≪後日談—役立たず、本当に村に帰る—≫(後編)
「はぁ、いやでもキッツ……。あんなクソ女でも見た目だけは可愛いし、なんだかんだ色んなところ育ってるし。あんな子にあそこまで全否定されたら流石に耐えられねぇよ……」
怒りより何よりただただ辛い。心が折れる。
まぁでもこれで心置きなく王都をされる。
ただ唯一の心残りは——。
「再生魔法……俺も使えるようになれればなぁ」
再生魔法——それは光系統及び水系統の魔法を組み合わせた魔法、を結局一つも教われなかったことである。
死んだ細胞に直接働きかけ、死ぬ前の状態に引き戻す魔法である。
光系統の魔法は実在するものに。
闇系統の魔法は見えないものに。
それぞれ作用する。
死んだ細胞に光魔法で干渉。死んでいなかった頃の状態に巻き戻し、生きていた頃のまま固定する。あとは水魔法で無理矢理細胞を活性化させて本来の形に戻るのを待つ。これが再生魔法である。
アダムの場合はその待つ行程をすっ飛ばすため、恐らく過剰に魔力を使った反動でイヴの力が使えなくなったんだろうと思う。
ちなみに、俺の腕はアリサが治した。最近光と闇の系統を練習し始めたらしいアリサの実験台にされたらしい。
「しばらくは馴染まないかもとか言われてたけどそんなこともないし。やっぱすげぇよ、アリサは」
まぁこれならきっと近いうちに「伝説の魔女の弟子」として国中で噂になることだろう。片時とは言え弟弟子だった俺としても鼻が高い。
「今頃ソフィアさん達はテナーかな。それとももうそれすら終わって王都に戻ってきてんのかな」
「そうね、両方外れであんたが王都を出るのを待ってたってのはどう?」
「はっ、ないない。俺なんかをあの二人が待つ理由なんて無いし」
いくら俺の頭の中のリトルスバルとは言え自惚れが過ぎる。
どこの世界にこんな冴えない役立たずを待っていてくれる超絶美女師匠とその超絶美少女弟子なんて要るんだよ。妄想にしたって幻想抱きすぎた。そんな幻想はさっさとぶち殺されてしまえ。
「いや、実はそうでもないかもしれんぞ?少なくともワシは楽しみにしておったのじゃ」
「ハハッ、口調まで真似るなんて俺の頭の中もずいぶんお花畑……ってナンデ!?フタリトモナンデ!?」
いや、ちょっと期待はしてたしなんなら気付いてはいたけどどうして……。
「あんた師匠の弟子で、あたしの弟弟子でしょうが。何勝手に雲隠れしようとしてんのよ。逃げようったってそうは行かないわ」
「ふむん、確かにアリサの言う通りじゃ。それに少なくともワシは弟子だろうが弟子でなかろうが、それほどの魔力を持っているお前を一人にしておくつもりは毛頭無かったしの。アリサではないが逃げられるとなんて思わぬことじゃな」
「あぁ……あぁっ……!」
ダメだ。嬉しすぎる。
でもダメだろ、こんな時に泣くなんてさ。男としてどうよ。ダメだって、なぁ。ダメだって言ってんのに。
「何男が泣いてんのよ。役立たずな上に泣き虫なんて流石に救い用ないんじゃない、スバル」
「いや、違うんだって。これは違うんだよ。これは目にゴミが入っただけなんだって」
自分でも苦しすぎる言い訳だと思う。
「そうか、ならば仕方ないの。アリサもそれで良いな?」
「まぁ師匠がそう言うなら」
「じゃそうじゃ、スバル」
嬉しくて仕方ない。
涙が止めどなく溢れてくる。
「ふふっ、なんとも厄介なゴミが入ったものじゃな。スバルよ」
「ははっ、ほっ、ほんとですねっ……!いやぁ、困ったなぁ……!」
———それから暫くしてから。
「あんたがびーびー泣いてるから随分遅くなったじゃない」
「だーっ!もうそれについては何度も謝っただろ!?」
俺たちは王都の門前まで来ていた。
あとはここからゆっくりと村まで帰るだけである。
「あの、ホントに良いんですか。ソフィアさんもアリサも。自慢じゃないですけどうちの村ホントになにもないですよ?」
「もう何度も言ってるでしょ。気にしないって。それにすぐ隣にテナーがあるんだしあたしも師匠も別に何も困んないわよ」
「そ、そりゃそうかも知れねえけど」
それについてはアリサが全面的に正しい。
ソフィアさんも同じことを言っている。
「むしろ聞きたいのはあたし達よ。良いの?本当に」
「あぁ。それについてももう何度も言ったろ」
「あんたがテナーに来てソフィアさん達に協力するって形なら今よりずっといい生活ができるし、なんならこの国の王様から『帰ってきてくれないか?』何て言われてたじゃない。それを断ってまで……」
俺がソフィアさん達に繰り返し同じことを聞いていたように、二人も同じことを俺に聞いていた。
だけど、二人が俺なんかの目標に付き合ってくれる意思を曲げないのと同じように、俺も俺の目標を曲げるつもりは毛頭無い。
「いいんだよ。それじゃ『見返し』にならないだろ?」
「あんたまたそんなこと言って……」
「わかってるよ。キャラじゃないって言うんだろ?だから直接的なのはもうやめたんだ。って言うのも何度も説明したろ?」
「それはそうだけど……」
「ワシは良いと思うぞ。それにワシらがそれを手伝う変わりにスバルもまた我らの研究につきおうてくれるのじゃ。これ以上無い良い目標じゃ」
俺の今の目標、それは——。
「俺の魔法で、俺の村を王都より栄えさせてやる」
そう、これに尽きる。
「今はまだできないです。でも、もっとこの魔法を使いこなして脚力だけ、とか目だけ、とかその人に応じて必要なところを助けてあげて。おじいちゃんとおばあちゃんばっかな村だけど、絶対みんながうちの村で暮らしたくなるような、そんな村にする。それが俺にとってのこの王宮にふんぞり返ってる奴らへの最大の『見返し』です」
人助けもして、おじいちゃんおばあちゃん孝行もして、村も栄えさせて、ついでにあいつらがうちの村に愛想よくしなきゃダメになったらこれ以上無いくらい嬉しいことだと思うんだ。
簡単な道のりじゃないだろう。自分の無力に嘆くこともあるだろう。でも俺は一人じゃない。こんなに最高の師匠と姉弟子が一緒にいる。
だったら怖いものなんて一つもない。
「さ、行きましょう!前に馬を待たせてあるんです!」
あぁ~!言ってみたかったんだこの台詞!しかも相手がこの二人だぞ!信じられない!俺今かっこいい!
流石国を救った英雄!ちょっと前までの俺にできなかったことを平然とやってのけるッ!そこにシビれる!あこがれるゥ!
「あぁ、その馬車ならもう要らないから帰らせたわよ」
「へっ?」
「てかあんたニアナまでただの馬車で行こうとしてたの?バカなの?死ぬの?地獄で呪われたいの?」
「えっ、えっ?」
「それこそ転移魔法があるでしょうが。今回はあたしの修行もないしひとっとびよ。ね、師匠」
「そうじゃな。流石にワシも歳じゃしそう何度も一月も掛かるような旅を立て続けにはできぬ」
「あっ、そっ、そうですよね?あ、当たり前ですよね?」
なんだろう、俺たった今心に深いダメージを受けたんですよね。
「では、参るとするかの」
「あたし実はニアナ初めてなのよね」
「良いとこだぞ?何もないけど水が美味しいんだ」
「ふーん、じゃあ責任もってあんたが案内してね」
「する程のものは無いけど任せとけ」
みんな驚くだろうな。俺が千万エルムの金を持った上でソフィアさんの弟子になったなんて言ったら。
あぁ、こんなに村に帰るのが待ち遠しくなるなんて思っても見なかった。
待っていてくれ、父さん、母さん。元宮廷魔導師で役立たずの俺が今から帰るよ!
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