言っていた人もいましたし……」

「……、何それ……」


 怒りで拳が震えるのが分かる。

 なんて理不尽なんだろう……。

 そんなの、絶対に虐めじゃないか。


「そして……、ある日突然、如月さんは暗くなりました。何があったのかは分かりませんが……、女の子達はそれを良く思っていたみたいです。『それでいい』と。……しかし、そんな時に現れた『佐々木詩織』という女の子の存在が如月さんを大きく変えました。それによって如月さんが元気を取り戻していく様子や、如月さんに友達が出来る事を恐れたクラスメイト達は……、遂に手を出しました。……如月さんと佐々木さんが遊ぶ約束をしていたその日、女の子達は待ち合わせに向かう途中の佐々木さんを捕まえて、如月さんから『友達』という存在を切り離したんです」

「……っ、」


 なんて、酷い話なんだろう……。

 私は、ゴクリと唾を飲み込む。

 

「……それでも、如月さんとの約束に行こうとする佐々木さんを彼女達は大人数で囲って、商店街で遊ばせていました。そこを如月さんが見てしまったんです……。『約束を破られた』そう思い込んだ如月さんは、佐々木さんに向かってこう言いました。『詩織ちゃんなんて、大嫌い』──と。それから数日後、佐々木さんは再び転校していきました。仲直り出来ないまま……」

「……」


 ──言葉が、出なかった。

 というか、なんて返したら良いのかが分からなかったのだ。


 菜々ちゃんは、幼い時に両親を失ったと聞いたことがある。それだけでも酷く悲しいだろうに……まさか、こんな過去まで持っていただなんて。


 私の目から見た菜々ちゃんは、『明るくて可愛い皆からの人気者』の様に見えたが、それはわざとそういう振りをしていたんだろう……。私や、菜々ちゃんのおばあちゃんに心配をかけさせない為に……。


「この噂は、現在まで続いています。だから如月さんは学校ではいつも1人なんです……。私も見かけたら声を掛ける様にはしてますが、別のクラスなのでなかなか……。先日、如月さんに会いに教室に行きましたが、その時に如月さんとクラスメイトが何か揉め事を起こしていたんです。だから気になって……、ゆかりさんにはこの事を話しておこうと思って。それで今日、私はゆかりさんに会いに来たんです」


 ……話が終わり、香菜子ちゃんはゆっくりとお茶を飲み混んだ。気がつくと、パフェの中身は無くなっていて、私は何となく驚く。


「……そう、だったんだね……」


 私はふと、窓の外を見上げた。


 私は、菜々ちゃんに何をしてあげられるだろう。

 菜々ちゃんは、夢を諦めかけていた私を救ってくれた。


 ──なら、私は……?


 ……私と菜々ちゃんは、紛れも無く友達だ。

 その友達として、出来る事は。


 ……私は、拳を強く握り締める。


「香菜子ちゃん。少しお願いがあるんだけど……」

「ん? 何ですか?」


 私は鞄から携帯を取り出して、そっと香菜子ちゃんに渡した。


 菜々ちゃんに必要な事は、クラスメイトとの和解と友達を作る事。そして、『佐々木詩織』という女の子への誤解を解く事だろう。


 ……これで、全てが解決すれば良いのだが。


 私は、香菜子ちゃんに要点を手短く伝えると、早速席を立った。菜々ちゃんに会いに行く為に……。

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