≪後日談—役立たず、本当に村に帰る—≫(前編)
「こんな清々しい気持ちで王都を出ていけるなんて思ってもなかったなぁ……。これもソフィアさん達のおかげかな」
あの戦いから、また少しの時間が流れた。
完全に消滅した俺の右腕は、もうすっかり元通りになっている。
しかしあの後のアズリール八世は本当に見物だった。
———「ス、スバル・スコットランド様……。こ、此度の活躍は聞き及んでおります……!か、かかか数々のご無礼本当に申し訳ございませんでした……!」
なんてへっぴり腰で言い出す始末。
まぁあんな穴作り出した化け物が相手じゃそうなるか。最後に一発小さな
加えて俺のことをバカにしていた奴らが全員揃いも揃って「ス、スバリール君、だったよね!?僕ら友達だったよな!?」なんて言い出したのは言い見世物だった。「名前間違えてるけどな」と一言笑顔で添えてやれば全員逃げ出す始末。俺も随分と怖がられるようになったものである。
だと言うのにアルテマ・ミズーリの姿だけは王宮のどこを探しても見つからなかった。一応悔しいが見た目だけは可愛いし、そもそも十歳も歳下だし。余りに大人げなさすぎたから一応謝ろうと思っていたのに。
「まぁもう言いか。別に今さらどうってことないし」
もうここに未練はない。
今回の謝礼として俺には千万エルムが与えられた。これは元々の俺の年収の約5倍の額である。いっそのこと傭兵にでもなってやろうか。
ちなみに持ち運べないため全て王宮持ちで村に送らせた。ついでに馬も数頭置いておくように言ってあるし、村までの費用も王都持ち。
国も助けてやって、一年間のことを全て水に流してやるのだ、これくらいなら文句は言わせない。
「しかし俺も変に目立つようになっちまったな、こう言うのなれてないから困るんだけど」
王都の門へと続く街道を俺は歩いている。
そんな俺を見てそこら中から聞こえてくるのだ。
「あれがこの前の爆発を起こしたっていうスバリンド伯爵よ!」
「何を言っているの!伝説の魔女の弟子のスベイル公爵でしょ!?この前の戦いでは大活躍だったらしいわ!」
「いやいや、俺はどこかの没落した名家の生まれの元宮廷魔導師スバイサーだって聞いたぜ!」
どれでもねぇよ。
そいつらそもそもどこの誰だよ、俺はスバル・スコットランドだ。所々ちょっとだけあっているのが妙に腹立つ。
しかしこの扱いはなんだ、これではまるで見世物小屋の猿ではないか。
そんな俺の前に人影が現れた。
「随分出世したわね。えぇ?役立たず」
「なんだ、お前か。宮廷中探して見つからなかったからまたチビって逃げ出したのかと思ったよ」
アルテマ・ミズーリだった。
「は、はぁっ!?逃げてないし!てかチビってないし!あんた次にそんな根も葉もないこと言ったら不敬罪よ!不敬罪で死刑よ!?死刑!」
「あっそ、勝手に言ってろ」
本当に見上げた根性である。是非とも親の顔が見てみたい。
「って何通りすぎてんのよ!もっと言うことがあるでしょうが!本日もお綺麗ですね、ミズーリ様!とか、まるで高貴と気品が形を持って歩いていらっしゃるようですね、ミズーリ様!とか」
「ねぇよ。テメぇの取り巻きに言わせてろよ、そんなこと」
なんだこいつは。せっかく人が悪かったと思って謝ってやろうとしてんのに——。
「ぐずぅっ……だ、だによ!ちょ、ちょっとくらい歩みよっでぐれでもいいじゃない!ぐすっ……ご、このアルテマ・ミズーリ様がわざわざ話しかけてやっでるのにぃ!」
「って何泣いてんだよ!お前そう言うキャラだったの!?ちょっ!やめろよ!お前それでもいいとこの娘なはずだろ!?アルテマ・ミズーリだろ!?こんなとこで泣くなよ!悪かった!俺が悪かったから!な!?」
どうも名家のアルテマ様はぞんざいに扱われるのに慣れていないらしい。
「うぅっ……!ぐずぅっ……バガ!アホ!じね!」
「な!?ほら、俺が悪かったから!というか皆見てるから!とにかくここじゃまずいって!」
「おぶれぇ!やくだだずぅ!」
「あー、はいはいはいわかったわかったから!」
どうしてこうなった。
ともかくアルテマをおぶってその場から離れる。ただでさえ変な噂が立っている俺だ。そこに変な尾ひれがつきまくることは用意に想像つくが仕方がない。
「あっ!スバリッター様があのアルテマ・ミズーリ様を連れてどこかへ!」
だからそいつ誰だよ!
そう思いながら水魔法での身体強化。
屋根を伝って人気の無いところへ移動した。
「あー、なんだ、その、悪かったな、アルテマ」
「うっざい!あほだれ!よびずでにずんな!やぐだだず!」
「参ったな……」
完全にへそを曲げられた。すごいぞ15歳。
「あによ……。ぐずっ……、あたしだっでねぇ……。あんたに、言いたいことがあったか探してやってたのに……」
「うん、悪かったよ、俺が悪かったから。期限直してくれよ、な?」
「ん…………」
コクンッ、と泣きながら上目遣いのまま無言で首を縦に振るアルテマは、暴力的な程に可愛かった。
これがこの女じゃなければ思わず抱き締めてしまいそうなくらいである。
「……と」
「すまん、何だって?」
「だからっ!……がと」
「ごめん、ほんと聞こえな——」
「だぁかぁらぁ!ありがとうって言ってやってんの!このアルテマ・ミズーリがあんたみたいな役立たずに!」
「えっ、あっ、はい」
あまりにも予想外なセリフ。
こいつ人にお礼とか言えたのか。まずはそれに驚いた。
「言ったわよ。もうこれでチャラだから」
「ったく。変なところで律儀だな、お前も」
「当たり前でしょ。あたしはアルテマ・ミズーリよ。あんたみたいな底辺田舎者に恩を売られてハイそうですかじゃ問屋が卸さないのよ」
「ずいぶんと気にするんだな、そこ」
あそこまでこけにしまくった俺に感謝を述べるくらいにはそれがこいつのアイデンティティーなわけだ。家柄ってのはずいぶんと難しいんだな、俺にはよくわからない。
「さて、言ったわよね、これでチャラって」
「あぁ、それでいいよ。用が終わったなら俺いくわ、馬車待たせてるし」
そう言いながら笑ってやった。
俺も鬼じゃない、十も年下の女の子に泣いて謝られてまだ矛を納めないような人間じゃない。それに貰うものは貰っている。人間余裕があれば結構許せてしまうものだ。
なんて思っていた時期が俺にもありました。
「……ふっ、ふふふふふっ、アハハハハッ!バーカバーカ!誰があんたみたいなグズで間抜けで田舎くっさい役立たずにお礼なんて言うもんですかバーカ!」
「は、はぁ!?」
「あー、ほんとバカねぇ、役立たずぅ。あんたほんとチョロいわぁ。すぐに女の子に泣き落とされるとか童貞丸出しって感じぃ?あぁ、ほんとキモイ、キモすぎてウケる。笑いすぎて涙出てきた。あー、ほんとこれだから男ってチョロいのよ」
「て、てめぇ……!」
「えっ!?えぇっ!?こんなかわいい子にあんた暴力振るうの!?キャー!助けてー!キモイ童貞拗らせ田舎魔法使いに襲われちゃう~!」
こんの、クソガキ!
言いたい放題言いやがって!
今なら別にてめぇ一人くらい……!
「てめぇ覚えてろ!いつか確実に後悔させてやるからな!」
「はっ!できるもんならやってみなさいよこの役立たず!ま、あんたじゃ一生かかっても無理ですけどねぇ?あーほんとやだやだ、生まれと育ちの違いがわかんない童貞はこれだから……」
「さっきから童貞童貞うるせえよ!それ関係あんのかよ!つか童貞とそれ関係あんのか!てかお前人のことバカにしてっけどお前は経験あんのかよ!」
「はぁ?私の初めてがあんたみたいな田舎者のクソ童貞と同じ価値な訳ないでしょぉ?なに言ってんのキッモ。あたしの初めてなんてそれはそれはもう由緒正しい王族の家系でも指折りの時期国王クラスの殿方に捧げんのよ。そんなこともわかんないから童貞は嫌なのよ」
あぁ、こいつマジであの時助けてやんなきゃよかった。こいつのせいで無駄に背中に傷までおったって言うのに(まぁこれはすぐ治したけど)その結果がこれかよ。
こんなことならあの時見殺しにしてやりゃよかった。アダムの言う通りだわ。
「あー、清々した。これであんたが出ていっても毎日毎日あんたのその気持ち悪い顔思い出さずに済むわ。あのまま行かれてたら悔しくて舌噛んで死んでたわね」
「お前そこまで……」
なんかシンプルにこんなかわいい子がそこまで俺を嫌っているって事実に凹む。
そんなにダメかな。俺。いや、別にかっこいい方では決してないと思うけどそんな、そこまでダメ?
何だろう、やっぱつれぇわ。
「って何々!?いっちょまえに傷心してんの!?うっわマジウケる!あー、ほんといやマジで——」
「——
アルテマの頬を掠めるか掠めないかくらいのギリギリを通り抜ける星光(スターフレア)——もちろん超手加減したし本当に大したこと無い爆発を起こすくらいのものだが、を発射した。
流石にこれ以上は二重の意味で耐えられない。
「おいクソ女」
「なっ、あんたこんなとこでこのあたしに——」
「おいクソ女ァッ!」
「ひゃっ、ひゃぃぃい!」
「3つ数えてやるからここから消えろ。でないと講習の面前でてめぇをチビらせてから首輪つけて犬みたいな格好で町中散歩させんぞゴラァ」
「………………!」
ガクガクと小刻みに震えている。
というかちょっとやりすぎたかもしれん。またこいつ勝手に水溜まりを作ってやがる。
「お、おおお、覚えてなさいよこの田舎童貞!あたしに歯向かったこと後悔させてやるんだからぁ!」
お前は絵本に出てくる悪い魔女かなんかかよ、捨て台詞まで丁寧に言って帰りやがって。
「おうおうさせてくれさせてくれ。その時はお返しにてめぇをまたチビらせて今度こそ街中に晒してやるから」
いやぁ、本当何だったんだろうなあいつ。
結局今日もチビってるし。泣いて逃げてるし。
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