>>15 for next year




 長かった面接も遂に終わり、私達は待機室であるBルームで、合否発表が知らされるのを待っていた。


 ……静かな室内。

 喋っている人は誰も居ない。


 だからだろうか。

 バクバクと、自分の心臓の音がここまで聞こえてくるのは。


「…………」


 ……『期待していない』と言えば、嘘になる。


 勿論、あのまま面接を終えていたとしたら、私達は100パーセント落ちていただろうけど。


 だけど、菜々ちゃんが途中で叱ってくれたお陰で、私は覚醒する事が出来た。その後、菜々ちゃんと一緒に歌い直した歌は、正直過去1番の出来だったと思う。


 菜々ちゃんがどう思っているかは分からないが……、少なくとも私は、手応えを感じた。楽しく歌う事が出来たし、最高の歌だったんだ。


 だから、少しぐらい期待しても良いよね。

 落ちても悔いが残らないぐらい、今の私が持っている力の全てを歌に注ぎ込んだんだから。



 しばらく時間が経つと、急にドアが開く音がして、私は振り返る。部屋に入ってきた人は、さっきオーディションの説明をしてくれた女性の方だたった。


 いよいよ合否発表か……。


 胸の音が、更に早まるのを感じる。

 このままでは、緊張し過ぎて過呼吸になってしまうんじゃないか──と思ってしまうぐらい、私の心は限界に達していた。


「皆様、面接お疲れ様でした。以下、審査員からのコメントです。『歌に対する熱心な姿勢が、応募者の皆さんから伝わってきました。不合格だった方も、この先歌手になれる可能性はまだまだあるので、頑張ってもらいたいです。そして、合格した方は、次のステージがまだあります。気を緩めずにこの先も夢に向けて頑張ってください』──以上です」


 女性はそう言うと、審査員のコメントが書かれていると思われるメモを仕舞い直してから、ゴホンと軽く咳をする。


 そして、続けて言った。


「──それでは、これより合否発表をします」


 ドキッと、心臓の音が大きく響く。


 いよいよだ……。


 私は手に汗を握りながら、女性の言葉に耳を傾けた。


「このBルームで合格した者は、100名の内……──3グループです」


 ……え。

 たったの3グループだけっ!?


 私は一瞬、聞き間違いかと思った。

 だって、こんなに沢山のグループがいる中で3グループしか受からないなんて……。


 まさか、そこまで厳しい世界だとは思っていなかった。



 ……しかし、その3グループの中に私達がいるという可能性もある筈。最初はやらかしてしまったけど、それでも一生懸命頑張って、今までで1番最高の歌を歌ったんだ。


 だから……っ!!


「それではこれより、合格した3グループを発表します」



 ドキドキと煩い音を退かしながら、必死に女性の言葉に耳を傾ける。


 合格した3グループの中に、私達は──、



 

 ……いなかった。


「本日はお疲れ様でした。合格した方は、この後次回の説明がありますので……」


 不合格だった私達は、強制的に部屋を出て行かされる。

 

 まあ、当たり前か。

 不合格者に用は無いよね。


 でも、何だか……。なんて言うのかな、この気持ち。急に目の前が真っ暗になったというか。


 悲しいのか、辛いのか。それすらもよく分からないような……、無の感情というか。


 その時、私の右肩にトントンと何かが触れた。


「ゆかり先輩」

「──っ、」


 振り返ると……、菜々ちゃんが笑っていた。

 でも、菜々ちゃんは……、何処か無理をしている様に見えた。見た目は笑っているのに。


 そんな菜々ちゃんの様子を見て、ずっと堪えていた涙が急にポロポロと零れ落ちてくる。


「うっ、う……っ、」


 そうだよね……。

 私なんかより、むしろ菜々ちゃんの方がずっと悔しいに決まってる。


 菜々ちゃんは、ずっと前から歌手になるのが夢で、ずっと1人で頑張ってきたんだ。それなのに、私は……。


 もしあの時、私があんな適当な事をしていなければ……?


「……ごめっ、菜々ちゃん……」

「泣かないでください、ゆかり先輩。あたし達は、今のあたし達の全力を出す事が出来たんですから。それに……、また来年もあります。だから……っ、うぅ……、」


 ……そうだよね。

 来年もまた、オーディションはあるんだ。

 それに、合格すれば良いだけなんだから……。


 だけど、やっぱり悔しいものは悔しい。

 一生懸命努力して、それが認められなかった瞬間は……、やっぱり何でも辛いんだ。これは、以前執筆に挫折していた時の感情にも似ている。


 ……いつの間にか、こんなに歌が大好きになっていたんだな、私……。




 会場の外で2人して泣いていると、後ろから、聞き覚えのある声がした。


「アンタ達……いや、日向さんと如月さん」


 振り返ると──、そこには天金さんと瀬名さんがいた。


「さっきは……悪かったわね。失礼な事を言って……」


 天金さんは、目を真っ赤にしながら、ポリポリと頬を掻いていた。


「いえ……、全然気にしてないです。いや、最初は勿論気にしてましたが……むしろあの言葉があったから、私は成長する事が出来たのかも」


 私の言葉に、天金さんは目を丸くする。


 この2人がいたから、私は絶望を感じる事が出来た。だから、菜々ちゃんが叱ってくれた。だから……、私は最高の歌を歌う事が出来た。


 この2人がいなかったら、私はいつも通り平凡な歌を歌っていたかもしれない。


 だから、私が成長出来たのは、この2人のおかげでもあるんだ。


 天金さんはしばらく目を丸くし続けた後、クスクスと笑い出した。


「日向さん、アナタ本当に面白い人ね。アナタ達の歌……、凄く素敵だったわ。アナタ達は、私達のライバルよ」


 そして、天金さんは続けて言った。


「──来年、また会いましょう。約束よ」


 ……この2人でも、オーディションに落ちたんだ。あんな完璧な面接と、歌を歌っていても。


 オーディションの過酷さをより知ると同時に……、この2人に私達がライバルであると認められた事を、嬉しくも感じた。

 


 天金さんは、スタスタと先へ行く。


 瀬名さんも、私達に軽く会釈をしてから、天金さんに着いて行くように小走りで追いかけていた。



 ──来年、また。


 悔しい気持ちも勿論あるけれど。

 だけど、こんな事でへこたれてちゃいけないんだ。何度も失敗して、そうやって人は成長していくのだから。



「ゆかり先輩。家に帰って、練習しましょっ! また、来年に向けて! 」

「うんっ! 」


 私達は走った。

 夢を追いかける為に。




 〜Sing with friends 第二章[完]〜

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