≪最終章―役立たず、決戦―≫(後編)
「――ハァ、ハァ、何とか防ぎきれたようじゃな」
「ひ、ひぃっ!?ス、スバルあんたこれ!」
爆発が収まった時、辺りには何もなかった。
それは比喩でもなんでもなく、うっそうと茂っていた森の木々も、岩や川までもが完全になくなっていた。
幸いかなり後ろに陣取っていた本陣には届いていなかったが、王都から南に少し行った森に半径500メールの大きな半球型の穴が生まれた。
「お、俺に言われても……!」
「あ、あんた以外誰に言うのよ!いくら何でもやりすぎでしょうが!」
「静かにせい。レヴィアタン、やはりお主もしつこいの。しつこい女は嫌われるというのを知らんのか?」
ソフィアさんの言葉の意味が一瞬理解できなかった。
ここまでやったんだぞ。それにレヴィって――。
「いやいや、まさかこんなことになってるなんてさ。僕も用事が終わって一段落したし覗きに来たけど来てよかったね」
爆発の中心地、ボロボロになったアダムの前に、傷一つないレヴィが立っていた。
「なっ、レヴィ!あんたどうして!」
「やっ、アリサ!元気してた?さっきぶりだね!」
どこまでも飄々とした、つかみどころのない話し方。そして美しい青い髪に見慣れた仮面、レヴィだ。
「いやぁ、まさかアダムをここまで追い込むなんて予想外も良い所だよ。まぁ転移魔法を上から書き換えるなんて芸当初見殺しも良い所だし仕方ないっちゃ仕方ないけど、それでも君たちすごいよね。アダムじゃないけどさ、そういうことされるとこっちも燃えるよね。次はもうこうはいかないよ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!どうしてだ!今回はイヴだって遠ざけたんだ!耐えられるはずがない!」
そのためにここまでやったんだ。なのに。
「この仮面はさ。先代魔王がイヴと同じように僕に与えてくれた仮面なんだよね。で、魔王様が与えてくれた物には特徴があって、膨大な魔力と引き換えに様々な効果を発揮することができるの♪」
そう話すレヴィは、まるで大切な宝物を愛でる無邪気な子供の様だった。
「イヴは知っての通り。で、僕のこの仮面はあらゆる外部からの干渉を完全に遮断することができる。そんなわけで今回僕とアダムは無事にスバル君の何だっけ、えーと、『すーぱーのばーーー』だっけ?ぷぷぷっ……を耐えたってぷぷぷぷ、わけさ」
「スバル、あんためちゃくちゃ笑われてるわよ。いや、あたしも流石にちょっと引いたけど」
「なんだよ!いいだろ別に!魔力の大きさは気分なんだろ!」
いきなり笑いものにされてしまった。
だけど今、あいつそれと同時にとんでもないことをさらっと言ったような気がするんだけど。
「随分と厄介な能力じゃの。300年前には教えてくれなんだが?」
「そりゃそうでしょ。勇者は魔王様とアダムに付きっ切りで、僕と遊んでくれたのは残り物のソフィアたちだよ?魔王様ったらいつも自分基準で考えていたからね、どれもすごい能力だけどさっき言った通り燃費最悪でさ。今まで使うタイミングなかったんだよ」
と、バッサリである。
しかしそれにはアリサが反応した。
「へぇ、言ってくれんじゃない、レヴィ。さっきあたしの時にも使わなかったけどそれも同じってわけ?」
「そ、そんなわけないじゃん!怒んないでよアリサ!正直舐めてたけど当たってからめちゃくちゃ後悔したんだから!」
「あっそ。今更言われても説得力ないわよ」
なんて軽い調子で話している。
というかあれ?何で二人ともそんなに仲良さそうなの?おかしくない?
「まぁそんな訳でアダムは貰って行くね。今日は概ね目的も達成できたし、新しい友達にも出会えたし僕は満足かな。じゃあね、スバル、アリサ」
「はん、勝手に言ってなさい。あんたが師匠を殺そうとする限り、あたしがあんたを殺すわ」
「ならそうなる前に僕が君を殺してあげる……♪」
そうしてレヴィは転移魔法の光の中に消えていった。
前言撤回、二人ともめちゃくちゃ仲悪い。表面だけだ、表面だけ仲良さそうにしているだけだ。
「随分仲が良さそうじゃな、アリサ」
「そうですね、あいつが師匠の靴を舐めてから世界中の迷惑かけた人にお詫びしに行く旅でも始めるなら友達になれそうです」
なんてハードルの高さだろうか。それ最早希望ないじゃん。
と、思ったのだがソフィアさんは随分と複雑な顔をしている。
「はぁ……ワシはお前が心配じゃ。アリサ」
「あっ、あたしは別にっ!それにあいつは師匠のことを恨んでいるんでしょう?だったらあたしの敵です」
その時のアリサの表情がなぜかぎこちなく見えたのは俺の気のせいだろうか。
「スバル、お主もお主じゃ。そんなになって」
「あ、いや、どうせ魔法で何とかなるかなって、つい」
「つい、ではないわ
「な、なんかごめんなさい……。で、でもやっぱり魔法でどうにかなるんですよね?って言うか今ソフィアさん弟子って!」
「そ。そうですよ師匠!あたし嫌ですよ!?こんな奴の姉弟子なんて!」
「この国の王の前で宣言してしもうたしな。ふん、未熟者同士仲良くするのじゃな」
「そんな!師匠ぉ!」
いや、きっと気のせいだ。だってこんなにもアリサが笑っているのだから。
やっぱり彼女には笑顔がよく似合う。
「あん?何よあんたあたしの顔なんてじっと見て」
「いや、やっぱアリサには笑顔が似合うな―って」
「は、はぁっ!?あ、ああああんた何言ってんのよいきなり!」
「え?何って――っ!」
言ってから気が付いた。俺はなんて恥ずかしいことを素面で言ってんだ。
これじゃさっきの時の方がまだいくらかマシだ。
マズい、アリサに今度こそ殺される。
「もう、ほんっと信じらんないっ!」
「ア、アリサ?」
いつまで経っても拳や魔法が飛んでこない。
これはまさかそんなことをする価値すらないってことか?
ってアリサが完全にそっぽ向いてる!?
「ごめん!ごめんアリサ!俺が悪かったから!機嫌直してくれぇぇぇ!」
「うっさい!引っ付くな!」
「ほれ、こんなに仲が良いのじゃ。上手くやって行けるじゃろ」
ソフィアさんだけがそれを見ながら笑っていたのであった。
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